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003.春が雪になったはなし

仕事で担当している広報誌の廃刊が決まった。
今の課に異動して4年、ずっと携わってきた業務だったから、思い入れも名残惜しさも人一倍ある。
いつだって時代の波には抗えないのがくやしいね。

3か月に一度のペース発刊してきた冊子の数は16冊と、決して多くはない。だけど、そのどれもに忘れられないエピソードがあって。
あるときは、大事な会議の写真データを削除してしまって、真っ青になりながらSEに復旧してもらったり。またあるときは、コロナで取材に行けなくてページを埋めるのに唸ってみたり。

最初から何もかもが上手くいったわけじゃなくて、ゼロから少しずつ形にしていく。その中で出会った人たちと築いてきた信頼関係がすごく好きだった。


そんな大トリを飾る取材は、レシピページのための撮影。記事にするときは、基本的に依頼先に原稿を書いていただいて、それをもとに撮影に伺うスタイル。
レシピを書いてくれるのは、カフェを営業してる栄養士の先生なんだけど、この先生もまた一癖ある感じの人で。前任から担当変わったばかりの頃は、こちらの言い分を上手く伝えられなくてバチバチやってたのが懐かしい。
写真が撮れないと、試食も帰ることもできなくて割と必死だったな。
今となっては、撮影後もコーヒー飲みながら世間話するくらいになったんだから、なかなかな進歩だね。


そうして迎えた撮影日当日。
朝、出勤すると机の上に貼ってある一枚の付箋が目に止まった。前日、時間休をもらって少し早めに上がらせてもらってたから、その間に何か急ぎの用事でもあったのか。
付箋の内容はというと、先生に折り返し連絡してほしいとのこと。

文字の感じからして、おそらく先輩だな〜と思って聞いてみると、


「そうそう、サワラなかったらしいわ」
と笑いながら一言。


どうやら昨日、わたしが帰った後に先生から電話があったらしい。予想打にしなかった言葉に、こちらも思わず吹き出してしまった。
だって、いまだかつてないんだもの。「サワラない」連絡。ノーサワラ。アイミスユー。メイン食材がないとかどう考えても新しすぎる展開。


とはいえ、取材当日。
普段だったら取材日を変更したりもできるんだけど、この日に限って公用車が出払ってる関係でレンタカーを借りていて、できれば今日撮ってしまいたい!という状況。
取材時間も迫っているし、とりあえず電話してみると、先生からは「タラならあるんやけどねぇ」とのお返事。


タラ。サワラ。タラ。サワラ。


どちらも同じ白身魚。味も割と淡白なところが似てる。
しかも今回のレシピはホイル包み焼だから、たっぷりの野菜とレモンで魚はほとんど見えなくなる、はず。


脳内でもう一人のわたしが瞬時に導き出した答えは、「どっちで作っても誰も分からんやろ!」でした。
大丈夫、世の中って案外そんなもの。


急遽タラに変更して作っていただくようお願いして、急ピッチで撮影へGO。


タラで作るとレモンバターがしつこくなくて
結果的に良きでした🙆‍♀️


春が雪になったけど、最後までハプニング続きなのはそれはそれでわたしらしいのかなとも思ったり。

終わった後に、「最後が〇〇(わたし)さんでよかったわ〜」って言ってもらえて、ほろりときたことは胸の中に大事にしまっておこうと思います。わたしも最後が先生でよかったよ。


さてさて。
そんなわけで、最後の広報誌も無事に入稿されたのでご褒美の旅へ行ってきます!





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