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立ち去るものだけが美しい

< 退職まで 20 日 >(実質 4 日)

●視点

 当たり前ではあるが、自分のことを自分の都合で書いている。よって、どうしてもバイアスはかかる。特にこういう誰かとの別れは、立ち去るものだけが美しいように見えがちだ。残されて戸惑う者たちは追いかけてこがれて泣き狂うようにしか描写はされない。

 実際どうであるかについては、わたしにはわからない。それでも事情は全て話しをした。表面的には納得してもらってもいる。それが、全てだ。内心どう思われようが知ったことではない ― 気にならないといえば嘘にはなるが、気にしてはいけない。気にしたところで何も変わらない。いや、自分の時間と気力が吸い取られていくだけでしかないのだ。

●何が起こったか

 前回の打ち合わせでわかったことは以下の通りだった。

<社長サイド>
・取締役が承認した引継計画については知らない
・副業、しかも有償でやるとは恩知らずであり男らしくない
・自分との縁を大事にせよ。さもなければ悪評を立てるぞ
・100%引継を終えるまで辞めることは許さない
・情報関係の責任者が抜ける事がバレたら上場できない
・全社員から恨まれるぞ
<取締役サイド>
・引継計画は報告したつもりだった
・社長は無償でというが、私は有償でと考えている
・月給を160で割って時給とし、働いた文だけで頼む
・これからも良い関係を築いていきたい
・できる限りの引継もしっかり頼む

 こちらの主張は以下の通り。

・これまでの恩義を考えて、標準価格の半額で提示している
・時給換算は低額にすぎる。受け入れられない。
・最終出社日1週間前から計画を立て直すことは不可能
・出来得る限りは引継するが、おそらく1割も引き継げない
・当たり前だが、どうなっても責任は取れない。

 このあと、再度社長に呼ばれて繰り言のように恩義の話をされた。話しているうちに興奮したのか、人格攻撃や情シス業務そのものを軽視する発言が多くなったため、話し合いにならないと判断し、とりあえず引継ぎはできる限りするということで解散となった。


 そして、週が変わって月曜日。


 弊社は毎週土曜日に幹部クラスが集まって会議をする習慣がある。取締役と私の形式上の上司がそこでこってりと怒鳴られたとのこと。そこで告げられたのは以下の通りとのことである。

・情シス業務を外部に委託することは許可しない。
・内部の人間に仕事を割り振って処理しろ。
・引継ぎは100%やれ。有給を使わせない。

 これが、私が月曜に発狂していた原因である。

●どうするか

 引継ぎや、事業継続という意味で、私がやれることはなにもない。できることは、身を守ることだけである。言うべきことは、言わねばならない。

 無償対応や、正社員ではない立場にもかかわらず低価格での契約をどうしてもご希望されるという場合には、弁護士並びに公的機関への相談も視野に入れざるを得ないことはご承知おきください。

  できればこういう事は言いたくはなかった……。

 情シスの後継者も力いっぱい探していたし、業種自体は意義あるものだと感じていたし、副業だってやりたくはないがやらなければ業務が回らないだろうという観点での提案だったのだ。

 お世話になったという感情は嘘ではないのだ。この3年間で得たものは本当に多い。人生を変えたと言っても過言ではない。だからといってタダ働きや低賃金で奴隷のように働くのは許容できないし、お互いにとってプラスにはならないはずだ。

 現状返事もアクションも特にはない。クリティカルな業務を、超特急で未経験な素人たちに仕込む業務をしながら、もう出社する義理すらないのではないか…と考えている。

 何れにせよ、12月以降も生かすはずだったスクリプトや、アカウントに連動した仕組みをすべて外して移植するという業務が増えた。とても間に合わないので、最終出社日を一日ずらす。つまり、私が持つ有給取得の権利をサービスすることにしたのだ。

 それくらいは、ありがたいと思ってくれ…と期待するから裏切られるんだろうけど。

●残作業

・アカウント削除に伴う仕組みの移植
・退職手続き(PC返却・アカウント削除)

 私物も全回収してある。もう出社しなくてもいいくらいに。

 3ヶ月前から準備し、2ヶ月前から慎重にかつ丁寧に動いてきた結果がこうなってしまったことについては慚愧に堪えな…いや、そんなことはない。やるべきことはやった。筋も通していた。胸を張って次の一歩を踏み出すくらいの気持ちで良いだろう。

 この note のクライマックスはここなのだろう。最終物理出社日にひと悶着は起こるかもしれないが、それはもう「美味しいネタ」くらいのものでしかない。

 あるいは…弁護士や労働基準局を巻き込んだ顛末を記す note になるかもしれない。そういう面倒なことにだけはならないように、私が今できることは、祈ることくらいである。


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