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広域指定暴力団とマル暴の脅しに屈しなかった銀行員のハナシ

福岡県警暴力団対策課課長が、支店に訪問してきたとき、なぜか私が呼ばれた。

応接室に行くと福岡県警の課長が私に挨拶の後早速話を切り出した。

 「A社のことはご存知ですか?」

正直びっくりしながら私は
 「ええ、覚えてます。」

 課長は、「この中の誰とあったか覚えてますか?」と応接の机に写真を10枚程度並べて質問してきた。

 これが、聞いたことあるあれかと思い少し怖くなった。
 私、「この人と、この人です。」

 課長、「その通です。名前は覚えていますか?」

 私、「清水さんと・・・坂田さんですか?」

 課長、「その通です。その時の融資の資料はまだ銀行内にありますか?」

1年ほど前のことが鮮明に思い出されてきた・・・

 
 北九州支店の勤務時代、私は融資担当課長だった。私の担当エリアは、北九州市内であったが、ここは非常に大変な地区であった。何が大変かというと、地区的にも業種的にも難しいものが多く銀行融資で対応できないものも多かった。

 ある日、店頭に新規のお客さんが来た。
 店頭新規は嫌な客だ。基本的には、今取引ある銀行が貸さないから新しい銀行に来るわけで、今取引の銀行が貸さないのに、新規の何も知らない銀行が貸せる可能性は低い。だから、面倒なので各営業課の負担を公平にするため、東西産業振興銀行では当番制であった。

 経理担当者が来た。坂田氏(仮名)だったと思う。私は、部下と一緒に話しを聞いた。それは、絶対に名前などいえないのでA社とするが、今度設備投資、具体的には葬儀場を建設する計画が有り、5億円ほど貸してほしいということであった。

 まず、私のモットーは水際でダメそうならはっきり言うタイプであったから、「5億は大きな投資ですね。今取引されている銀行では相談されていますか?」
すると、

 坂田氏は、「詳しくはしてないが、設備の話はしている。また、他の銀行にも相談はしています」と言ってきた。

 なるほどそういうことであれば、こちらもそれなりに真剣に審査をしなければいけないなと感じた。但し、これまでの感からも、断る理由を見つけるために真剣にならねばと気を引き締めたのだ。

 私は、「基本的なことですが、どんな事業をされているんですか?」

 坂田氏は「雑貨等の卸売です。何でも扱っています。私は、経理担当なので詳しい説明が出来ませんので、社長に説明してもらった方がいいでしょうか?」と聞いてきたので、

 私は、「当然お話は伺いに御社に行きます。こちらで準備していきますので大丈夫です。わかりました。審査に必要な資料を早急に準備いたしますので、それを見て準備いただけますか?」というと、

 坂田さんは、「わかりました。どのくらいかかりますか?」

 私は、「現時点で資料も何も無いのではっきり申し上げることは出来ませんが、最低でも資料をいただいてから1ヶ月程度はかかります。大丈夫ですか?」

 坂田さんは、「了解しました。よろしくお願いします。」といい、帰っていった。

 私は、すぐ部下に指示して審査の受付をする。これで、スタートするわけだが、審査資料依頼書を作った。

 銀行の審査資料には定型ののものは無い。それぞれの業種にあわせて様々な資料を貰い審査するからだ。因みに今回は以下の資料とした。

  審査必要書類依頼書

1.定款
2.納税証明 法人税、事業税、県民税、固定資産税、消費税
3.会社概要(会社案内)、株主名簿。
4.事業に必要な許可証。
5.決算書3期分、試算表。
6.会社、固定資産の謄本。
7.固定資産税名寄帳。
8.会社の預金通帳の写し
9.代表者の略歴、個人の資産・負債等明細。

 
 早速、坂田氏に連絡し、郵送することとなった。まずは、これで一段落。普通ならば、2~3週間はかかるものだ。店頭新規をしつつ通常業務をするのは大変なことだ。なぜなら、店頭新規の審査にはスピードを求められるものの通常業務をしないわけにはいかないからだ。

 やはり、2週間程度経ってから坂田氏から連絡が有り支店に持参して来た。

 坂田氏は「これで資料は大丈夫でしょうか?」

 私は「資料は受領しましたので審査に入ります。進捗や、追加の資料でご連絡させていただくことがあると思いますのでよろしくお願いいたします。」

 審査は、大きく分けて2つの面で行う。

 一つは、コーポレートの審査。つまりは企業の財務・収支を定量的にまた、定性的に格付けしていく。

 もう一つは、プロジェクト審査である。これは、そのプロジェクトが計画として過大なものでなく妥当性が有り、且つその将来の事業利益から借入が返済できるか?つまりは、目利きが問われるものである。

 ところが・・・

 財務を見ると企業の格付けは最上位となった。また、卸売業ではありえない利益率だ。いままで経験したことも、見たことも無い企業といえた。

 たとえば、銀行の審査で大事なことは3つあると思う。それは、

 1.実績
 2.根拠
 3.客観性

 これに当てはめると、実績は申し分ないが、根拠であるビジネスモデルが確認できていない。さらに客観性となると同じ卸売業の中で比較することになるが、まったく当てはまらないのだ。

