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【SAMPLE】オーダーメイド小説例

 別に珍しくもないでしょ、この時代。
 私は心の中でそう呟いて、気温が爆上がりしている校庭を見下ろしながら冷房ガンガンの教室で補習なのにろくに授業を聞いていなかった。教師だって気にしない。馬鹿高校の馬鹿生徒による馬鹿生徒のための馬鹿補習、by馬鹿教師だ。
 とことん、馬鹿。
 でもそれって成績の話であって書類上の話であって、これから様々な出来事とぶつかりながら長い人生という名の道を歩く上でのスマートさとは、まあ、無関係とは言わないけど、あんまり直接的にリンクしない気がする。

 十七歳の高校生の頭にあるものって言ったらトップはもちろん恋愛とそれに付随する性行為でしょうな、はっはっは。
 でも別に珍しくもないでしょ、この時代。
 私はさっきと同じ台詞を脳内で読み上げる。
 前方、教室のドアに近い席に座っている、小太りで猫背でぼさぼさの黒髪で冴えない眼鏡をしていて、おそらく今もノートをとってるんじゃなくて、BL絵でも描いているオタクちゃん、彼女のそのふくよかな頬のラインを見詰めながら。


 チャイムが鳴ると同時に教師は授業を切り上げて教室から出て行った。残された書類上の落ちこぼれ達は銘々にだりぃだの外暑そうだのと言いながら去って行く。
 私はまだプリントを仕舞うことすらせず、何気なさを装って、窓の外を見ているふりをしていた。内心で期待を抱きながら。後方で、決してセンスがいいとは言えないリュックにルーズリーフやら何やらを詰め込んでいるあの子の様子が聞き取れる。
 今日は来るかな? 今日こそ向こうから来てくれるかな?
 上履きはフローリングの足音を消すけど、ゴムの部分の摩擦音までは消さない。
 それがゆっくりと自分の方に近付いてきた時、私は内心で感極まってしまった。いやいや、ダメだ、ここで私が振り返ってしまっては意味がないのだ、たえろ、たえるんだ私!
「あの……、せんりちゃん」
 きたあああああああああああああ! と脳内でお馴染みの顔文字が表示され、クラッカーが数多と発射され、私のまぶたの裏では打ち上げ花火すらどかんどかんとあがっていた。
「なに? えみるちゃん」
 私はなるべく興奮を表示しないよう自分の顔面神経をコントロールしながら、えみるちゃんを見上げた。
 今時薄型レンズも安いのに、厚めのレンズ、しかもフレームレスの眼鏡。
 でも私はその奥の謙虚な奥二重と芯の強さをうかがわせる黒目がちの眼を知っている。
 ふっくらした体型だって、本人は気にしてるけど、まだ高校生なんだから痩せようと思えばいくらでも方法はある。個人的に、胸はそのままキープして欲しいけど。
「もう帰る? あの、一緒に」
「当たり前じゃん、なんでウチらがこんなめんどい補習、わざわざ取ってると思ってんの?」


 完全に一目惚れだった。
 私は男子がいた方が何かと楽な体質のビアンだから共学の高校に入って、どうしても黒髪が似合わない顔立ちだから髪を少しだけ染めてて、そのせいかクラスのギャル群が寄ってきていつの間にかその輪に加わっていた。
 ラッキーだと思った。ギャルは対象外だから。
 二年になって、そのギャル群のほとんどとはクラスが別になった。じゃあまた一匹狼かな、浮くね、私は。そう思っていた矢先に、私はえみるちゃんに出会ったのだ。
 
 こう見えて実は成績のいい私は、放課後、学校の図書室で勉強することが多い。
 その放課後も、私はいつものように参考書をまるで防御壁のようにうずたかく積み上げて勉強していた。
 そして、資料を抱えて顔を真っ赤にした図書委員のえみるちゃんが通りがかって、その参考書タワーを二の腕で見事に木っ端微塵に破壊したのだ。
 私がぽかーんとしている間にえみるちゃんは自分が持っていた資料も全部落とした。
 どうしようどうしようと小声でパニクりながら、えみるちゃんはどんくさい感じで膝を床に付けてあたふたしていた。
 私はなんだか胸にあたたかいものを感じながら、
「ごめんね、私が積み過ぎてて」
 と声をかけ、一緒に参考書を拾い始めた。
 するとえみるちゃんは驚いた様子でぱっとこちらを見て、それからもごもごとした声音で、
「いいの、私、要領悪いし、こんなんだから」
 と呟くように言った。
 はい、即落ち。
 もうダメ、私こういう、磨けば光るタイプなのに自己肯定感が低くて自虐的になってたり肌がきれいなのに自覚がなくてもったいない系女子にめっぽう弱い。
 その後、私はえみるちゃんの名前を聞いて、お詫びがしたいという口実で強引にカフェに行った。えみるちゃんはスタバに入るのも初めてだと言った。眼鏡の奥できょろきょろと動く瞳が小動物のようで愛らしかった。
 翌日、文化系女子の輪にいたえみるちゃんに話しかけようかと思ったけど、私が熱い視線を送っても、えみるちゃんは俯くだけだった。
 だから放課後図書室に行って、適当に選んだLGBTQの本をカウンター内のえみるちゃんから借りて、席につき、図書カードに私のLINEのIDとQRコードをプリントした用紙を貼って、すぐさまカウンターの返却口へと向かった。
 えみるちゃんは戸惑いながらも対応してくれて、いざ図書カードを抜こうと裏表紙を開いた瞬間、QRと私の顔を何度も何度も見比べて、蚊の鳴くような声で「え……」とだけ発した。
「何卒よろしくお願い申し上げます!」
 図書室なので小声で言いながら私が頭を下げると、えみるちゃんは数秒の沈黙のあと、くすくすと笑い出した。


