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投稿祭の粗製濫造

挑戦的なタイトルをつけてしまったが、ぜひ最後まで読んでみてほしい。
現在改訂に改訂を重ねている「ボカロ通史」にて、私はこのようなことを書いた。

「投稿祭ブーム」が現在のボカロシーンで巻き起こっている。その中でも、子牛氏による「ネタ曲投稿祭」は主催の子牛氏や南ノ南氏のほか、「高音厨音域テスト」で有名な木村わいP氏の参加で盛り上がりを見せた結果、ボカコレの公式カテゴリとして組み込まれるという驚くべき展開を見せた。また、P名を伏せて投稿することで純粋に作品を聴いてもらうことを目的とした「無色透明祭」、ボカロPと歌い手、絵師、動画師がタッグを組んで楽曲を制作、投稿する「ボカデュオ」が現在かなりの盛り上がりを見せている。企業の手によって開催されているものはこの程度だが、その他にもコード進行縛り、年齢縛りといった同人イベント的な投稿祭がボカロPの手によって企画、開催される「投稿祭の乱立状態」となっているのが現在のボカロシーンである。

ボカロ通史⑤ 第二次ボカロブーム〜ボカコレの登場

今回はこの「投稿祭の乱立状態」にフォーカスしていく。

全てのきっかけはボカコレ

「ある特定の期間内に揃ってオリジナル曲をニコニコに投稿し、それらをランク付けして楽しむ」というコンセプトで大きな注目を集めたThe VOCALOID Collection、通称ボカコレ。
間違いなくボカロ人口の増加に寄与した素晴らしい試み。その影響力は凄まじく、この手法を踏襲したボカロ投稿イベントが各所で開催されるようになった。
「ネタ曲」に焦点を当て、最終的にボカコレに組み込まれた「ネタ曲投稿祭」やP名を伏せて純粋な実力勝負を行う「無色透明祭」をはじめとした「投稿祭」と呼ばれるネット上でのボカロイベントが同人ボカロシーン(あえてこう表現する)を中心に一つのムーブメントとなった。
中小ボカロPからすれば、否が応でも多くのリスナーが集まるこういったイベントは自身の名を売る絶好のチャンスであり、彼らはこぞって参加する。結果として彼らにとって投稿祭はボカロP活動にとって必要不可欠なものになり、次第にそれ以外の期間における活動の比重が著しく減少しているのが現実だ。
投稿祭以外の期間に作品を投稿するメリットは皆無、というよりその隙もないくらいに投稿祭が開催されまくっているので、それ以外に手段はないとも言えるわけだが。

投稿祭の影響力〜ボカコレの現状

ボカロP自身が開催する同人イベント的な投稿祭がボカロシーンにもたらす影響力は微々たるものかもしれないが、前述の通り中小ボカロPにとっては活動の中で大きなウエイトを占めるものであることは想像に難くない。
ただ現状を見るに、そういったイベントは「ボカロP同士の内輪ノリ」「クリエイターとリスナーが重複している(純粋なリスナーが少ない)」状態だ。「ランキングで競うことはしない」旨を標榜する投稿祭においても同様だ。それらを踏まえるとシーン全体に影響をもたらすイベントはボカコレしかない状況だが、そのボカコレも組織的な宣伝への注意喚起やその対策に乗り出したり(組織的な宣伝を擁護しているわけではありません)、ネタ曲投稿祭部門の休止を行ったりするなど、より先鋭化する方向に舵を切りつつある。少なくともオリジナル作品では、デビュー2年以内のボカロPが参加できる「ルーキーランキング」、大手と中小が多種多様な音楽性で混戦する「TOP100ランキング」に絞るつもりなのだろう。
しかしながら注目度の高いルーキーランキングに載りたいがために転生を繰り返し「新人ボカロP」を自称する者も以前から出ているし、かと言ってTOP100ランキングでは余程のことがない限り有名ボカロPにランキング上位を占拠されてしまう。個人的には後者はいつものVOCALOIDランキングで十分だと思っているくらいだ。
これでは歴によってカテゴリを分ける意味や、ランキング形式で開催する意義がなくなってしまう。まさに「正直者が馬鹿を見る」状況だ。しかも、それらが原因で「本当の」新人ボカロPがルーキーでランクインできないままその期間を終えると必然的に「才能なし」の烙印を押され、シーンの外野に追いやられてしまう風潮すら感じている。
少なからずこのようなイベントに参加している身でこういうことを書くのも良くないかもしれないが、はっきり言って今のボカコレがシーンに良い影響を与えているか?と聞かれれば素直に首を縦に振れないし、その影響下にある同人イベント的投稿祭(オリジナル作品のイベントに限る)も同様だ。
ボカロPは皆、好きな時に曲を作り好きな時に投稿したいはずだ。商業作品でもない限りボカロPはそれを実現できる立ち位置であるはずだ。
それなのにまるで納期に間に合わせるように投稿祭に参加しているボカロPを見るたびに私は複雑な気分になる。なぜならボカロP自身のせいではないからだ。
一連の投稿祭ブーム、そしてその発端であるボカコレに対して私は疑問を投げかけたい。
「本当にそのイベントでシーンを活性化させる気があるのか?」と。

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