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ボカロ通史② 初音ミク登場〜ニコニコ動画との関係性

初音ミクとニコニコ動画の登場


"アニメ調のキャラクター" "ミュージシャンのクローンではないオリジナルの存在"これらを昇華したのが「初音ミク」と書いたが、それほどまでに初音ミクの登場は画期的かつ衝撃的なものだったということは、その大ヒット具合を見れば誰の目にも明らかであろう。
声優・藤田咲氏の声をサンプリングしたそのソフトは1週間で1000本を売り上げるという、バーチャルインストゥルメントとしては空前絶後の大ヒットを記録した。
歌うソフトという画期的な用途、キャラクターとしての萌え要素、手に取る理由はさまざまだった。
そして、時を同じくしてボカロに欠かせない媒体が登場する。
「ニコニコ動画」だ。
2006年から始まったニコニコ動画(以下ニコニコ)は、初音ミクで作られた音源を個人が発表する媒体として現在まで活用され続けている。
歌い手の世界では、自身の作品を発表する媒体が2chからニコニコに移ったという現HoneyWorksのゴム氏の証言があるが、時期を考えてもボカロにおいてはそのようなことは皆無だったと言って良いだろう。

自我を持つ初音ミク

ニコニコ動画登場後のボカロ界であるが、最初はオリジナル曲と既存曲のカバー、アレンジが並行して発表されるのが主流だったと見られる。
初音ミクにネギを持たせた「はちゅねミク」を生み出した、ボカロ初のヒット曲とされる「Ievan Polka」もフィンランド民謡のカバーであり、完全なオリジナル曲ではない。
そして2007年9月6日、確認される最古のオリジナル曲、「P@r@dox Love」(現存しない)が、9日にはニコニコに現存する最古のオリジナル曲かつ最古の殿堂入り(10万再生)である目玉P氏の「迷惑なあなた」が投稿される。

ちなみにこの"P"という概念は「アイドルマスター」から来たものである。Pとはプロデューサーを意味するものでボカロにおける使用法は本来のプロデューサーの意味とは異なるものだが、当時アイマスが人気を誇っていたこともあり今ではボカロ曲を制作する人物に"P"をつけるのが慣例化している。
楽曲のタイトルやイベント名に@が多用されているところからも、アイマスの影響をひしひしと感じることができる。
話を戻して2007年9月20日、ika氏によって「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」が投稿される。
これはふわふわシナモン氏の「恋スルVOC@LOID」と並び「初音ミクのキャラソン」的な楽曲の走りであり、当時初音ミクがニコニコにおいてどのような扱いをされていたかが見て取れる。これらの楽曲は「初音ミクが歌わなければ成立しない楽曲」であり、現在のボカロ曲よりも初音ミクのキャラクター性を尊重した作品群といえるだろう。この路線の楽曲はCosMo@暴走P氏の「初音ミクの消失」で一旦の終焉を迎えることにはなるが、ボカロ黎明期を象徴する方向性として現在でも根強い支持を集めている。

メルトショック〜「アイドル」から「シンガー」へ

2007年12月7日、早くもボカロ界にブレイクスルーが起こる。
メルトショックだ。
ryo氏(現supercell)による「メルト」をきっかけとするこの"事件"は、ボカロの進む方向性を180度変えたと言っていいだろう。
それまでの「初音ミクのキャラソン的楽曲」とは打って変わって、初音ミクとはなんら関係のない恋愛の詞を歌わせるというその内容は、楽曲の主人公をミクからボカロPに変え(このことから一部では初音ミクを「殺した」とまで言われた)、ボカロと歌い手を強烈に結びつけた。
ボカロPとしても多数ヒット曲を残したhalyosy氏や、ガゼル(現やなぎなぎ)氏の「歌ってみた」動画を皮切りにニコニコの毎時ランキングを1位から4位まで独占した。これらを総称して「メルトショック」と呼ばれたこの"事件"は、現在でもボカロ界に影響を与え続けるとともに、初音ミクを「アイドル」から「シンガー」に変えた分岐点となった。
また、「メルト」でもそうであったように、他者の作品を無断で使用する事例が多発したことを受け、クリプトンがコンテンツ投稿サイト「piapro」を開設したのも2007年である。この頃からクリエイター同士の交流の場が設けられるようになった。

ボカロの世間への広がり〜メジャーシーンとの邂逅

ボカロが世間へ。
その先駆けとなったのはkz氏の「Tell Your World」だろう。CMソング向けに制作されたという経緯を見ても、ボカロの商業化やメジャーへの進出は着々と進んでいったといえる。
ボカロP個人としてはryo氏が先駆けて「supercell」での活動や「EGOIST」のプロデュースを行い、主にアニソンの世界でヒット曲を出したことで、後の米津玄師氏やwowaka氏(ヒトリエを結成)、kemu氏(PENGUIN RESEARCHを結成)を予期させる、ボカロPがメジャーシーンに進出するモデルケースを作り上げた。
同人ボカロシーンでも、先述のpiaproの他にも同人CDの頒布などが行われる「THE VOC@LOID M@STER(通称ボーマス)」が開催されるなど、ボカロP同士、ファン同士の現実世界での交流もこの頃から図られていた。
また、ポニーキャニオンが保有するレーベル「EXIT TUNES」がメジャー流通のボカロCDやコンピ盤をリリースしだしたのもこの時期だ。さらに音源リリースにとどまらず、「EXIT TUNES ACADEMY(通称ETA)」と呼ばれるボカロをはじめとするインターネット出身アーティストのイベントを開催して、一躍話題となった。
ボカロのイベントといえば、「マジカルミライ」も忘れてはいけない。クリプトン社のVOCALOIDキャラクター(ピアプロキャラクターズと呼ばれる)が一同に会して行われるイベントで、現在に至るまで盛況を誇っている。これに関連したイベント「MIKU EXPO」では世界ツアーを行い、海外のファン獲得にも成功している。

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