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ああ、もう

 通勤には電車を使っていて、今朝は途中から乗ってきた親子連れが私の近くに位置した。お母さんと、私立幼稚園(たぶん)の制服を着た女の子と男の子、女の子のほうがお姉ちゃんのようだった。
 乗ってきた瞬間から騒がしかった。ひとりの女の人が席を譲り、そこに男の子を座らせ、お母さんと女の子は立っている。女の子が男の子にちょっかいを出すなどしていて、やかましい。女の子が男の子を突っついたり叩いたりし、男の子がイヤがって文句をたれ、お母さんが女の子を小突いて叱る、それの繰り返し。じゃまくさいなあ。
 とにかくふたりともじっとしていない。身体をゆすり、何やかやと言い立てて騒ぎ(耳にイヤフォンを突っ込んで音楽を流していたから「$&▽@=%!!?」みたいにきこえた)、男の子は足をぶらぶらさせ周りの色んなもの(座席下、人の荷物、人の脚)を蹴りまくる。なんだっていうんだよ、もう。
 この親子とは15分ほど乗り合わせた。こんなのは躾のされていない猿と変わらない(つまりふつう一般の猿)。朝からやれやれといった感じだった。

 このあいだは、近所の幼なじみの家のおかあちゃんに用事があって寄ったとき、そこにおかあちゃんチの孫がいた。3歳だったかそのくらいの男の子、レイ(仮名)だ。おかあちゃんと喋っていたらレイが来て、おかあちゃんが「ほら、つかさだよ、挨拶しな」(おかあちゃんはもと江戸っ子である)と言うと「なーんだ、またつかさかあ」と言ってあっちへいった。口の利き方に問題がある。
 「あっち」には、幼なじみの幼なじみ(ややこしいな)の女の人がいて、保育士だかなんだかというのでとても上手にレイと遊んであげていた。あとでレイがおかあちゃんと私のところにきて、恐竜について絵本を広げてあれこれと教えてくれた(レイとしてはは教えているつもり)が、何言ってるんだかわかんないし退屈だ。ひとつもおもしろくない。私は子どもとうまく遊べない。

 あと子どもと言えば、朝から電車の乗り場まで歩いていく道中で、3メートルくらい前を女の子が歩いていた。私立の小学校の制服を着ていて、ランドセルには黄色いカバーをしてあったから1年生だろう。道のわきに水神様がお祀りしてある場所があって、女の子がそこでくるりと水神様のほうを向いて、手を合わせておじぎをしていた。これは、すごくいい光景だった。

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 私は別に子どもがとくにキライだというわけではない。多くのそこら辺の大人に対するのと同じように、好ましく感じる場合もあるし、舌打ちしたくなる場合もあるというだけだ。うちの姪や甥なんていうのだって見ているとおもしろいところもあるし、まあ、かわいいほうだ(ずっといると飽きるけど)。
 ときどき、子どもを見れば無条件に「かわいい~!」などとはしゃぐ人がいるけれど、ああいうのを見るとふしぎで仕方ない。その子がほんとうにかわいいかどうかなんて、見た目だけでは判断できんだろう、とおもう。まあ、人のすることだからどうでもいいようなことだけど。

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 うちの父は子どもたちが騒ぐのを嫌った。たぶんもともと子どもが好きではなかったんだとおもう。いま考えると、我々(つまり自分の子ども)への興味や関心も薄かったのではないか。だけれども、お行儀という点ではわりと口うるさく躾けられたと記憶している。
 家族で外食をする場合にはファミリーレストランのような場所を嫌がり、後輩が働いているステーキハウスとか、先輩がやってる近所のおじさんばかりの定食屋とか、気に入ったすし屋にときどき連れて行くとか、そういう家族連れがあまりいない、騒がしくない場所を選んでいた。
 ちょっと記憶があいまいだけれど、うちの店(喫茶店だった)と自宅のあいだの、ビルの2階にあった『basement』という名(2階なのにね)のビリヤードバーなんかにもたまに連れて行ってくれた。そこはバーだから照明がすごく暗くて、落ち着いた音楽が控えめな音で鳴っていて、何やら大人たちが楽し気に遊ぶ場所。子どもだった私にはなんだか特別な場所におもえた。こんな店にだって、行儀よくしていなければ、連れて行ってくれたりはしなかっただろう。私はしょっちゅう両親の店で長い時間を過ごしていたけれど、そもそも騒がしかったら店にも居させてくれなかっただろうともおもう。

 静かだからとか、大人しいからいい子ども、というわけではもちろんない。こういう日々の鍛錬(?)のおかげで、私は表情も薄く平たくなってしまい、チビのころから今に至るまでいったいどれだけの人に「何を考えているかわからない」と言われたことだろう。「機嫌がわるいのか?」とおもわれるようなこともしょっちゅうだ。そういうことはぜんぜんないんだけれどね。

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 それにしたって、今朝の子猿たちには参った。私は電車で靴や脚を蹴られるのが嫌いなことベスト10にふたつ入るんだぜ。

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 トップ画像はスケートボードを選ぶ甥の後ろ姿と兄の手。


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