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『大学ラグビー指導者』という『職業』〜止まない部員への暴力に処方箋はあるか〜

1.これは犯罪行為です

朝から目を覆いたくなる写真を見てしまった。

日大ラグビー部ヘッドコーチの部員への暴力

考えてみて欲しい。むりやり楊枝を人の頭に何本も突き刺す、これは犯罪だ。許される余地は全くない。

なぜこのような事件が後をたたないのか。これは氷山の一角で、大学体育会の中には相変わらず理不尽な上下関係を原因とする暴力が多数存在する。

2.母校のコーチとは⁉️

『母校の監督から教えに来ないかという誘いも受けています』

今年は新リーグを見据えてか、ベテラン選手の大量退団が目立つ。バレット、レイドロー等超有名選手への報酬を支払う分だけ、誰かにやめてもらう、組織としては当然の判断だ。

webや雑誌で退団する選手の記事はよく読んでいる。気になるのは上記の台詞だ。

これはどういう待遇での誘いなのだろう。

引退して社業専念、という選手は会社の『兼業禁止』というルールを守る必要がある。副業を認める会社も増えてきたが、トップリーグ所属の企業は副業を認めているのだろうか。

引退を機に実家を継いだり、事業を興す選手もいるだろう。日大アメフト部で問題を起こしたコーチは実家の事業を手伝っていた。

比較的裕福な家庭の師弟も多いラグビー界、引退後フリーターのままでいられる選手もいるだろう。

3.社員選手ではなく選手社員⁉️

そもそも、この『母校の指導を手伝ってくれ』という言葉は、引退した選手には朗報だ。

彼らはラグビーをするために入社した社員選手であり、あくまで社業は副次的なものだった。ところが引退後は『社員』として容赦なくその能力を問われることになる。もともと会社は

『社員選手』ではなく『選手社員』として採用している。一貫して企業が求めるものは『会社の存在意義を高める一員であること』だ。ラグビーを辞めた以上は、他の一般採用の社員と区別する必要はない。

率直に言って、エリート大学ラグビー選手は、社業自体の内容よりラグビーチームの気風や強さで会社を選ぶだろう。ギリギリ入れそうな大学生はとにかくラグビーをさせてもらえる会社に入るだろう。

引退後、彼らの前に横たわる現実はあまりに重い。性格的に、あるいは能力的に、社業をこなせない部員は少なくないはずだ。

そんな状況の中、かつてヒーローだった母校への指導は心の拠り所になる。トップリーガーなら後輩に伝えられることは沢山ある。

しかし、

若い世代に伝えるからには『責任』がひつようだ。特にラグビーのスキルはそれ自体学生の将来に関わる。

4.プロならいいの⁉️

一体、大学ラグビーの指導はどこまでプロ化が進んでいるのか。

プロは結果が問われ、それに見合った報酬を手に入れる。全てに責任が問われる

しかし問題は複雑だ。必ずしもプロがいいとは言えない。

目先の勝利に目を奪われて部員をモノのように扱い暴力を振るう指導者は過去にいくらでもいた。

それならよほどボランティア的指導者の方が良い、という意見もあるだろう。指導が生活の糧、となれば綺麗事ではすまないことも増える。とにかく勝たなければならないからだ。

しかし、そのラグビーへの熱意だけをいただく、という待遇だと、その場限りのいい加減な指導になる危険も孕む。結果責任を問われない指導ほど楽なものはないからだ。

5.ラグビー選手のセカンドキャリア教育を

結局この問題の根源はどこにあるのか。

一つ考えられるのは、大学ラグビー界の指導の日常が外部に可視化されていない事だ。隠蔽が平気でまかり通ることに問題がある。

今回の問題で監督は『解任すると彼の将来に関わると思った』と話している。ラグビーは企業スポーツだ。野球やサッカーより『清廉潔白さ』が強く求められる。そしてコーチの職自体も数が少ない。そう考えると、

ラグビー選手のセカンドキャリアの貧困さ

が問題の根源にあるかに思う。

体育会それ自体の体質の問題は言うまでもない。下級生をモノのように扱う日本の負の文化、どうやって断ち切れるか、中高の部活動も含めて考え直す時期に来ている。

企業スポーツ、といえば『安定』とイコールになっている気がするが、本当にそうだろうか。もちろん引退後いきなり無職になる野球やサッカーに比べればはるかに安定している。しかしサラリーマンになる事が向いていない選手も多いはずだ。

やはり新リーグに向けて選手は今からセカンドキャリアへの意識を向ける事が必要だろう。

同時に、『母校への指導』を希望する選手達には現役時代から何らかの統一した研修が必要ではないか。そして、各大学へ指導者の待遇の透明化を求める事も大切だ。

『責任』

次世代のラガーマンを健全に育てる責任

ラグビー界はこの責任の重さにもっと意識を持つべきだ。


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