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ANOTHER 新たなる冒険2021/3/15.16 (および配信) 観劇の記録


開演前、席に着いてしばらくするとLil かんさいのメンバーが読み上げるアナウンスが流れた。一生懸命読んでいる声がとてもかわいらしく、楽しみな気持ちが膨らんでいく。

そして開演、「旅人」から始まった。それぞれの役の衣装の上から白いコートのような衣装をすっぽりと被った5人がステージに現れる。

遠くで誰かがいま
僕を呼んでいる気がする 

5人の歌声に合った明るくポップなアレンジの「旅人」は、身につけた真っ白な衣装と相まって、まだ運命の残酷さを知らない無垢さをあらわしているようだった。

曲が終わると一変。舞台には島民役のJr.が現れ、激しい点滅、そして轟音と共に舞台が赤く染まり、背景の幕にANOTHERのタイトルロゴが白抜きで映され、緊張感がはしった。

暗転、幕が開くと、船が嵐に巻き込まれていた。少年たちはなんとかこの場をくぐり抜けようと必死だが、そのなかでウラは弟のコウスケに声をかけ励まし、リクは子どもたちを守っている。しかし、ウラは海に投げ出され、とっさに腕をつかんだタクヤだが、思いも虚しくウラは海の大きなうねりの中に引きずり込まれてしまう。

少年たちは島に流されていた。最後に目を覚ましたトアが混乱しながらも仲間の無事を尋ねると「無事や、ウラ以外はな」とフウガが淡々と感情を見せずに答えた。船の上でウラを追って海に身を乗り出そうとするタクヤを体当たりをするように止め、そしてウラを飲み込んだ海を見つめていたフウガのその言葉の奥には、悔しさが隠されているようだった。

それでも少年たちには「生きる」力があった。ルウクとコタロウは食べ物を見つけ、リクは年少の子を励ますように明るく振る舞う。

兄を失い、岩山の上でぽつんと座るコウスケにタクヤが寄り添い励ますが、ウラの親友であり彼を家族同然に思っていたタクヤの心のなかにも悲しみが満ちていた。リーダー格のトアの背中を借り、悲痛な嘆きを吐き出すタクヤ。
しかし、コウスケたちの前では明るく振る舞うタクヤは、みんなが辛くなったときの合言葉を決めようと提案する。Hi!と言ったら?各々が自由に合言葉を考える楽しい場面だ。このときも、ウラとタクヤに代わるように、コウスケの傍にはコタロウが寄り添っていた。
トアがHi!と言ったらHo!と合言葉を決めると、Hi!Ho!が始まる。明るい曲に乗って笑顔で踊る少年たち。前向きな雰囲気が舞台を包むと、どこからか小さな少年がやってきてその様子を面白そうに覗き込み、見よう見まねで踊っていた。

そのとき、プロペラ機がやってくる。助けを求めようと洋服を振り回したり火を起こしたりしようとする少年たち。しかし、上を向く仲間たちのなか、タクヤだけはなにもできないでいた。

合言葉を決めようと言ったタクヤこそが、どうにか自分を支える言葉を求めてはいたのだろう。さかし、どんなに言葉を重ねてもタクヤの頭の中からウラの姿は消えず、自らが生きようともがくことを責めるているように感じられた。

去っていったプロペラ機。フウガは「もっと自分を信じろ!俺たちは助かる!」と声を上げる。言霊だ、口にすれば真実になると言うフウガに、タクヤは「だったらなんでウラは帰ってこない!」と詰め寄る。過去を見ているタクヤと、未来を見ようとするフウガ、正反対の方向を見ている2人がぶつかり合う。

タクヤの手には、ウラの手の感触が残っているという。あの瞬間がタクヤの中で終わらない。
タクヤにつかみかかり、胸ぐらを掴むフウガは、生きようとしないタクヤに強い歯がゆさと悔しさを抱いていただろう。同じ瞬間、ウラを追って海に手を伸ばすタクヤを止めてその命を守ったのはフウガだったのだから。

仲間たちの仲裁、そして、生き抜こう!と口に出すトアを中心に、少年たちは改めて前向きな気持ちでまとまっていくように見えた。
星を探そうと歌う。地図もなにもないとき、星は道しるべになるのだ。

夜は心細い時間だ。年少の子たちはリクに見守られながら眠りにつき、5人は焚き火を囲んで、語り合う。家族の話、食べものの話、好きな女の子の話。懐かしい日々を振り返る彼らの話からそれぞれの生い立ちが浮かび上がり、描かれていない彼らの出立を想像させた。
ウラとコウスケの兄弟が家族だと語るタクヤ、ここにいるみんなが家族やと笑うトア。

楽しい夜が更け、少年たちが眠りにつくと一転、ウラがコウスケの前に現れる。ウラは頑張って生きるように伝えるも、コウスケは「一緒に居たい」と訴え、そしてウラもその思いを「仕方ないなあ、もう離れへん」と受け入れる。きよしこの夜が流れている。ウラとコウスケの絆の強さなのか、それとも弱さなのか。コウスケにとっては、ウラとともにあることこそが幸せだったのかと思うと、この舞台では生きることを描きながら、このシーンのウラの言葉は、ずっと違和感のように残っている。

