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『紫紺のサムライ』剣を抜き『蒼き賢者』は策を練る(その4)〜関東大学ラグビー明治対筑波 初心者観戦記〜

1.賢者、侵掠火の如く

残すところあと15分。14点差

明治の強みを生かしたこのスクラムの波濤は、果たして、筑波を呑み込んでしまったのだろうか。

リスタート筑波のキック、これを明治がキャッチ。

しかし、この時筑波はこのボールに競っていた。結果、明治のペナルティー。

筑波はボールを出して敵陣深くに入った。

この時、時計は67分。

筑波ボールのラインアウト。

筑波スロアーがボールを頭の後ろに引いた、その瞬間の事だった。

ラインアウト先頭の筑波1番は後方に走った。

しかし、

ラインアウト3人目筑波5番の後ろに控えていた男

筑波20番が、全力で斜め左前方に駆け上がった!

走り出してからボールを受け取るまで約1秒、

受け取ってからゴールライン内に飛びこむまで約1秒。

後ろに走った筑波1番はダミーだったのだ、

明治10番は、筑波1番に釣られて彼を追いかけ、筑波20番に背を向けていた。

異変に気付いた明治2番は、後ろから飛びついたが間に合わなかった。

大外左にいた明治11番は、駆け寄るのが精一杯で何も出来なかった。

実況アナウンサーも解説の砂村さんも絶句した。

観客は誰も動けなかった。

電光石火

67分 筑波トライ

明治対筑波 26-17

驚愕のどよめきと称賛の拍手が会場を大きく包んだ。

筑波の選手達は、歓喜の雄叫びを上げつつ抱き合った。

背を向けた明治10番に僅かに寄せて走った、筑波20番のコース取りも絶妙だった。

そして彼こそ主演俳優賞だろう。堅い明治の防御網に穴を開けた男、

この試合、再三スクラムでペナルティーを取られた筑波1番、その全てを帳消しにする見事な役者振りだった。

2.秩父宮、雷電の如く、風雨の如く

筑波、コンバージョンも決まれば1トライ1ゴール差!

しかし、コンバージョンは失敗。点差は縮まらない。

会場の昂ぶる雰囲気が残る中、明治がリスタートのキックを蹴った。

筑波がキャッチ、左へ当たりながら前進を図る。ここで筑波9番がするりと抜けて前進、今度は右へ、筑波4番がまたも抜けボールを9番へ。

筑波は左へ右へまた左へ、とパスの方向を変えながら前進を続ける。ここで、筑波11番から6番にボールは渡り一気に加速、しかし、6番へサポートする選手がいない。

明治は2人がかりでボールに絡み、遂に筑波ペナルティー。

明治はピンチを脱しボールを出す。

今度は明治ボールのラインアウト。明治がキャッチし、左へ右へ速くボールを回していく。筑波は一度ディフェンスに失敗するも、すかさず複数で右方向を目指す明治の選手をタックル、前進を阻む。しかし明治もすぐ方向を左に変え、パスのリズムに緩急をつけながら大外左を目指す。

しかしボールを持つ明治13番に筑波が強烈なタックル、パスのタイミングがずれ、受け取った明治の選手がノックオン。

筑波ボールのスクラムに。

筑波は早めにボールを出して、速く左へ左へ、しかしここでパスのミス。ボールは地面に転がり何とか拾い上げるものの明治の強力ディフェンスに跳ね返され前進できない。

ここで筑波はキックで挽回を図るが、ボールは明治がキャッチ、筑波のタックル直前に大外右で待つ明治14番へパス。筑波に捕まると即ボールを左方向へ。明治13番から左で待つ4番に長いパスが通る。さらに大外左の明治6番へ。筑波はなんとか捕らえるが、ボールは右へ、右へ、

明治13番から11番をあえて飛ばして大外14番に長いパス!

右は前が空いている!

しかし、ここでレフリーの笛が鳴る。

明治スローフォワードのペナルティー

レフリーも、投げた13番児玉くんも思わず苦笑いを浮かべた。

筑波ボールのスクラムに。

すぐにボールは出て左へ。ここで明治のペナルティー、筑波はすぐ攻撃を始める。

時計は77分を回ろうとしていた。

筑波はボールを出し、筑波ボールのラインアウト。

これもサインプレーだったのだろうか。

筑波ラインアウト先頭がボールを受け即走り出した。しかし、明治はこれを阻止。筑波は当たりながら前進を図り、左へパス、ここで筑波の選手がボールをキャッチし損ね明治がボール奪取する。

明治ボールをキック、ここで筑波はボールの処理に手間取りボールは外に出てしまう。

筑波陣内で明治ボールのラインアウト

明治がこれをキャッチ、モールで押しながらボールを左へ。筑波はここに強いプレッシャーをかけボールを奪取、しかし、明治も負けじと強い圧をかけボールを再び獲得する。

ボールは左へ。筑波の強いプレッシャーにあいながらも明治は前進を図る。

筑波18番の選手が倒れて苦悶の表情を浮かべている。肩を痛めたのだろうか。

一度プレーは止まり、明治ポールのスクラムでリスタート。

スクラムを押す筑波に対して明治はボールをすぐ出して明治9番を走らせる。

そして13→8と繋ぐがここでノックオン。

時計は既に83分を回っている。

レフリーが『残りあと1分20秒』と正確な残り時間を伝えた。

筑波ボールのスクラム。筑波はすぐボールを出して右方向へ、そして左へ、しかし、ここで痛恨のノックオン!

アドバンテージを得た明治は、そのままボールを奪取して大きく右へ、右へ、

明治21番から13番へ、倒されるが23番が左へ、受けた8番がわずかに前進、

あと5メートル!

ボールは大きく左へ、そして長いパスが大外左20番へ通った。

前には誰もいなかった。

84分 明治トライ コンバージョン成功

明治対筑波 33-17 

ここでノーサイド。

死闘、といっていい。

明治の選手達は、何かに解放されたような笑顔を浮かべていた。

筑波の選手達は、、、全てをやり切ったのだろうか。笑顔は少ない、しかし、その顔はどこかスッキリとしていた。

スカイブルーの青年達は、帝京戦での反省をしっかり修正し、最後までそのエナジーが途切れることはなかった。彼らの試合運びは、まさに『賢者』と呼ぶにふさわしい知的な創造の連続だった。

そして明治。最後までトライへの執念を途切れさせることなく、銘『スキル&パワー』というべき剣を容赦なく振り下ろし続けた。

見えない血の海は、33-17という、結果としてダブルスコアに近い『快勝』として、私達の眼に映っていた。
















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