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地球の小道具

地球が自転と公転を繰り返す
くしゃみをする毎に風景が変わっていく
五感に酔い潰れて練り歩くのが夢だった


陽が出る前に目が覚めてしまった
君が起きないようにそっと暇をつぶす
障子を空けてしまった

愛すべき人が呼んでいる
君は、頬を桜色に染めて透き通る雪色の手を上にあげた
今年は可愛く出来たよっ、と採りたてのラズベリーを摘んで笑顔を見せた
春の光に当たる君の伏し目がなんとも美しくて見惚れてしまう
美しい ウツクシイ

山に登って草花を摘む ハーブティーを作る 
露に濡れる葉が背伸びをするようにぴんと張っている
小さく笑った君の声が耳に残る
草花が吐き出す酸素にでもなりたい
美しい ウツクシイ

ハーブティーを作ったがどう君に声を掛けるべきなのか分からない
漂う匂いといつもより甲高い君の声に密かに心を躍らせた
君の顔を湿らせる湯気にでもなりたい
幸せ シアワセ

君が目を輝かせて褒めてくれる
自分の顔が緩んだのがわかった
君が大切に育てたベリーで作られたタルトはとても美味しかった
守りたい マモリタイ

君とお風呂に入った
君は僕の膨らむ腹筋を触って、優しいと褒めた
君は僕を見透かしているようだ
君の溶けそうな白いうなじに続く小さな背中に目が眩みそうになった
愛しい イトシイ

君に怒られた 
障子に穴を開けたことがバレてしまった
君の怒り顔は少し寂しそうである
やめようと思った
ほんのちょっとシャンプーの匂いが残って胸の奥が騒いだ
愛しい イトシイ

君と2人で星を眺めた
何億光年も先の星を近くに感じるのは何故だろう
雲に懐かしい匂いを感じるのは何故だろう
君が僕に寄り掛かってすぅすぅと寝息を立て始めている
嬉しい ウレシイ

君の同じ布団に入った
君は僕のことをどうにか抱きしめようだがガタイが違いすぎたようだ
僕はそっと君の後頭部に手を回す
安心感が僕を襲う
優しい ヤサシイ

日差しが僕を起こそうとしてくる 
なんて表現するのだろう
君に聞いたらなんて答えるだろう
なんて教えてくれるのだろう
教えて オシエテ



遠くの町で君と出会った
君は多くの表現と感情を教えてくれた
どうかこの日々が続きますように


また地球が自転と公転を繰り返す
地球がくしゃみをする毎に             僕らはそっと消えてしまう
そしてまたそっと生まれる
忘れ去られる畑の小道具のようでもいい
僕らは地球の小道具で良い

君とこの星の上でそっと息が出来ればそれでいい


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