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父と 煙草と 君との思い出

去年の春。煙草を吸い始めた。

というより恋人と付き合っていた期間
やめていたという方が正しいかもしれない。

別れ話をした。あの日の帰り道。
足はまっすぐコンビニに向かっていた。
煙草の棚を横目にレジに並ぶ。
あの銘柄を探すのに時間がかかる。
「〇〇番 1つ下さい」
見慣れた久しぶりの箱。
煙草を吸っている時間は寂しさを忘れられる。


初めて煙草を口にしたのは、いつだっただろう。



毎朝 パパはおいしそうに たばこを吸う。
本に煙をかけながらコーヒーを飲んでいる。
カチカチと聞こえてくるライターの音が好きだった。

憧れと好奇心を抱き煙草を1本くすねる。
塾帰りの夜の公園。21時頃。
中学生の自分が大好きな時間帯。
理科の実験中 こっそりポッケに入れた
四隅が凹んだマッチ箱と
ティッシュで巻いたたばこを取り出す。

たばこを口に挟む。火をつける。
むせる。目が染みる。
僕は煙草を捨てた。
全然いいものじゃなかった。
パパはなんでおいしそうに たばこを吸えるんだろう。

憧れが求めていた答えとは、全くの別物だった。


毎朝 父さんはうまそうに タバコを吸う。
本に煙をかけながらコーヒーを飲んでいる。
カチカチと聞こえてくるライターの音がうるさい。

悔しさと虚無感から煙草を1箱買う。
予備校帰りの夜の公園。23時頃。
浪人生の自分が無心でいられる時間帯。
昼間 RedBullと一緒に買ったライターと
握りつぶした箱からタバコを取り出す。

タバコを咥える。火をつける。
煙を吹く。目が乾く。
僕は煙草を噛んだ。
自分はいったい何をやってるんだろう。

悔しさを忘れるには、全然足りない物だった。


毎朝 父は煙草を吸う。
本に煙をかけながらコーヒーを飲んでいる。
カチカチと聞こえてくるライターの音。

寂しさと喪失感から煙草を1箱買う。
デート帰りの夜の公園。25時頃。
社会人の自分がため息をつく時間帯。
さっき ブラックコーヒと共に買ったライターと
買ったばかりの箱から煙草を取り出す。

煙草を咥える。火をつける。
煙を吐く。目が熱い。
僕は煙草を吸った。
君はいま何を考えているのだろう。

寂しさを埋めるには、程よい物だった。


「付き合おう」
最初のデートで言った。
頷いてくれた時、嬉しくて涙が溢れた。
心が破裂しそうだった。
浪人生の時に吸い始めた煙草を、君を想ってやめた。


「別れよう」
最後のデートで言われた。
頷いた時、辛くて涙が溢れた。
心が無くなってしまいそうだった。
大学生の時にやめた煙草を、君を想って吸い始めた。


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