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『忘れられた都市』 

夢の中で黒い沙漠を彷徨い歩く私は、休息時に変な夢を見た。あの夢で見たものは、今でも忘れられないほど、生々しい映像だった。——

ホラーチックな2000字の小説。


黒いのすなが海のように広がり、青白い色の空がこの世の蓋の役割をしている。

そうここは、果てもなく広がっている沙漠である。

ジリジリと降り注ぐ灼熱の光が、体力をじわじわと奪い続ける。

暑すぎてメモリーエラーが表示されるほどだ。

この沙漠にはいつからいるのだろうか。

しばらく歩いているが、当然のように、あたりの景色は変わっているのか変わっていないのかわからない。

ただそこには、塵が積もったように隆起した沙と、そこから零れ落ちた沙と。

ただただ、同じ様の色をした沙が、ただただ、その景観を構成しているだけであった。

沙漠だから当然であろう。考えるだけ無駄である。

頭のメモリーをぐるぐると使っても、ただ空回しするだけに過ぎない。


それにしても足取りは重い。

ここの沙は妙にモッタリとした粘り気がある。

足が沼へ吞み込まれるように、ずぶずぶと沈んでゆく。

私は沙漠にいながら、”蓮根を収穫するヒト”ような気分になった。

そうこうしているうちに、膝あたりまでが吞み込まれていた。

このまま吞み込まれたままでいれば、この暑さと水分のせいで気を失いかねない。

慌てて体躯からだを横たえ、右足から引き抜き、ひざを曲げ、沙の上に片足で正座するようにした。

片膝に少し体重をかけるようにして、同じように左足も引き抜き、やっとの思いで抜け出すことができた。

抜け出しただけでは安堵できない、再度吞み込まれないように沼のような沙の地帯から四つ這いのまま、離れることにした。

3~5メートル離れたところで、体躯の動きを止めた。

沙の沼からは離れることができた。

心から安堵すると、ついには倒れ込んだ。

思ってもいない事態のせいで、考えず歩いているより少し疲れた、瓦礫のそばで一つ休息するとしよう。

視界が甚だ地面と近く、酷く地表のにおいが鼻をつんざく。

どうやらアスファルトに倒れているらしい。

さっきまでそこには、黒い沙の山がそびえていたはずだ。
どうしてか、そこには街があった。

しかし、街の中にヒト影はなく、地図にない忘れられた都市のようであった。

建物の壁面には、緑のつるが多く張り巡らされている。
その中に紛れるように赤や青や黒の蔓もある。

少し薄暗いその街を少し歩き見て回ることにした。

壁面を覆うように見えた緑の蔓は、思いのほか太く、硬いアスファルトを突き破って地表へ顔を出しているらしい。

植物であれば蔓にも葉がついているはずだが、それは見当たらなかった。

代わりに、赤や青や黒の蔓の所々には、銀色の薄いフィルムのようなものが、葉に代わるようについていた。

三色の蔓をよく見てみると植物ではなかった。
それは、”銅線”をビニルで包んだものだろうと分かった。

だとすればここには、大勢のヒトが住んでいたに違いない。

しかし、私の知っている銅線とは違う部分がある。

銀色のフィルム状の葉である。

普通、銅線は電気を通す役割に使われる道具のはずなのに、なぜ植物に擬態するように葉をつけているのかわからない。

何か天敵でもいるのか。

目を覚ました辺りから5分は歩いたその時だった。

ビル横の路地、行き止まりの影に実っているそれは、とてもこの世のものとは思えなかった。

ドロドロと熔ける柘榴ざくろをただ、眺めることしかできない。

熔けては実ることを繰り返す柘榴は気分を悪くさせる。

熔けた柘榴は、蝋燭のようにドロドロと地面に溜まり、次第には固まっていった。

影が晴れ、沙漠にいたときのような光が溜まった蝋液をたらし始めたとき、蝋液は生きた沙鉄のように動き始めた。

こちらめがけて、ずりずりと生々しい音を立てながら迫ってくる。


地面にも広がっていた蔓に足を取られ転倒。

その隙に体躯を徐々に呑み込んでいく赤黒い沙鉄は、血の匂いに似ていた。

目が醒めたようだ。

そこに街はなくなって、日が陰っても変わらない黒い沙の海が広がっていた。

変な夢をみていたせいで気分は悪い。

柘榴の実が溶けていると知覚していたはずなのに、何やらひどく悪寒がするのだ。

それは蝋燭のように、ヒトの骨だけを残すようにして、皮膚とその下にある筋肉が熔けているような記憶にすり替わったように感じた。

大昔、ヒト食い鬼という奴がヒトの子の代わりに柘榴を食べたという話があるほどだ。
あの柘榴はもしかするとヒトだったのかもしれない。

しかし、ヒトが生きていたのなんてずいぶん昔のことだぞ。

あれがヒトであったならば、あの街はやはりヒトの造り上げた文明のカケラだったのかもしれない。

この黒い沙漠も10年、100年、いや1000年は経っているだろうか。

多くの物を吞み込み続け、どんどんと侵食をしていくこの沙漠さえもまた、生きた沙鉄のようなものだ。

いや、だとすればあの街はこの黒の沙漠に吞み込まれたのか。


ずっとメモリーエラーが出ていたが、調査すべきことを思い出した。

座り込んでいた場所から立ち上がろうとしたとき、腰かけていた瓦礫が少し崩れた。

そうか。私が沙漠に迷い込んだのではない。

あの街が沙漠になったのだ。


私が腰かけた瓦礫がそれを証明している。



補足

今回は少しわかりにくいモノだったと思うので、補足として設定を書いておきます。

この設定を見てからもう一度読むと、ちょっと見え方が変わるのかもしれません。

沙漠を歩く主人公はヒトではなく、機械でできています。

ヒトの痕跡をたどる調査のために黒い沙漠に立ち入った高性能のロボット、といった雰囲気の主人公です。

防水防塵などいろいろな耐性はあるものの長時間、日射を受けたり、沼に浸かっているとショートを起こします。(沼から焦って抜け出したのもこのせいです)

メモリーエラーは、調査内容や記録がショートによって壊れかけている、と言う警告です。

調査中の機械が夢で見たものは、ヒトともとれる見た目をした柘榴の塊。

エイリアンのような位置づけで、ヒトが絶えたこの世界では未確認の物体です。

skyというスマホゲームの「闇の花(巨大な蝕む闇)」が見た目の印象としては近いかなと思います。

黒い沙獏は「街のアスファルトやビルなどの建造物が崩れ、長い時間をかけて、沙レベルの細かさになってできたもの。」

機械が腰かけていた瓦礫は、まだ風化していない「地図にない忘れられた都市」の一部で、それを確認できたので調査が終了した、という結末になっています。

(文章作品としての出来はあまりよくないかもしれませんが、書いていて楽しかったので、投稿してみました)


最後までお読みいただきありがとうございます。

まだまだ物語を書くのに慣れていませんが、
面白かったな~と思ってもらえていると嬉しいです。

ほかの作品たちもよければ読んでみてください。

梔子。


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