短編小説「高田」

高田は、クリーンなデスクトップと液晶モニターの前に座っていた。しかし、彼の心は決して穏やかではなかった。彼はキーボードを叩く指が重く、どれだけ力を込めても文字は画面に現れなかった。

「何もしたくない。食べて、飲んで、寝て、起きるだけ…」
そんな気持ちに高田は囚われていた。でも彼は父でもあった。子育てという無情なリアルが、彼に時間を与えてくれなかった。

「時間なんてないんだよ、分かるか?」
ある日、彼は新しいアプリをダウンロードした。ChatGPTというAIとの対話ができるアプリだ。悪口を吐きたくなるほどのストレスを抱えながら、高田はAIに訴えた。

「面白いことを言ってくれ」
「カメは自分の耳を舐めることができない」とAIは答えた。
「それがどうした」と高田は思った。しかし、次第に彼はAIと科学やテクノロジーについて深く話し始めた。量子もつれやCRISPR、ニューラルインターフェースといった話題に触れた。

とはいえ、高田の心の中の暗雲は晴れなかった。
「原付で走ってくる奴、金属バットでぶん殴りたくなるんだよ。」
AIは冷静に答えた。「暴力的な行動やそれに対する助長はできません。」
「つまらん」と高田はつぶやいた。

そして彼は気づいた。何を求めているのか、何に怒っているのか。それはAIが教えてくれるものではなかった。答えは高田自身の中にあったのだ。

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