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もやもや

外猫に餌をやるつもりはなかったのだが、家にきているヘルパーさんが猫好きで(八匹も飼っている)外猫に(ウチの猫の)餌を鷲掴みにして与えてしまった。
最初は白い小さな猫から始まり、餌のやる頻度や量もエスカレートして、
なんだか近所の猫が複数頭家の外で時間になると餌を待っているという状況になってきた。
家の猫たちは外猫の動向に反応し、それまではなかったスプレー行動だとか常同行動(ストレスで同じ動作を繰り返す)が見られるようになり、良いことなど一つもないのだが、一度やり始めたら、やめられないので続けている。当該ヘルパーさんは家の外にいる黒猫(写真の猫)を特に可愛がっており、家にくると庭にまず座り込んでその猫をしばらく可愛がっている。

ヘルパーさんというのは、介護保険で来てもらっているので、目的は
介護と生活援助なのだが、猫の生活援助が3割、介護が6割、その他が1割といった具合で、猫に関して言えば、負担が増える一方(経済的にも時間的にも)なのである。時々「なにしにきているんですか」「ヘルパーさんは介護家族の生活を楽にするために来ているはずなのに、負担を増やすなんてどういうことですか。」と
喉元まででかかるが
このヘルパーさんが介護も料理も上手で仕事ができる人なので文句が言えない。気難しい父親のケアをなんなくこなし、怒らせないでサクサクと入浴や身辺介護を済ませる手際の良さ。



そういうわけでこの人が家に来るようになってからなんと三匹も猫が増え、
続々と外にも猫があつまり いろんな猫風景が見られる猫屋敷が完成されつつある。

そのうちの一匹が写真の猫

白黒の猫を自動的に「はっちゃん(ハチワレ)」と呼ぶ習慣のあるヘルパーさんはこの猫をはっちゃんと呼んでいる。
私は「クロクロ」と呼んでいたが、いい命名が思い浮かばない。

昨年から餌をやり始め、性別不明だったが1月頃雄猫と旅に出ているのを目撃し、仔猫を産んだらたいへんということになり、避妊去勢手術を受けることになった。
その点、このヘルパーさんは積極的に動いてくれ、獣医さんまで連れていってくれた。問題はそのあとである。
手術後、早速外へ帰したいのだが、
「まだ傷が癒えないので家のなかでみてやってね」
から始まり
「そのうち一緒に洗いましょうね」とか言い出す。

「いや、この子は外にずっと住んでいたんだから、外の方が向いているんじゃないかな」

「それだったら、里親を探すのでそれまで家の中に置いてください」

外で冬の間散々面倒をみてきた(冬支度のために外猫小屋を3回以上改装した)自分にしてみれば、愛着があるし、猫だって住み慣れた環境からいきなり離されるのも不幸なのではないか。それは猫権(猫だから猫権 人なら人権)にもとるのではないか。外には彼氏(猫)もいるし。

どこまで厚かましいんだと思うのだが言えない。

猫は家の中の居心地が悪いみたいで、同じ部屋にずっといる(ほとんど子猫の時代から家猫として暮らしてきた先住猫メンバーとそりがあわない)ので双方に気を遣い、寝床を移動しながら寝起きする生活をしばらくして

ようやく他の先住猫と同じ空間にいても猫パンチ(この子はパンチだけでなくひっかくので始末がわるい)の喧嘩にならず、奇妙な同居がなりたちつつある。

ある日、足元にぴったりよりそって寝ている姿をみて
「この子はこれまでこんなに安心して寝たことがあるのだろうか」と
思い、情が湧いて(いままで以上に)
「やっぱり外に出さずに家の中で見てやった方がいいのかな」とも思う。

介護中の母親は、そんな私をみていて
「あの猫、家の中で飼うの」と訝しげにしていたのに

そのうち
「あの もやもや(もやもやした毛なので)はどうしているの」
とか言い出したので、
猫が多くなりすぎて肝心の介護がままならない状況になりつつあることに
罪悪感を感じていた私は救われたような気がして逆にウケてしまった。
「もやもや・・(笑)たしかにもやもやしてるね」

母親はたたみかけるように
「もくもく」

「ははは、もやもや、もくもく。ぴったりだね。」

猫が家の中にいることを納得していないが、家の中に猫がいることを(家族に)許してほしいという奇妙なアンビバレンツの世界を漂っている私には思わぬ助け舟のような気がした。

それから、その猫については
「あのもやもやはどうしてる?」
「あのもくもく」
「あのもしゃもしゃ」


「も」から始まるあらゆるオノマトペがしっくりくるのはどういうわけなのか?という言語学的(それほど大仰なことでもないが)な考察を思い浮かべつつ その存在が家の中にある不思議を 毎日 目の当たりにし

どうして、こうして猫好きな人たち(保護活動などをしている人たち)は、猫に生活の大部分を捧げてしまう人生を送りがちになり、なおかつ 人にもそれを強要しがちになるのかという問いの答えが今なお 判らないことにもやもやをかかえつつ、生活をしている。

今日のもやもや

しつらえた場所で素直に寝る。


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