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行列のできるリモコン【毎週ショートショートnote】

都内某所。ここはリモコン店の激戦区だ。名店もひしめき合っている。

最後の地上波だったNHKが解体され、動画配信はすべてネットからとなった。力のあるアマゾンやNetflixなどはあらかじめスマートテレビのリモコンにボタンが用意されていたが、ニッチな番組ではそうもいかない。

最近はやりのリモコン店というのは客の好みの番組をリモコンに組み入れるカスタムがウリだった。好みを伝えただけで店主が素早くボタンにチャンネルを割り当てる。その精度が高いほど名店と言われ行列もできた。

僕はとうとうリモコン店に足を踏み入れる決心をした。実はこうした店というのは独自のルールやしきたりがあり初心者には敷居が高かったのだ。

店内でしゃべっただけで怒られるというのもあるが、それよりなによりカスタムのコールが複雑でよくわからない。僕はガイドを穴が開くほど読み込んで備えた。

それにしても店主は技術者のはずだがみな一様にいかめしい表情でタオルのはちまきで腕を組んでいるのはなぜだ。

僕はそこはかとなく昭和を感じる店を選んだ。

行列は30分ほどだった。店内に通されると皆一様にカウンターに座らされる。ソフトドリンクは無料だった。本当は席に座ってから立ち上がるのは御法度だったが僕はサーバーから飲み物をついで所定の位置に戻った。

カウンターの端から店主が客のリクエストを聞いてくる。いよいよカスタムのコールだ。

最初の客だった。

「セアブラ、マシマシ!」

〝えっ今なんて言ったんだ?……あ……セリエAと言ったのか。なんだサッカー好きか……〟

二番目の客も滑舌が良かった。

「ニンニク、チョモランマ!」

〝えっ今ニンニクって言わなかったか?ずいぶんガタイのいい客だな……マッチョというか……あっ筋肉っていったのか。フィジークか何かの番組だな…〟

どうやら緊張のしすぎのようだ。

僕は手元の飲み物をゴクリと飲んだ。


三ツ矢サイダーの味がした。

(788文字😭)


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