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関東大学ラグビー 明治対帝京 初心者プチ観戦記

1.晩秋でも帽子は必需品

暑いのか、寒いのか、、それが問題だ。

カバンの中身を入れたり出したりしながら、『今日のバックスタンドは寒い!』と決め打ちして毛布を最後に放り込んだ。

11月22日 秩父宮ラグビー場

『我慢の三連休』というスローガン。

でも、政府から発表される前にチケットを取ってしまったのだから、と心で一応言い訳した。

渋谷駅はごった返していた。みんな私と同じ言い訳を繰り返しているはずだ。

外苑前駅からラグビー場へ。やはり販売席数が増えるとはこういうことか。人と人とのざわめきが増している。以前なら『活気がある』と表現するのだが。危ない、と感じる自分に嫌気がさす。

今日は一つずつ空けて席が割り振られていた。

ほぼ満席か。

メインスタンドを見て驚いた。

シマシマ なのだ。

紫紺のジャージを着込んだファンの波、その数以上に紫紺の小旗が揺れている。

大学ラグビーの盟主 明治大学

そのブランド力に改めて圧倒される。

空は快晴だ。

席について直ぐに、私は自分の予測が真っ向から外れた事を悟った。

暑い、しかも刺すような日差し!

この年齢で、直射日光を80分浴びるなんて自殺行為に等しい。

置いてきた帽子、やっぱり入れておけば良かった!

日差しの強さに早くもバテそうになったが、ここで選手が入場してきた。

あと80分、この日差しに耐えられるだろうか?

2.特別な存在

明治の選手が入場してくる。

テレビ観戦では決してわからない明治の人気。

拍手が地響きのように秩父宮を包み込んだ。

彼らは、はっきり言って、普通の大学生だ。プロアスリートでもなければ芸能人でもない。しかし、出てくるだけでこの盛り上がり。

やっぱり、明治って特別な存在なんだ。

改めて知る盟主の存在感。

帝京が続いて入ってきた。

復活を期す強豪。驚く程逞しい青年達がズラリと揃う。

いやいや、

この試合、始まる前からドキドキするなあ。

試合が始まった。

2.帝京ここにあり

指すような日差しは、必要以上にグラウンドの芝を輝かせていた。キックしたらボールは一瞬見えなくなりそうだ。

序盤は完全に帝京ペースだった。

速く強い的確なタックル。力任せでない丁寧な攻撃で明治の防御網を次々と破っていく。

明治は、帝京の攻撃スピードを読み切れないのか、とにかく自陣でボールを取り落とした。それがことごとく帝京のチャンスに結びつく。

圧巻は二つ目のトライだった。敵陣に攻め込む明治、右へやや大きく飛ばしたパスに、帝京13番が矢のように飛び込んだ。

インターセプト!

そのまま彼は一気に加速、明治は敵陣で呆然と佇むしかなかった。

このまま、帝京は一気に突き放すのか。

秩父宮にザワザワと不穏な雰囲気が漂い始めた。

そう、今日の秩父宮は

『紫紺のシマシマ』で占められている。

ヤジ禁止、と何度も注意喚起の放送が流れたが、もはやファンの本能なのだろう。あちこちから、大なり小なり明治を鼓舞する鋭い声が飛んだ。

今季4回目の秩父宮。

しかし、初めて経験する異質な空気が漂い始めた。

3.盟主は盟主なり

今日の帝京で悔やまれるのは、コンバージョンがほとんど決まらなかったことだ。5点と7点、たった2点だが、その積み上げがなかった事が明治に一息つかせてしまった感がある。

明治は一トライ返したが、すかさず4分後、帝京がトライを奪う。明治の息の根を止めるかのような3つ目のトライに、会場はどこか凍りついたようだった。

前半28分 明治対帝京  7-23

明治よ、どうする⁈

不思議なものだが、明治はこの直後、前半30分過ぎから別人のように15人が機能し始める。

32分、39分、明治 連続のトライ

観客席は、その度に唸るような拍手の波が起こった。

結局前半終了時には

明治対帝京 19対23

と『1トライで逆転』の僅差に詰め寄っていた。

後半は、開始早々4分に逆転のトライ。以降、明治が一方的に得点を重ねていった。

明治は、奇をてらった事をするわけではない。

強く、重く、相手を押し込み、

軽やかに、しかし、すがる相手を振り切りながら走る

前へ 前へ

剛と柔を併せ持つ明治の攻撃は、他に例えようもない正統派の美しさがある。

このラグビー場が紫紺のジャージで埋まる理由、それは生で見る事で、より鮮烈に伝わってきた。

明治は、後半、さらに二つのトライ、一つのPGを決めた。

試合終了

明治対帝京 39対23

明治は、『明治たること』を示してこの大事な試合を終えた。

ラグビー場には、心地よい高揚感が漂っていた。

4.手拍子が意味するもの

私は、その高揚感の波に乗りながらも、ある種の嫌悪感にも近い、やり切れなさを感じていた。

それは、後半の明治のスクラム。

ゴールラインは目の前。

私の後ろで、手拍子が聞こえた。

なにこれ?

驚きはそれからだった。

手拍子はその数をみるみる増して、会場を覆い尽くした。

まるで、大相撲で人気力士が立ち合い時間一杯になった時の、あの手拍子。

スクラムとリズムはおよそ合わないが、明治はその手拍子に後押しされるように、スクラムをグイグイ前に進めた。

こんな体験は今季初めてだった。

トライを決める度に、相手ボールを奪う度に、響き渡る拍手

それは

挑戦者の健闘を讃える拍手でもなく

強者への賞賛の拍手でもなく、

純粋に、明治を応援する拍手だった。

後半、完全に帝京はアウェーだった。

この雰囲気は、大学ラグビーのもう一つの姿だったのかもしれない。

新興勢力ながら圧倒的な一時代を築いた帝京

それは決して、常に暖かい視線で見守られるものではなかった。

彼らが今日まで、この世界で背負ってきたもの、

明治を応援するあの手拍子は、帝京が大学ラグビー界で背負う複雑な立ち位置を、図らずも私に教えてくれた。













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