見出し画像

【読んでみた】白い病

9歳です。

コロナ禍でアルベール=カミュの傑作『ペスト』に再度注目が集まった。同じく、感染症の流行を背景に、社会情勢に苦言を呈した戯曲がある。

カレル=チャペックの『白い病』

あらすじ

舞台は戦争の足音が近づく1930年代。ペストの恐怖が残るヨーロッパの一角で、白い病がパンデミックを起こしていた。皮膚に白い斑点ができ、次第に腐り、死に至る病。50代以上の大人にのみ感染するのが特徴だった。
天才医師ガレーンは、白い病の特効薬を開発する。貧しい病人にはタダで治療を施していた。一方で、軍事産業に従事する人や金持ちの治療は全て断った。平和を望むガレーンは、戦争の準備に大金を投じる政府に対して、「周辺国と和平条約を締結すること」を条件に、特効薬の作り方を開示すると約束した。政府は、これに応じず、戦争の準備を続けた。
白い病は金持ちや上級国民にも差別なく襲いかかる。軍のトップである元帥もついにこの病に罹った。元帥は数十年かけて準備してきた戦争を、やすやすと休止させる決断がつかない。
平和主義者ガレーンと愛国主義者の元帥の、自身の正義を盾にとった駆け引きが繰り広げられる。

特効薬を盾にとって平和を求める医師ガレーン。軍国主義に傾倒し、戦うことで国に富をもたらす元帥。感染症を背景に、両者の対立からみる正義のぶつかり合い。

時代背景から見て、第二次世界大戦前のドイツを彷彿とさせる。患者のうち、上級国民にはモルヒネがふんだんに投与され、貧民は臭い消ししか処方されない。これも当時の階級差や貧富の差を表している。

身分や裕福さに関係なく襲いかかる感染症は、富裕層を恐怖のどん底に沈めるのに充分だった。パン屋も武器商人も大臣も等しく伝染る。

健康は金で買えない、とは格言だと思う。東大卒のあの子も、年収1000万円のあの人も、そしてニートの僕も、平等に感染症にかかるリスクがある。紙幣も身分も人間が作ったものに過ぎず、ウイルスにとってはなんの意味も持たない。

また、年代の格差にも注目していた。50代以上にしか伝染らない病を、若者は気にとめない。むしろ年寄りが死んで、ポストを明け渡してくれるのを虎視眈々と狙う様が描かれていた。

コロナ禍にバタバタと倒れる高齢者を嘲笑う言葉“Boomer Remover”がトレンド入りしたように、年代間の溝は広がっている。年金や医療費の問題からも読み取れるように、得する世代と損する世代には埋められない隔たりがある。


1930年代に初刊が発行されたとは思えないほど、同じような境遇に2021年の僕は思いを馳せる。ぜひ『白い病』拝読を。そしてコロナが開けたら、舞台で見たい。

この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?