𝕪𝕠𝕣𝕚

リィンカネゆづひなSSの倉庫です

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最近の記事

 ひらひらと、桃色の何かが鼻先を掠めた。  見上げると、そこには一際大きな桜……のような木が一本、石畳を粉々に砕いて堂々と立っていた。あれは、俺の知っている桜と同じ花なのだろうか。三歩ほど後ろから、桜だ、と明るい声が聞こえきた。 「ゆづ、行ってみよう」  後ろにいた声はあっという間に俺を追い越して踊るように螺旋階段を登っていく。木に近づくにつれて、散っていく花びらの量が増えてきた。側を流れる小さな川からは、静かな空間にせせらぎも響かせている。  綺麗だね、と二人してその木

    • ピアノの発表会

       ――あれだけ練習したんだ、きっと大丈夫。  遠くのピアノの音が響くたび、自分の鼓動も早くなっていく。今日のために両親が用意してくれた真っ新なワンピース。早く袖を通したいとこの日を待ち遠しくしていたのは昨日までで、今日は上手く眠れず目元に薄らクマも浮かんでいた。  そわそわしている姿を見て両親は必死に励ましてくれたが、私は弱々しい笑顔で大丈夫、と答えることしかできなかった。じゃあね、と家族と別れると、舞台袖に用意された椅子に座る。周りを見ると、自分と同じ気持ちの子たちが出番