いち愛好家のショートショート『おなかのはじまり』

生まれただけでは、おなかは、はじまらない。

だから、おなかのない人が、この星には多い。
胸から下、腰の上のところが、がらん胴。
食べた物は、胸のところで砂になり、
腰へと、砂時計の砂のように栄養が落ちてゆく。
風が吹くと大変。腰へ落ちずに、体の外へ飛散してしまう。
だから、人には服が欠かせない。

あ。ここに、今から、おなかをはじめる、小さな子どもがいるよ。

子どもは、天使。なので、上半身は裸。

この子の、腹は黒い。
そして、奥行きが無限に広がる。
まるで宇宙。

肉眼を望遠鏡にして、腹を見ると、
紫や青の色を放つ小さな渦が、あちらこちらに見受けられる。
ひとつひとつが、銀河系だ。
宇宙は天然エネルギーの宝庫。
つまり、おなかそのものが栄養源。
食べ物を口にしなくてもいい。
風で砂を飛ばされる心配がない。
服を着ないわけだ。

ギュリ、ギュリギュリ。

突然、音を立てたおなかは、おへそのところにブラックホールを生んだ。
そして、そのブラックホールに、
宇宙は、水洗トイレの水のように、
左回りの渦に吸い込まれてしまった。およそ八分の一ほど。

ちょうど今、天使は、神さまになった。
そして、世界中から、悩み・難題が届いたところだ。
この子も、そのストレスにやられてしまったと思われる。

まさか、ブラックホールが、神さまのげりを流すためにあったとはね。

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