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中島美嘉・DAISHI DANCE・川畑要のリリース作で、COLDFEETの音楽を満喫したい!

 中島美嘉の1枚目のアルバム「TRUE」から、最新アルバム「JOKER」まで、彼女の楽曲制作において、長きに渡って関わり続けるCOLDFEET。ボーカルとベースの2人組で、この編成も異色だ。同じ編成で他にパッと思いつくのはZweiだけ。Dreams Come Trueもいるが、こちらは当初3人組でスタートしたのが、2人組にならざるを得ない背景があったので、事情が違うか。

 女性ボーカリストのLori Fineは、自らのユニット・COLDFEETを持ちながら、SPEED・hiroのソロ活動、さらに安室奈美恵やTRFなど、他のアーティストへの楽曲提供も行い、福富幸宏やDJ KAWASAKIなど、他のプロデューサーによる作品での客演ボーカリストとしても引く手数多である。

 自らのオリジナルによる自己表現に他者とのセッション、どちらも自由自在。確かなテクニックに裏打ちされた歌唱力と神秘的なルックスの両面でもリスナーを魅了する。そう、なんでも持っている感じまでしてしまう。これが僕のLori Fineに対する印象だ。

 男性ベーシストのWatusiは演奏とプログラミングを手掛ける。スタジオでの制作活動はもちろん、過去には音楽雑誌で制作ノウハウについての連載も行い、単行本化にも至った(リットーミュージック社発行・『DAWトラック・メイキング』)。

 最近の彼は、インターネット音楽配信においてDJが原盤権の問題をクリアできるよう尽力している最中で、一定の成果を見せている。コロナ禍で逆境に立つ音楽界に、光を灯した。また、新曲の制作においても、小室哲哉(TM NETWORK)・SUGIZO(X JAPAN,LUNA SEA)・Zeebraといった興味深い面々とのコラボレーションを画策中だ。


 それでは、そんなCOLDFEETの作品を早速鑑賞していこう。


中島美嘉「SEVEN」

 まずは中島美嘉のシングルから。作曲・編曲をCOLDFEET が担当している。鍵盤のリズム・パターンが僕の好きな弾き方。こういう付点音符を多用する奏法には本当に目がない。

 サビの主旋律も、頭はインパクトの強いフレーズの繰り返しで、僕の心を即座に捕らえる。でも、その後はキャッチーなままでは終わらない。アクセントを裏拍に置いたり、音程も出だしのフレーズを継承しつつ、予測できないとこへあちこち飛んだり、みるみるうちに複雑な展開になる。歌い終わりの渋い締め方もコクが深い。つくづく良い曲だなと感じるね。

 これは一度聴いたらもうお腹いっぱい!とはならないね。何度でも聴きたくなってしまう。この、一聴しただけですぐ好きになれるポイントと、何度聴いても飽きないポイントを両立させるのは難しい。この楽曲はそのバランスが絶妙だ。

 それからCDのジャケット写真も最高。中島美嘉の歴代シングルのジャケットを一望してみても、僕は「SEVEN」が一番好きだ。光の使い方が鮮やかで目を引く。なにより被写体が素晴らしいからね。これは今更言うまでもないかな。元々が良い素材な上に、作り込めば作り込むほど鋭いエッジのクールな写真が出来上がる。

 映画「NANA」で演じた役柄のような、すましたイメージが彼女にはピッタリ。カメラマンも中島美嘉とならワクワクする仕事ができるんじゃないだろうか。


nonsugarless「LET LIFE LOOSE」

 続いては2000年代中頃の日本のクラブ・シーンを賑わせたプロデューサー・DAISHI DANCEの作品。Lori Fineが客演ボーカリストで参加している。このころは日本のハウスやクラブジャズ界隈の盛り上がりがアツかった。TVには一切登場しないアーティストでも、新譜の発売日には店頭でCDが山積みになっていたり、次から次へと数多くのコンピレーション盤がリリースされたものだ。

 僕も出されるものは漏れなく欲しくなってしまうものの、リリースのペースに懐事情が追いつかなかった。どれを買うかではなく、どれを買わないか。それを収録曲とにらめっこしながら店内で悶々と悩み、商品を棚から出したり戻したりを繰り返していたものだ。

 クラブ・ミュージックの良い作品は、ダンスフロアで聴いてこそ、100%のポテンシャルを発揮するということになりがち。その作品で盛り上がる前から、現場では同じジャンルの音楽がかかり続けていて、お酒も入って体も動かしながら、リスナーがそこに漂う良い雰囲気に乗っているからこそ、最高潮に達するというもの。聴く時と場を選ぶのだ。

 この前提もないままに、クラブ・ミュージックをまったく知らないリスナーが何の脈絡もなく、このジャンルのコアな部分に突然触れても、頭の中は「?」マークだけに終わることも、よくある話。そういう中でもDAISHI DANCEは、一般のポップスに混ざっても楽しんで聴けるクラブ・ミュージックを生み出してきたと思う。彼の作品には、このジャンルを知らないリスナー層への良い入口になるものが多数ある。

 まずはLori Fineの歌唱による、本家のオリジナル版を聴いていただきたい(2006年発売のアルバム「the P.I.A.N.O set」に収録)。この時代のクラブ・シーンには疎いけれど、小室哲哉が1989年にリリースしたアルバム「Digitalian is eating breakfast」を愛聴していたという方には、特にオススメ。どことなく相通じるエッセンスを感じる!という方もいるのではないだろうか。

 この度は珍しいカバーが見つかった。nonsugarlessによる、こちらの動画をピックアップ。ボーカリストの熱い歌唱は聴かせる要素たっぷりだ。さらにこの曲を、楽器隊も含め人力での生演奏で披露というのが驚きだ。こういう動画にはなかなかお目にかかれない。

 


川畑要「I'm Proud」

 最後は華原朋美のヒット曲の、川畑要(Chemistry)によるカバー作。2014年発売のアルバム「ON THE WAY HOME」に収録。編曲をCOLDFEETが担当している。

 自らの発案によるメロディーなら、それをどのように装飾するのかも自然と思い浮かぶものだろう。だが、他の作曲家のメロディーとなると、やはり勝手が違うのではないだろうか。それも言わずと知れた、小室哲哉による周知の大ヒット曲だ。既にオリジナルの強い色がついてしまっているので、未発表の新曲を手掛けるときと同じようにはいくまい。

 このアレンジはダンス・ミュージックの流れも汲んでいる。Bメロでの「愛すること誇れる誰かに」から「会えなさそうで」へ移行する際のベースの特徴的な動き方。このわずか2音の中に、COLDFEET流アレンジのおいしさのエキスがギッシリ詰まっている。

 サビ始まりの歌いだしも、「いつも探し続けてた」から「どうしてあんなに夢が」に移る際にブレイクが設けてあり、オリジナル版に耳慣れている僕でもハッとさせられた。COLDFEETのアレンジを聴けば、リスナーの意表を突く手法のヒントが得られるだろう。

 男性ボーカリストにとっては、なかなか手を出しづらい楽曲だろう。男性が華原朋美の歌い方をそっくりそのままトレースしても、サマになるはずがない。原曲ファンの期待を裏切らず、かつ自分らしさで勝負しなければならないのだ。そんじょそこらの歌唱力では、コケるのは録る前からたやすく察しがついてしまう。このテイクを聴くと、さすがは川畑要だと感じさせられる。


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