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何も持たずに生まれた人

特殊な能力を持って生まれた人たちがいる。
いいなあとずっと思ってきた。ふつうの人には無い特別な力。多くの人を惹きつけ大切にしてもらえる。
だがなんと苦しみがあるらしい。いつも特別扱いをされてるけど、自分に対してではなくて、特殊な能力を大事にしてもらっているだけだ。それがつらいと。何も持たずに生まれていれば、自分自身とつながってくれる人と出会えたかもしれない。けど、今はもう難しいと。
似たような特殊能力を持っている人たちの集まりにいくのがラクらしい。いちばん自分が薄まっていて、いちばん自分らしさを感じる。特別扱いされることに慣れてしまった罪悪感のある人たちだから、平坦な扱いを受けることを好む。他の誰でも無い自分になって、他の誰とでも取り替えがきくようになりがたがる。それが心地良い。

何も持たずに生まれ、何も身に付けずに年を重ねる人がいる。
いいなあ・・・とずっと思ってきた。なんて人間らしいのだろう。ただ生まれ、時間が流れ、ただ老いていく。何も持っていないから、何も持っていない人に安心感を与え、いつも笑顔に囲まれている。だが人生が苦しいと言うのだ。時間だけが過ぎてしまい、使いみちのない人間だと。誰かに役立つ能力もないし、努力することもできない。不安が膨らんでいるのに、あきらめの気持ちが強すぎて何もやらない自分が苦しいらしい。今さら新しいことに挑戦するのはもう遅すぎるんだ、と。
似たような人たちは周りにいるが、関わりたくないらしい。まるで鏡を見ているようで苦しくなるから。何かの物語に浸っているときがいちばん幸せ。情熱、挑戦、仲間、勇気、裏切り・・・物語のなかは人生を生きる意味をくれる。何かを持って生まれていれば、きっと生きることができた人生。でもわかってる。何かを持って生まれていても、今と変わらないだろうと。誰かの物語に浸ってしまえば関係ない。心地いい。

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