ボカロ通史⑤ 第二次ボカロブーム〜ボカコレの登場

新世代のボカロ曲〜ボカロと社会

この世代のボカロPでまず特筆すべきは、すりぃ氏だろう。1分のショートバージョンを先行して投稿し、その後フルを投稿し楽曲の中毒性を高めるというそれまでにないスタイルを打ち出し話題となった。このスタイルを真似るボカロPは多くなかったものの、この時期からボカロ曲は2〜3分程度の短い楽曲が主流になっていく。
Kanaria氏も短い楽曲でヒットを連発したボカロPの1人だ。エレクトロかつビート感を打ち出した音楽性は多くのフォロワーを産み、これを模倣するボカロPも多数現れた。
また、DECO*27氏やてにをは氏、ピノキオピー氏らベテラン勢も再びヒットを飛ばしたことで改めてシーンに存在感を示すこととなった。
何よりこの時期最大のトピックは、ゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク(通称プロセカ)」のリリースだ。従来のボカロリスナー以外の新規層の取り込みに成功したこのゲームは、ナユタン星人氏やまふまふ氏と言った有名ボカロP/有名歌い手の楽曲提供も相まってボカロシーンを盛り上げる起爆剤となった。
その他にも、新しいプラットフォームとしてTikTokに代表されるショート動画の登場も無視できない。Chinozo氏の「グッバイ宣言」やKanaria氏の「酔いどれ知らず」といった当時の最新曲の他にも、164氏の「天ノ弱」など全盛期の曲がリバイバルヒットを果たしている。特に「グッバイ宣言」はYouTubeでの再生回数がボカロ曲トップに躍り出るなど、従来の枠にとらわれない新しいヒットの形を示した。
そして、この時期の大多数のボカロ曲にみられる特徴として「病み」「メンヘラ」「地雷」の三大要素が挙げられる。以前から活動しているDECO*27氏の「ヴァンパイア」やかいりきベア氏の「ダーリンダンス」、それ以外にも「ド屑」などで知られるなきそ氏など、世代に関係なくこのテーマを扱うボカロPは多い。
一概に断言することは出来ないが、地雷ファッションや量産型ファッションのブーム、トー横界隈や天使界隈と言った社会問題ともいうべきムーブメントがこれらの要因となっているのではないだろうか。
この三大要素には当てはまらないものの、てにをは氏の「ヴィラン」は性的マイノリティをテーマとした楽曲で、近年のLGBTに関する動きとリンクしている。
現在のボカロシーンは、これらの社会的な話題と密接に関わっているのだ。

音声合成技術の多様化〜AIの参入

2007年の初音ミク登場以降、長らくボカロシーンでは初音ミク、Megpoid(GUMI)、鏡音リン・レンなどのVOCALOID製品が使われてきた。
のちに2013年に発表されたCeVIO CSを使用したONE -ARIA ON THE PLANETS-(以下ONE)やさとうささらなどが登場したものの、ヒットしたボカロ曲ではナナホシ管弦楽団氏の「おねがいダーリン」でONEが使われたに留まり、さとうささらはボカロ曲での用途であまり使われることはなかった。
その状況が変わるのが2021年、AIの技術を利用したCeVIO AIの登場だ。
VOCALOIDのように難しい調声をあまり必要としない上、人間に近い発声が得られるCeVIO AIは、音楽的同位体「可不」の登場によってボカロシーンに急速に普及した。
可不が使用された楽曲の中でも最大のヒットを誇るのがツミキ氏の「フォニイ」だ。
他にもVOICEROID、Synthesizer Vなど、VOCALOID以外の音声合成技術が広く使われるようになったのもこの時期だ。

ボカコレ開催に伴うボカロシーンの変化

2020年12月、「The VOCALOID Collection(通称ボカコレ)」の第一回が開催された。
期間内に投稿されたボカロ曲をカテゴリごとにランキング付けするというもので、現在ではボカロシーンの中心的存在となっている。
この記念すべき第一回にて「終焉逃避行」で一位を獲り、その後「マーシャル・マキシマイザー」で大ヒットを記録したのが柊マグネタイト氏だ。
ただ、初開催から3年経ってもこの柊マグネタイト氏以降、ボカロシーンで大ヒットを記録するボカロPがこのボカコレから現れていないのが現状だ。
また、過剰な自薦行為(無関係なところにまで参加作品のリンクを送りつける)、それに起因するランキングの信頼度低下などの問題が浮き彫りになっており、最近ではボカコレを敢えて避ける動きもみられている。
またボカコレの人気に乗じてかはわからないが、各所で投稿祭が開催される、いわゆる「投稿祭ブーム」が現在のボカロシーンで巻き起こっている。その中でも、子牛氏による「ネタ曲投稿祭」は主催の子牛氏や南ノ南氏のほか、「高音厨音域テスト」で有名な木村わいP氏の参加で盛り上がりを見せた結果、ボカコレの公式カテゴリとして組み込まれるという驚くべき展開を見せた。また、P名を伏せて投稿することで純粋に作品を聴いてもらうことを目的とした「無色透明祭」、ボカロPと歌い手、絵師、動画師がタッグを組んで楽曲を制作、投稿する「ボカデュオ」が現在かなりの盛り上がりを見せている。企業の手によって開催されているものはこの程度だが、その他にもコード進行縛り、年齢縛りといった同人イベント的な投稿祭がボカロPの手によって企画、開催される「投稿祭の乱立状態」となっているのが現在のボカロシーンである。
この時期のヒット曲はいよわ氏の「きゅうくらりん」や原口沙輔氏の「人マニア」、jon-YAKITORY氏の「混沌ブギ」、ゆこぴ氏の「強風オールバック」などといった投稿祭ブームとは別のところでのものが多く、先述の通り"投稿祭なくしてヒットなし"の状況とは程遠く、ボカロ界としてもそのような状況になることは望まれていないような雰囲気を感じる。
イラストやMVの観点で言えば、「衰退期」と比べてより絵画のようなアプローチのものや、線画、ベタ塗りを主としたより簡素なものが好まれて使用されている傾向にある。背景にも単色のものが多く採用されるなど、原点回帰とも独自の進化ともとれる様相になりつつある。

投稿祭は果たして本当にボカロシーンの活性化になっているか?

衰退期を超えて、時代に合わせた変化を経て再びボカロP自身の手で復活を遂げた「ボカロらしい」ボカロ曲がシーンに溢れた第二次ボカロブーム。
プロセカのリリースやボカコレの開催という、全盛期と比べるとよりVOCALOID及びボカロの本家本元に近い立ち位置の企業が、全盛期とは全く違う形で本格的に参入したとあればここからさらなる発展を期待してしまうが、前述のようにボカコレを含む投稿祭から大ヒットを生み出したボカロPは少ないのが現状だ。
ただでさえ一過性のランキングがさらにスパンが短くなり、投稿祭が終わるとリスナーたちは一気に熱が冷めてしまう。
これは果たしてボカロシーンが活性化していると言えるのだろうか?
プラットフォームが多様化した今、駆け出しのボカロPがニコニコのみに固執するのは果たして最適解と言えるのだろうか?

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