 余談だか、客観性はもっとも大事だといえる。業界平均と比べると企業の実態がよくわかる。私は、それでその会社の粉飾を見破ったこともあった。

 このままでは、結論はでないことから、社長に直接聞くことになった。坂田氏にアポを頼むとすぐ対応してくれて、翌日次長と私の2人で訪問となった。ここで大事なことは、実際に会社を見てくるということだった。

 『よく、本社が大きすぎると潰れる。とか、トイレが汚いと良くない。等迷信的なことばは聞くが、意外と現場見るのは大事ということだ」

 翌日訪問すると、違和感が大きくなる。まず、港に近かったが、会社の建物は3階建てのビルだが、会社の看板が無い。次は、階段が急すぎる。さらには、応接室に通されたが、応接セットは無く、机とイスだけであった。

 清水社長(仮名)と坂田氏がしばらくすると入ってきて、挨拶交わした後、次長から

「どういったビジネスモデルなんですか?具体的な販売している物とその方法を教えていただきたい」

 清水社長は、

「あらゆるものを取り扱う商社です。売り方は、その販売地区のエリアの地区長さんに卸売りして、その地区長さんからさらに最終消費者に販売していくというながれですよ。」

 次長と私は、様々な質問して1時間ほどで切り上げ、銀行に変える途中で話した。

 私「次長、これはねずみ講ですか?」

 次長「うん、多分マルチ商法的な感じがするし、会社もなんかおかしかったよね、早めに断った方がいいね。」

 そして、3日ほど経った時次長に呼ばれた、

 「応接に警察が来てるよ。ちょっと一緒に来てくれる?」

 私「はい大丈夫です。」

 応接室に入ると、刑事が1名の刑事が座っていて、話しかけてきた。

 「早速伺いたいことがあってきました。A社のことはわかりますね。今、話を聞いてませんか?」

 次長は、「ええ、A社さんとはお話受けている状態です。でも、なぜそれを知っているんですか?」

 刑事、「他の銀行にも話しをしているらしく、その中で東西産興銀行さんの話もでたので確認に来ました。」

 次長、「逆に伺いますが、反社会的勢力なのですか?」

 刑事、「いえ、まだそういう団体ではありません(指定暴力団)。それで、御行さんは融資する予定なのですか?」

 次長、「いえ、審査中なのでお答えできませんが、やめたほうがいいということですか?」

 刑事、「指定されてるわけではないからなんともいえません・・・。
但し・・・ここだけの話にしてほしいのですが、個人的にはやめたほうがいいと思っていますよ。
 ありがとうございました。確認できたのでこれで帰ります。」

 刑事が帰った後は、急にあわただしくなった。単なる店頭新規ではなく、反社会的勢力の恐れがある場合は、本部も踏まえた対応となる。次長も、私も、それからは本部踏まえて、早急に断る準備をした。3日後本部の了解の下、断る決定がでて、坂田氏にアポを入れる連絡をした。

 坂田氏は、「結果はどうなんでしょうか?」

 私、「結果は伺ってからお答えしますのでよろしくお願いします。」

 そういうと、坂田氏はわかりましたと答えて電話を切った。

 当日は、準備が大変だった。まず、15時訪問としていたので、一応警察に連絡。また、軟禁される恐れも考えて、本部と支店で連絡体制をとることとした。

 しかし、以外にあっさり、納得して30分ほどで無事支店に帰り、これで終わったかのように思っていた。だが、終わってはいなかったのだ。


 それから1年後・・・今日になって警察が来るとは・・・


  当然コピーは残っていたが、

 私、「いえ、当行は資料は全てお客様に返却することになっておりますから残っておりません。」

 課長、「本当ですか?(疑わしそうに)ならば、これを見てください。」といって資料をどっさり出してきた。その中に、預金通帳の写しも有りびっくりした。

 なんと、私が見た資料の振込の名前とはまったく違う暴力団の名前しか載っていなかったのだ。私は、震えてきた・・・

 課長、「これは、他の銀行へ持ち込んだ時の資料です。おたくは詐欺にあわれたんですよ。」

 私は、言葉が出ず黙っていた。

 課長、「とにかく、詐欺で被害届を出してもらえますか?」

 私、「なぜですか?」

 課長、「そうすることで、指定できるからですよ」

 私、「いや、本部に確認はしますが、もう1年前にすでに終わっている案件ですし、資料もありませんから被害届は出しませんよ。」

 課長、「是非指定にしたい。被害届を出してくれないなら、令状とってガサ入れしますよ。」と公然と私を脅してきた。

 私、怖くて震えるところ勇気を振り絞り
 「私は、名刺を出しているんですよ。被害届を出したら私とわかるじゃないですか。危険なことがおきますよ。私はまだ仕事だからいいけど、家族はどうするんですか?」

 課長、「指定にすることは必要なんです。本部に確認して連絡してください。」

 警察は詐欺で訴えろといい、私はできないという問答が何度か続いた。

 その後、本部に確認したところ、やはり資料も無いことから、届は出さないということになり、警察へもそのように答えておいた。帰るときの警察の目が忘れられない。

 これでようやく、本当に終わったのだ・・・。

 
 日本で一番危険な組織はどこだ・・・

 自分がそれを思い知ることになろうとは、まさか夢にも思わなかった。

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