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声優が歌う、小室哲哉作品

 90年代に数々の名曲を生み出した、稀代のヒット・メイカー・小室哲哉。その作品は20数年経過した今もなお、脈々と歌い継がれている。今回は、近年リリースされたカバー曲のうち、声優によって歌われたものをピックアップしてみよう。アニメやゲームを契機にこれらを聴いている若い世代には、親世代のときに流行したオリジナル版がどのようなものだったのか知って欲しい。また、オリジナル版の発売当時を知るリスナーには、これらの楽曲が現在どのように姿形を変えて表現されているのかを体験していただきたい。一人の作曲家の作品を通して、世代間の距離がグッと縮まったら素敵なことだ。

内田彩『Don't wanna cry』(オリジナル歌手・安室奈美恵)

 昨年末リリースされたEP『COVER~ROOTS~』から、安室奈美恵のヒット曲のカバーをピックアップ。筆者はこの作品を発売前から把握していて、頭から曲順通りに鑑賞したわけではない。他の楽曲を検索で探す過程で、偶然にも彼女の歌うglobeのカバー『FACE』が目に留まり、その後にこのEPの全貌を知ることになった。なので、EPの収録順とは違い、先に鑑賞したのが『FACE』、その後『Don't wanna cry』である。

 『FACE』のカバーではオリジナル歌手のKEIKOよりも更に高いキーで歌っていて、かなり驚いた。じゃあこの曲も相当キーを上げてくるのだろうか。こんな風に、前もって驚く準備をしておいてから再生したのだが、こちらはオリジナル・キーに沿って制作したようだ。楽曲の尺についても、最初にリリースされた8cm CDシングルには含まれていない、中盤のパート「遠くても地図にない場所も~」も、しっかり再現してある。

 オリジナル版のヒットをリアルタイムで体感した身としては、ずいぶんスリムなアレンジに変わったなと思う。安室奈美恵のバージョンは踊る前提で制作されているので、ハネるリズムの打楽器音が結構な割合で空間を支配している。それに対して、本作はリズムよりもハーモニーの方がズン!と伝わってくる印象だ。

 2コーラス目の後の間奏で、楽曲の進行に急ブレーキをかけるようなアレンジは、大きな聴きどころだ。もしこの曲をステージで実際に披露するとなると、この部分で見せ場を作ろうと思ったら、音が止まる場面がくるまではボーカリストは動き続けておかなければならない。そこで伴奏に合わせてタイミング良く動きを止められるかどうかが、ステージングの鍵となるだろう。

 終盤の転調してキーを上げた後に現れる、「Because baby I don't wanna cry」でのユニークな効果音も聴いていて楽しいポイント!オリジナル歌手の安室奈美恵のバッキングに使われることは、あまり想像できない音色。だが内田彩のチャーミングな魅力に彩りを添えるには、適したサウンドではないだろうか。

内田彩のカバー作

安室奈美恵によるオリジナル版


Lynx Eyes『Love again』(オリジナル歌手・globe)

 今年リリースされたばかりのシングル『#ALL FRIENDS』に、globeのカバーがカップリング曲として収録された。オリジナル版は、シングルの売上枚数としては突出した数字ではない。しかし同日発売のアルバムがミリオン・セラーを記録した。ユニットとして既に十分な知名度がある状態で、同じ日に同じ場所で、同じ曲が店頭に並んでいたら、ファンとしてはシングルよりも曲数の多いアルバムの方を手に取るのが自然だろう。『Love again』については、こういう背景があるので、アルバムの売上にも注目しておいていただきたい。

 主旋律を担うRaychellは、先の内田彩とは違い、まずは歌手としてキャリアを始め、後に声優業が加わる形となった。筆者は最初、この経緯を知らずに鑑賞したので、「ずいぶん歌のうまい声優だなあ。これは歌手としても十分やっていける」という、なんとも見当違いな感想を持ってしまったものだ。

 Raychellはそもそも本職が歌手で、活動の幅を広げるために声優にもチャレンジしている、と見る向きが正しかろう。歌はうまくて当然!といったところか。まあ予備知識が何もない状態で、アーティスト名の前に「CV~」という表記を見かけたら、声優と思ってしまうよね。

 カバー版のサウンドはオリジナルの後に生まれたEDMというジャンルの特徴を反映。派手なアレンジに生まれ変わった。存在感が強くて極太な音色で奏でられる、動きの激しいリフは聴きごたえ満点。ダンスフロアでかかったら、思わずハンズアップでアツくなること間違いなしだ。

 Lynx Eyesはまだレパートリーが少ない。ピークタイムで場に落とし込む曲は既にあるが、フロアにまだ人がまばらな状況から、次第に熱量を上げて『Love again』を投入できるまでに繋げられる曲が、いずれ必要になってくるだろう。

Lynx Eyesのカバー作

globeによるオリジナル版


速水ヒロ『masquerade』(オリジナル歌手・TRF)

 TRFのヒット曲を、声優・前野智昭がキャラクター名義の速水ヒロとして、男性ボーカルでカバーした作品。2019年リリースの『KING OF PRIZM RUSH SONG COLLECTION -STAR MASQUERADE-』に収録された。男性ファンには、カラオケの題材として格好の音源がリリースされた。娯楽なんだし楽しく歌えれば、細かいことを気にする必要はない!とは言うものの、店内での歌唱を録音して後から聴き返す楽しみ方も普及してきている。筆者は異性曲の録音を自分で聴いて、なんだか煮え切らない思いをした経験がある。女性ボーカルものは他のユーザーの録音を聴いて楽しむだけに留めておいたのが、これなら自ら違和感なく歌えるのだ。とてもありがたい。

 第一興商のDAM★ともに話を限定するが、こちらのカバーはカラオケ伴奏のクオリティーも高く、実際に利用してみて実に気分良く歌えた。自分が日頃聴いている音源とカラオケ伴奏のギャップが大きくて、大好きな曲のはずなのに、イマイチ歌が楽しめなかった!という経験のある方は多いだろう。だが、この速水ヒロのバージョンではそんな心配はいらない。

 他社の伴奏については、あまり利用しないのでよく分からない。どんな感じなんだろうか。

 カラオケ好きな男性のTRFファンの方は、KING OF PRIZM関連の楽曲を漁ってみていただきたい。カラオケライフが楽しくなること間違いなしだ。

速水ヒロのカバー作

TRFによるオリジナル版


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