「海と山」
僅かに聞こえた女性の叫ぶ声。
どうせ聞き間違いだ、と自分を無理やり納得させてまた夢へと向かう。
それから少し経った頃だろうか。
カーテンから映える白い光に顔を照らされ、静かに目を覚ます。
気付いたら僕は壁に背をもたれかけて、眠りに落ちていた様だ。
眠気に遮られて少しの間気付かなかったが、何やら騒がしい。
女性の叫び声と何か関係があるのだろうか。
そう思った瞬間、僕の部屋に神様が血相を抱えて飛び込んで来た。
「さ、ささ、佐藤くん!た、大変なんじゃ!そそ、その、う、海幸くんと山幸くんが!」
昨日までの神様とは思えないくらいの慌て振りに、事の大きさが分かった僕はすぐに一階へ下りる。
階段を下りてすぐの所に、膝から崩れ落ちて大泣きする峰尾さん。
その峰尾さんを扇状に囲んで、血を抜いた様な青白い顔をしているその他諸々。
そして、峰尾さんの四メートル程先に乱雑に横たわる小さい人の姿が二つ。
さくらんぼのプリントが施された白いTシャツは赤に染まっていた。
頭が強く鳴り響く。
痛みに瞼を閉じると、そこに映し出されたのは崖の上に立ち、海に視線を向けている岡田。
刺さる痛みと嫌な記憶を振り払う様に、頭を左右に揺さぶるが何も変わらない。
渾身の力を振り絞って瞼を開けると、目の前には視線を伏せる岡田。
岡田はほんの一瞬、笑みを浮かべた様に見えた。