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ラグビーチームよ地域密着になってくれ〜女性ラグビーファンはファンになる理由を探している〜

1.日常はチームとともに

週末にプロバスケットボールBリーグを見た。ホームは広島、渋谷、富山、と地域は様々だが、どこも概ね大入りだ。客席に目を向けると、

明らかにバスケットの経験はなさそうな、かなりご年配のご婦人方

が、長袖Tシャツの上にバスケシャツを着ている。

東京の街中で、

バスケシャツを着たシニアのご婦人

に出会うことはない。新鮮な光景だった。

この方々がなぜ試合観戦していたのか。少なくとも『地元のチームだから応援に来た』というシンプルな動機があるだろう。東京は、野球だけで二つ、サッカーに至っては多すぎていくつあるかわからない。こんなプロスポーツに溢れた環境は地方にはない。地方における地元スポーツチームの存在感は、東京に住む私の想像を超えて、大きなものになりつつある、そう感じた。

週末にアリーナに集い、今は無理だが、以前はこの周辺で試合前後に楽しく飲み食いしながらチームや試合について語らい、週明けには会社や学校で試合の結果を話題にする。チームが日常生活の一部になっている、そんな風景。

『俺にはリバプールの血が流れてるんだ』

サッカープレミアリーグの取材記事には、しばしばこういう熱烈サポーターのオッさんが登場するが、ここまでいかないまでも、

『俺の、私の生活は、このバスケチームと共に回っている』と意識するファンは、年齢性別を超えて確実に増えているのだろう。

お隣ご近所、というコミュニティーが地方でも薄れた今、『地元スポーツチーム』が

地域のコミュニケーションの核

として日本各地で機能し始めている証ではないかと思う。

2.スポーツの地域密着

東京のベットタウン、多摩西部の中核都市立川市のお隣日野市は、

『トントントントン、日野の2トン』のCMで知られる『日野自動車

の城下町として知られている。この企業城下町に本拠地を置く、ラグビートップリーグ所属の

日野レッドドルフィンズ

は、トップリーグチーム中、唯一会社名を外した企業ラグビーチームだ。

ちなみに、サッカーJ2のジュビロ磐田の母体ヤマハのラグビーチームは、同じジュビロでもヤマハ発動機ジュビロであり、J1名古屋グランパスの母体トヨタのラグビーチームは、トヨタ自動車ヴェルブリッツと、企業名が必ず入っている。

 プロ野球は、『プロスポーツの老舗』特有のしがらみもあるのか、埼玉西武ライオンズ、北海道日本ハムファイターズなど、地名と企業名が併記されている。とはいえ、日ハムや千葉ロッテマリーンズ等、地域密着型に衣替えして人気が高まった球団は多い。

Jリーグ発足時の『スポーツの地域密着』という理念は、約三十年の時を経て、ようやく日本にも根を下ろしつつあるということか。私達も、企業名の入らないスポーツチームになんら違和感がなくなった。バレーボールと並んで企業スポーツの代表格といえるラグビーでも、『自動車』の文字のないこのチーム名を、ある種当然の事として受け入れている。

3、あなたは地元選手、私は地元市民

このコロナ渦で、試合はもちろん練習すら満足に出来なかった間、各ラグビーチームは様々な地域貢献活動を行ってきた。

例えば、ヤマハ、リコー、神戸製鋼は朝の通学路見守り運動を実施、前述の日野は街の清掃活動に参加している。地元住民にとって、彼らラグビー部員は

自分の子供の通学を守ってくれるお兄さん達、自分の街を一緒に綺麗にしてくれるお兄さん達、だ。

例えば清掃活動後、日野の部員と清掃活動に参加したシニア女性との間で、

『年明けから試合があるので見に来てください。』

『いつもありがとう。必ず行くわ』

こんな会話があっても不思議ではない。その女性は、目の前にいるたくましい好青年が、ラグビー日本代表候補なのか、ベテランで引退間近なのか、若手だがチームで出番が少なく悩んでいるのか、場合によっては名前すらわからない。

しかし、彼はこの地元チームに所属しているし、こうやって地域の生活向上にも貢献してくれている。しかも見るからにスポーツマン体型で素敵だわ!応援に行ってもいいな。

こういう感情を彼女が持つのは自然の流れだ。

4.ファンになる理由が乏しい女性ファン

ここでは、『ニワカかそうでないか』すなわち『いつからラグビーファンになったのか』ということは問題とならない。

彼女達の理由はただ一つ『彼は日野のチーム選手で私は日野市民だから』これに尽きる。

W杯前後、この『ニワカ』なる若干やさぐれた言葉が、新しいラグビーファンの代名詞として多用される様になった理由、それは、

各ラグビーチームが企業スポーツであるがゆえに、日本全国にありながら地域との関係を希薄にしてきた

ことが大きいのではないか。例え地元にラグビーチームがあっても、いくつもの人気スポーツがある中で、殊更にラグビーを選ぶ必然性がなかったのだ。特に女性は体育の授業で競技自体に触れる機会すらほとんどない。

『何故山に登るのですか』『そこに山があるからです。』

『なぜカープファンなんですか』『広島育ちじゃけん』

という、ファンになる当然の理由をラグビーにおいて女性は特に持つことができない。

となると、女性がファンになる必然性のないスポーツで、ファンを名乗るには理由を探す必要がある。

『ラグビー部でマネージャーしてました』『夫がラグビーファンで』

その理由の一つが『2019W杯でラグビーに魅了されて』なのだが、『ニワカ』という言葉が先行したせいで、この実に真っ当で自然な理由をもった女性が『なにそれ、いまさら(笑笑)』というニュアンスを含んだ一種侮蔑の対象になってしまった。

ここで不思議なのは、このニワカという言葉が専ら女性に向けられている、という現状だ。『ラグビーの精神は男は自然に理解できる』という偏った価値観が前提にある、そんな気がしている。

この『今更ファンを名乗り本当に申し訳ございません。今後しっかり勉強させていただきお仲間に入れていただければ』

などという姿勢を2019W杯女性ファンにいつまでも強要していたらどうなるか。このスポーツが再来年新リーグを発足させても、Jリーグを凌ぐどころかBリーグにも人気は及ばないだろう。

しかし、愚痴を言っても始まらない。

私達女性ファンは、今は肩を寄せ合い自らの不遇を慰めあいながら、

贔屓のチームが地域密着型になるのを待つか、地域密着型のチームのファンになるか、

おそらくそれがファンとしてあり続けられる唯一の方法だと思う。

地域密着型チームは、例え地域外の人間であっても『近所に引っ越してきたのね』みたいな感覚で人を受け入れる土壌ができている。ファンの裾野を広げたいのはどのチームも同じだからだ。

5.彼に必要な事は

いつの事だったか。

清掃活動に参加した日野の選手がTwitterで『自分は有名ではないから』というニュアンスの発言をしていた。

それは違う。

彼は『日野』の選手だからこそ、日野市の活動に参加する意味がある。彼に必要なものは

社会人としての礼儀正しさに加え、明るい『笑顔』、『試合を見に来てください』と口に出す勇気

それだけだ。

その笑顔と一言が、目の前の女性に『ラグビーファンになる』貴重なきっかけを与えてくれる。胸を張って『ラグビーファンです』と名乗り秩父宮に乗り込む理由を与えてくれる。

そして、この積み重ねが、自らの試合でラグビー場を満席にする一番確実な道だと思う。

















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