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痛いの痛いの飛んでけよ、早く

あの、プラシーボ効果の代表と致しまして、「痛いの痛いの飛んでいけ!」という、とんでもなくパワーを秘めた魔法の言葉ってのが日本にはありまして。

膝から血を流して泣き叫ぶ子供を見ると親御さん達はすかさず魔法使いになり、いざとなったらコレ!的な最後の砦を吐きながら、膝から誰かしらターゲットに痛みを「移す」訳ですが、、、

移された方はイテテテテ!!!
とオーバーリアクションで子供を笑いへと持っていく小芝居を打たなければならないという、少々面倒臭くもあり、これぞ愛情と言いたくもなるドラマがそこにはあります。

わたし、事故りましてね。
(数年前のお話です)

自転車で。

右のブレーキが甘いな…
と思いつつ、ま、いっか。の、「ま」くらいで
左から狂ったように走ってきた白人の自転車に突っ込まれまして、体ごと砂利の多い小汚い道路に投げ飛ばされたんですが、相手はどうやら直ぐに立ち上がり
「ま、こんなこともあるさっ」
ケ・セラ・セラ♪みたいなノリで去っていったんですよ、倒れた私を残して。

その光景を私は事故現場のチョークで囲われたうつ伏せ状態のまま気配で読み取り、極わずかに光が差し込む腕と顔とアスファルトの隙間から、

「痛いの痛いのアイツに飛んでけ、なんなら末代まで呪ってやれ」

くらいの祈りを捧げ、擦り切れたレギンスを見なかった事にして曲がった自転車にまたがり、家へと泣きながら帰ったんです。

もう、なんていうか、
うぉぉぉお!!!
みたいな
おりゃゃぁぁ!!
みたいな、今までに無い怒りとシャーっと擦り切れた皮膚への愛しさと、切なさをペダルにぶつけ、篠原涼子でも後ろに乗っけてたら心強さもプラスされるのに、なんて思いながら、せっせと帰宅した訳です。

大人になっての生傷なんて、酔った勢いでタトゥー入れたレベルの損害で、肉体的にも精神的にもレギンス的にもボロボロになりながらも、とりあえずシャワーを浴びることに。

でもその前に軽くググッた。
膝に傷が残ったら絶対に絶対に絶対に嫌だったから。

そしたらね、たまげたよ、私は。

つい昨日まで、みんな歯を食いしばってマキロンぶっ掛けてたくせに「消毒すんな」とか書いてあった。
患部を水で洗い、乾かさないようにワセリン等を塗り、毎日ガーゼを取り替える。浸出液が出てくるのはOK。臭くなるけどOK。

ふーん。

とりあえず了解して裸になると、膝だけでなく肩や腕なんかも殺られてて、さっきまでアドレナリンで泥酔していた身体も血が滲んだ傷を見た途端、ビンタ食らったみたいに一瞬にして我に返った。

シラフではシャワーの蛇口捻るのも怖すぎて、アドレナリンもう1杯おかわりしたかった。

シャワーの圧を最小限にし、赤ちゃんにスープあげる時みたく、負傷してない方の手で何度も確認しながらいざ傷口へ。

イッ..…

針がささるような痛みに怖気ずく膝。
たちまち、ぬるま湯をかけた所から鼓動を感じた。
心臓が膝に移動したっぽい。
ジンジンが止まらない。
やんなっちゃうぐらい、すんごい痛い。

痛いの、痛いの、全然、飛んでかない。
飛んでくどころかヘリみたいにホバリングしてやがる。

お情け程度にシャワーを浴び、傷の手当に取り掛かった。医療費が激高なアメリカでは必須の救急箱。今まで貯めてきた薬の数々は、小さい方の玉手箱くらいの効力を秘めている。

ヒーヒー言いながら、時にぶっ壊れてヘラヘラしながら、傷んだ患部にワセリンを塗ってガーゼ、ラップを巻いてみた。
何ともふざけた見た目だ。
動く度ラップがシャカシャカしてウザイ。
痛いけど、我慢だ、我慢。

チッ、くそーー!!!
あの野郎、おぼえとけよ!!

こうして、1週間が過ぎた。

浸出液とワセリンが混ざり、酸味の効いた何とも言えない臭いがするようになった。治っている証拠らしい。

そして1ヶ月根性で乗り切った頃には、傷も大分目立たなくなり、えぐれた箇所も正常な皮膚まで追い付いて、最終的には怪我した場所すらも分からなくなった。

マキロン、敗れたり。

そして今はジムでステーションバイクを漕ぎまくっている私です。理由はね、いつかあの野郎に出くわしたらブッ殺、あ、いや、健康のためです。

本当です。

そして健康といえば、わたくし、SANAを語らずして始まらないのがスペイン語なんですよ。
スペイン語でSANA、健康という意味で、無事を伝える時も使うんです。

そう、事故って泣いたくせにね。ケッ

実はスペイン語にも「痛いの痛いの飛んでいけ」と同じ様なおまじないが存在します。
しかも私が幾度となく登場するの。カエルと共に。

Sana sana colita de rana
Si no sanas hoy Sanarás mañana

サナ サナ カエルのシッポ
今日治らなかったら
明日になれば治る

こんなんじゃ、子供、一生笑わない。や、カエルじゃなくて、トカゲじゃね?という違和感だけを残して終わるおまじない。

2番もあるらしいです。

そして、こちら
Estoy sana y salva
このフレーズは、女性が「大丈夫!」と伝える時に使います。

という訳で、奇跡の生還を果たした「もう大丈夫!」の私は、今日から サナ・プラシーボ に改名でもしようかなと思う次第でございます。

皆様、いくら私が健康だからと言って痛いの痛いのを送って来ないようにお願い致します。

てか、こんなバカ言ってる場合じゃなかった。仕事の残りやるわ。クビ切られたら、どのおまじないでも治らないからね、またね!

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