『思い出が欲しいの』
 そう言いだしたのはえみるちゃんの方だった。
 友情から恋愛に発展するのにはそれなりの時間と行程がかかったけど、今私たちはすっかり恋人同士。
 学校ではいちゃつけないけど、休日に遊んだり、毎晩LINEで話したり、とっても恋人らしい営みをいたしております。
 そこに垂れた一筋の影が進路だった。
 えみるちゃんは幼稚園か保育園の先生か保母さんになりたいと言っていて、私は将来的にアメリカに留学することも視野に入れ、犯罪精神医学について勉強する予定で、もうあらかた準備は整っている。
 これは夢だった。小さな頃から。心理学ではなく精神医学の観点から様々な犯罪を読み解いていく。そして現時点でそれを専攻に勉強できる教育機関はこの国にはほとんど皆無に近い。
 えみるちゃんにこの話をしたら、
『絶対にせんりちゃんの夢を叶えて!』
 と熱意のこもった声で即答されたのだ。
 遠恋覚悟で、私たちはそれでも付き合っている。
 そんな中で、普段は何かをねだったり要求することのないえみるちゃんが、
『思い出が欲しい』
 と言いだしたのだ。
 その内のひとつがこの『一緒に手を繋いで下校する』ことだった。
 もちろん普段それをやってしまったら厄介なことになる。だから私はわざと期末試験で手を抜き、えみるちゃんも一緒に、この夏休み、補習を受けられるようにした。休み中だし、部活連中はいるけど、裏門から出てしばらく回り道をすれば人通りの少ない道に出る。その道で、どちらからともなく私たちは指から触れ合って手を繋ぎ、なるべくゆっくりと歩く。セミの鳴き声は大音量だし暑さもハンパないけど、えみるちゃんのふんわりとした手と顔を真っ赤にして笑うその様はセミや暑さ等どんどこいだ。
「せんりちゃん、英語の勉強、どう?」
「会話は、まあいい感じ。でも向こうでの専門用語とかはまだ全然。だって日本語でも難しい言葉を英語でもやるってマジ苦行だよね」
 仮に留学したとして、その期間がどれくらいになるかはまだ分からない。
 だが私はどこかで予感している。
 おそらく私はPh.Dまで向こうで獲るだろうと。つまり、博士号ないしはそれ以上。
 換言すれば、一年や二年の話ではない。
 えみるちゃんがそんなに待ってくれるか、遠恋にたえられるか、正直不安だ。


「ねえ、せんりちゃん」
 駅が近くなっていたので、私たちは手を放していた。
「なに?」
「実は私、せんりちゃんに言ってなかったことがあるの」
 虚を突かれた。えみるちゃんはいつものふわんとした笑みではなく、少々顔が強ばっている。
 そのせいで私は被害妄想に襲われた。やっぱ遠恋は無理、とか、そもそも女同士はやっぱ嫌だ、とか、そんなことを言われるんじゃないかって、内心で震え上がっていた。
 えみるちゃんの唇が、言葉を発する準備をした。そして息を吸い、言った。

「Actually I can speak English because I spent four years in England when I was a kid. So if you are worried about me being without you, don’t worry, I’d love to fly to the US. I mean, I have to save money and get some kinda useful skills that help me to get a job there of course」
 
——はい?

「イギリス英語でごめんね」
「え」
「っていうか今の聞き取れた?」
「全く」
「せんりちゃん、まだまだだね」
「え、え、え、ちょっと待って、なんて? いやなんで?」
「私、帰国子女じゃないけど、昔イギリスにいたの。だから英語喋れるの。だから、もしせんりちゃんが本当にアメリカに長期留学したり、その後も向こうで研究も続けたいなら、お金貯めて、手に職付けて、私もアメリカに行くよ、的なことを言ったの」
 開いた口が塞がらないどころか、私の涙腺や不安や杞憂は、ちょっとどや顔キメこんでる愛しい恋人への愛情で爆発寸前だった。
「えみるちゃん!」
 私は飛びかからんばかりの勢いでえみるちゃんを抱きしめた。
「ちょ、せんりちゃん! 人! 人いる!」
「大丈夫! ただJKがじゃれてるようにしか見えないから!」
 適当に言って私はしばらくえみるちゃんから離れなかった。

 何だよもう、このサブライズ!
 頭の中涙で大洪水だよ。嬉しすぎて涙止まらないよ。
 ずっと、私の押しの方が強いんだろうなって思ってたのに、とんだ逆転ホームランだよ。
 自分の未来を、太平洋を越えてまで一緒に考えてくれる人がいる。
 それがどれだけ心強いか、どれだけ幸せか、恵まれているか。
 そして、それがどれだけのモチベーションになるか。
 もう遠慮しないよ? マジで勉強しちゃうよ? アメリカで研究者になっちゃうかもよ?
 一気にやる気と意欲が胸の中でメラメラと燃え上がり始めた。

「愛してる」
 耳元でそっと囁いて、私はようやくえみるちゃんを解放した。
 するとえみるちゃんははにかんで、
「I know」
 とだけ言って微笑んだ。

【了】

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以上が、試験的に夫からのオーダーを基に書いたオーダーメイド小説になります。いやぁ、初百合だったんで難しかったですね……人生初百合。

それはともかく、ここで夫の設定例を記しておきます。

・ハッピーエンド
・読後感は元気が出る感じ
・女性主人公
・一人称
・百合小説

この程度で構いませんし、逆に「もっと要求したい!」という方もいらしたら応相談で。

というわけで、八壁ゆかりの「オーダーメイド小説」、サンプルでした!

励みになります! 否、率直に言うと米になります! 何卒!!