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窓辺のミント

 2015年の8月末に亡くなった方が持ってきた、ミント。亡くなったと聞いたあと、このミントを持ってきてくれた日のことを思い出して涙が出た。

 父親になついて、よくお店に来てくれるようになっていたその人は、お花の仕事をしていた。実家が花屋で、店舗の生け花などが担当だった。毎週月曜日、家族所有の土地(山)でとってきた季節のものをもって、いくつかのお客さんのところで仕事をしていた。

 ちょっと見づらいけど、写真に写っている階段をおりてうちの店に向かう姿を窓からよく見た。にこっと笑って手を振る。

 東京で暮らしていたときの色んな話をしてくれたり、離れて暮らす息子のことなども話題に出た。アウトローっぽい、ふしぎな人で、独特の魅力をもっていた。

 息子とイタリア旅行に行くんだと話していた。旅行から戻って、しばらくぶりに会ったとき、お土産と言ってチョコレートを持ってきてくれた。

 ときどきはお花を手にお店にきて、わたしにくれた。「ほら、いい香りがするよ」。これはレモンマリーゴールド、と名前を言う。「この実は熟れたら食べられるよ。美容にいいからね」と言って、ぐべを置いていく。「あそこの山吹、狂い咲きだね」。目線の先に八重の、かわいらしい色の山吹が見えた。

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 お店に来なかった週のあと、ちょっと日が経ってから父親からメールが来た。

 「Hくんおととい亡くなったって」

 びっくりして、わけがわからなかった。事情を聞いても、お葬式のあとも、数年たった今も、わけがわからない。とてもさみしい。

 「緑紗ちゃん、マスターのあと継いでよ」とよく言っていたな。また会いたいな。お花の話、もっとしたかったな。

 冒頭のミントは、しばらくしたら枯れてしまった。

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