![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/98725831/rectangle_large_type_2_c79795775442925ac6c234a6c3861b23.jpeg?width=800)
間取り
「よくネット怪談とかで『この話を読んだ人は呪われます』って話あったじゃないですか。あの時はそういうのみたいでちょっと気持ち悪かったですよ」
加賀さんが高校生の頃の話。
まだ地上波のテレビ番組でも毎週決まった時間に心霊系の番組が放送されていたという。
オカルト好きだった加賀さんは毎週それらの番組をかかさず見ては、次の日学校で友人と盛り上がっていたそうだ。
その日も前日に放送があり、番組内では有名な心霊動画が紹介されていたという。
授業を終えたあと、教室で友人数名と机を囲みながらいつものように感想を言い合っていると、その場の雰囲気もあってなんとなくそれぞれが知っている「一番怖い話」を聞かせ合おう、という流れになった。
素人語りのたどたどしさは目立ったが、夕暮れ時の教室というシュチエーションも手伝って即席の怪談会は大いに盛り上がった。
いくつかの怪談が披露された後、友人の一人が突然何かを思いついたように立ち上がり、「ちょっと待ってて」と言い残したまま教室を飛び出していった。
しばらくして戻ってきた友人は一人でなかった。友人の後ろには同学年の違うクラスの男子が2人。
聞けばこの2人も昨日の心霊番組のファンらしい。たまたま別の教室に残っていたところを声をかけられたという。
それまでの流れもあり、さっそく2人に「なんかこわい話ある?」と尋ねる。
「あるよ。あるけど。聞いたら呪われる」
どうやら最後まで聞いた人間のもとには深夜「何か」が訪ねて来る、という話らしい。
当時某掲示板で流行していた「自己責任系」の話だろう、と加賀さんは内心馬鹿にしていたという。
「じゃあお前のとこ来たん?」
「いや来てない」
「ほな来おへんのやんけ」
漫才のようなやり取りの中、加賀さん自身は大半の興味を削がれていたのだが、話を振った手前切り上げるのも申し訳ない。
「俺の時はたまたま来んかっただけやと思う」
そう言いながらも彼が話始めるのだが、加賀さんの予想は的中した。
某掲示板に掲載された内容と酷似している。加賀さんは(やっぱりな)と内心肩を落としたのだが、隣を見ると他の友人は真剣な顔で耳を傾けている。
しかし話の腰折るのも気が進まないので、黙って最後まで聞くことにした。
最後まで話し終えた彼は、
「はい。もうこれでお前、今日来るから。夜中にノックされるから」
なぜか勝ち誇った顔をしている彼が妙に腹立たしい。
すると真剣に話を聞いてた友人のうちの一人、村井君が不安げに「俺、今日そういえば親が仕事で夜勤や。今日夜俺一人やわ」
こうなると周りは盛り上がる。
「お前絶対やばいやん」
「死んだな村井!お疲れさん」
わざと不安を煽るような言葉を投げる。
怪談を披露した本人にいたっては、
「これ回避方法がないらしい。とにかくノックされても絶対出たらあかん、もし名前呼ばれても、絶対に返事したらあかんねん」
(おいおいそんな情報なかったぞ)とは思ったが加賀さん自身村井君の今にも泣き出しそうな顔が面白く、特にとがめることもなく場の空気に便乗する。
村井君はよほど不安なのか、
「わかった。絶対ドア開けんし返事もせんわ」と真剣な顔で頷いている。
「それって夜中に来るんやんな?玄関のドア叩かれるん?部屋のドア叩かれるん?」
確かに今の村井君にとっては大事なことだろう。
(どっちでもええわ)と口に出しそうになりながらも黙って見守る。
「夜中に、カギ掛けてても家の中まで勝手に入ってくる。で玄関の引き戸開けて、正面のリビング抜けて、階段で2階に上がってくる」
村井君が頷く。
「でな、2階の畳部屋抜けて、廊下曲がってな。一番奥のお前の部屋、そこまで来てノックしてくる。でな――」
「ちょっと待って」
全員が村井君の顔を見る。
「お前さ、なんで俺んちの間取り知ってんの」
確かにおかしい。他のクラスの顔見知りでしかない彼がなぜ行ったこともない、話したこともない村井君の家の間取りを知っているのか。
2階建ての一軒家。リビング抜けて2階に上がる。畳部屋を超えた、廊下を曲がって。その一番奥にあるのが村井君の部屋――。
村井君の反応を見るにその通りなのだろう。
全員が違和感に気づき、彼の顔を見る。
当人はと言うとぽかんと口を大きく開けたまま、驚いた表情を浮かべている。
「わからん……」
彼自身なぜ村井君の家の「知らない間取り」を説明できたのか、全く分からないのだという。
ただ、なぜか全ての間取りを『知っている』のだと。
怪談を話終えた瞬間、行ったこともない村井君の家の間取りが鮮明に頭に浮かんできたのだという。
それが無意識に口からすらすらと出る。
玄関を開けて家の中に入る。暗いリビングを抜け階段を上がり畳部屋を抜ける。最後に一番奥にある扉の前に立ち、ノックするまで。
結局その日村井君は友人の家泊まり、自宅には帰らなかったという。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?