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M&A取引における売り手側は契約書を作るな_M&A法務百科>企業法務大百科

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社五十田珈琲 社長 五十田 紀里(いそだ きり、27歳)

相談内容: 
先生、聞いてください、ようやく、会社売却のめどが立ったんです。
これで私もやっと好きな演劇の世界に戻れます。
先生もご存じのとおり、父に勘当された後、劇団員として楽しい毎日を過ごしていたんですが、ある日、突然、父の会社を継ぐことになってしまいました。
以来、右も左も分からず会社を切り盛りさせられ、過労死寸前の毎日でした。
会社経営なんて早く辞めたかったですし、どこか会社を買ってくれるところがあれば早く売り払って、好きな演劇だけして暮らしたいと思っていたところ、専務の叔父がコーヒー専門店のチェーン展開をしている取引先の社長と共同で、M&Aという形で事業を継承してくれることになりました。
契約も含めた細かい処理は、取引先社長の知人のコンサルタントの方が全部やってくれるみたいです。
税務的な確認も終わり、M&A資金の融資の準備も整ったということで、コンサルタントの方が契約書の案を送ってくださいました。
それがこれなんです。
A4で2枚のこれです。
恐らくコンサルタントの方が適当に書かれたものなんですが、素人目に見てもどうも言葉遣いが法律的でないような気がしますし、大体、契約書のボリュームが少ないのが気になります。
M&Aって言うと、ほら、フツー、もっとたくさんのページの契約書になるはずでしょ。
こんなペラペラの契約書じゃ、なんか不安で。
先生のお力で、もっときちんとした契約書を作ってほしいんですよ。
お願いできますか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:欧米流契約文化の浸透と契約書のボリュームアップ化
日本の産業界では、ついこの前まで、どんなに大きな取引でも欧米流の分厚い契約書は嫌がられ、
「信頼関係」
という日本独特の美風と伝統に基づく、簡素な(と言うか法的にほとんど意味のない)契約書による取引(あるいは契約書すらあえて作らない取引)が尊ばれてきました。
また、
「契約書に想定しないような状況や契約文書の解釈に相違が生じた場合は、トップ同士酒食を共にして仲良く話し合い、それでもダメなら業界の顔役や監督官庁の指導で、解決を先延ばしにするなり適当に手打ちをする」
というやり方が支配的で、弁護士に依頼して裁判で徹底して自己の主張を展開するなんて下品なことはまず行なわれませんでした。
ところが、市場が縮小し業界内競争が熾烈化するとともに、
「規制緩和」
の流れの中で役所も業界のリーダーも業界内秩序維持の役割を放棄するようになりました。
さらに、・・・(以下、略)

以下、ご興味のある方は、

をご高覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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