変わらない息づかい

ここ数年で楽譜を紙の冊子ばかりではなくてデジタルデータ化されたものをタブレット端末などに表示して使う方法もだいぶ定着されてきています。

うちでもタブレット端末で楽譜データを扱うことが違和感なくやっていますが、伴奏などのお話の時にすぐ楽譜を手にすることができるメリットは大きいと感じます。昭和期には楽譜を手にするために実際に楽器屋さんに足を運んで、さらに楽譜が取り寄せないといけない場合などは追加で楽譜を買うまでに日数がかなりかかるデメリットがありました。地方に住んでいる場合はこれがなかなか悩ましく地理上の条件がありました。ものを手にするために必要な手順や日数がかかる前提があると言うことを経験から学ぶことができたとも言えると思いますが、現代では情報のやり取りがかなり楽にできるようになっていますのでとても助かります。

便利さと引き換えにというお決まりの展開ではないのですが、紙であってもデータになっても楽譜に記されている音楽が実際に演奏される際に不可欠になってくる音楽上の要素があります。和音機能が移り変わる際のほんのわずかな間、これが音楽の前後関係からどのくらい必要で、どの程度の間隔をあけるとちょうどいいのか?は楽譜から音楽の展開を読み取り、実際に練習の中で色々と試す中で経験として溜まっていきます。

ベートーヴェンの作品に多い突然音の大きさを変化させるような展開の時にも、大きな音が続いた後に突然とても小さい音にすると楽譜に書いてある場合、大きな音に続いてすぐ小さな音を出しても人間の耳には大きな音の残像がわずかに残るので小さな音の響きの一番初めが聴きにくいという現象があります。この状況を逆算して大きな音に続く急な小さな音の表現の時にはごくわずかに間を取ると言う古典的な演奏の手法などは楽譜がデータ化された現代でも必要な要素だと思います。楽譜のまま演奏すると言う表現は時に逆のことを指してしまう場合があるので作曲家や作品の内容に応じてどのくらい何が必要か?も色々と試しながら自分で見つけていくことが必要です。

19世紀ではオルゴールの技術は最先端技術のひとつだったと思いますが、オルゴールで音を再現する時には楽譜の音の並びをオルゴールの機械や音色を出すタイミングをノートに記していてこの情報を機械で読み取り音楽を再現していきます。精巧に作られたオルゴールが奏でる音色ですが、時にちょっと音と音に間ができているような状態のノートやオルゴールがあります。このちょっとした間が違和感を覚えるのではなくてむしろ少し昔の時代の時の流れや進みを連想させて現代の秒単位まで正確な生活の進みから解き放たれてリラックスできると感じることがあります。

正確すぎる進みは時に落ち着かなく感じるのは不思議なものですが、時々気持ちも緩めてリラックスできるのも音楽の魅力なのかもしれません。

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