朝、横たわるコウスケの周りに集まる少年たち。フウガは「なんで死ななあかんかったんや」と膝をつき、倒れる体を手で支えながら叫ぶ。前日に「明日はきっといいことがある」と語っていた彼は、動揺が広がるなか、コウスケのリストバンドがあるはずのないウラのリストバンドに変わっていることに気が付く。コウスケを守れなかったことに動揺し、タクヤは激しく自分を責めていた。

どれだけ大切なものを失わなければならないのか!その叫びとともにレクイエムが歌われる。
赤い布が舞台上で交錯し、タクヤの行き場のない感情のままのダンスが心を打つ。まるでひとの命が駆け抜けていくように、赤い布が駆けぬける。命は交錯し、翻弄される。どうして?と問いかける歌に乗せて、少年たちの悲しみとやるせない思いが表現されていた。

トアは誰もいないところで思いを吐き出す。そこに現れたのが島民であるルイだった。少年たちが島に流れ着いてから、何度も彼らのことを覗いていたルイはコウスケを「かわいそう」と言った。死んだことではなく、自ら死を選んでしまったことがかわいそうだと。一生懸命生きなくては、幼い少年がまるで何年も生きているかのように死生観を淡々と語る。

島はちょうど祭の季節だった。音に誘われて少年たちは"聖なる祭"を目撃する。
祓えたまえ清めたまえ、盲た男が霊廟での祭を取り仕切る。その場に出くわした少年たちに、よそ者は失せろと島民たちは迫り、フウガの号令に合わせて少年たちはどうにか逃げ出した。

島民から逃れるなかでコタロウとルウクが船を見つけた。この島から自分たちの町まで帰る、その希望の船だ。
島民の船であることは明らかだが、その船で故郷に帰るのか。船を奪うのか、奪わないのか。その判断はリクの提案でリーダーであるトアに任されることとなった。多数決では全員の思いを一つにはできないと考えたのだろう。
全員の未来を背負う重圧に、ハムレットの言葉をひとり口にしながら考え込むトア。ハムレットは父王の亡霊により自らも暗殺を企てられていることを知った。To be, or not to be ーー このままとどまるべきか、一か八かの船出をするべきか。

そして、トアは帰ることを決めた。

船を奪うという方法を選択した少年たちに島民たちが迫る。踊るように戦い、戦うように踊る彼らに目を奪われる。
しかし、万事休す、喉元に槍を突きつけられたとき、島長の声が響く。

同胞同士傷付け合うことはない、という言葉に、少年たちは確信する。やはりこの島の住人は日本人なのだと。そしてこの島の由縁とともに彼らの運命が語られる。ルイが言っていた「人は死に向かって進んでいる」という言葉が頭に浮かぶ。死に向かうことで、彼らは命と向き合っているのだ。そして彼らは、同じ痛みを抱えたもの同士、支え合う家族なのだ。
彼らの安寧の地であるこの島、ユートピア。その秘密を守ると誓って欲しいと島長は言う。ルウク、コタロウ、年少の子どもたちは大きな声で「誓います」と声を上げる。本作の中で彼らは「生」の象徴のように、死よりも生を、過去より未来を見ている。

船を手に入れ出航の準備に入ろうとする少年たちだが、去ろうとするトアに、ルイは怪我の手当を申し出る。島長は彼の父親で、優しいところもあると語りながら、赤い布を傷口に巻いていく。
トアがシャツを脱ぐと、右脇腹に大きなアザがあった。生まれつきの遺伝で、父親にも同じアザがあるという。それを見たルイが衣服をはだけ、右の脇腹を見せる。そして、自分も生まれつき同じアザがあるという、そしてそれは、父親からの遺伝であると。

少年たちは出航に向けて浮き立っていた。荷物をまとめ、島のフルーツをたくさん積みこみ、希望に満ちた笑い声が響く。
誰もトアの様子など気にとめないなか、落ち着き払ったタクヤが声をかける。怖くても確認しなくてはダメだと、タクヤの後悔がトアの背中を押した。

トアは島長を呼び出した。
なんの用だと嘯く島長に、なぜこの島に来たのかと問いかける。
原爆の恐ろしさと途方もない力、それを利用しようとし、しかし事故が起きた。被曝して視力も奪われた。償いとして、産まれたばかりのルイを連れて、被爆者とその子孫が暮らすこの島にやってきたと。
しかしトアが聞きたいことはそんなことではなかった。「なぜ母さんと俺を置いていったんや……!」感情が揺れる。
父は、発病したトアの母を連れては来られなかったと語る。母もまた被爆者の子孫だったのだ。彼女の時限爆弾が動き始めた以上、医療もなにも整わない島へは連れては行けなかったのだろう。
島にいる全員が時限爆弾を抱えている。それはいつ動き出すのかわからないが、だからこそ、死に向き合って懸命に生きるのだ。しかし、父はトアにそうやって生きることを望んではいなかった。時限爆弾など、命の期限など考えずに明るい未来だけを見て生きて欲しかったのだろう。トアにはこのことを伝える気はなかったと言った。

自分を捨てた父への怒り、悲しみ、母への思い、そして自分の運命への戸惑いと、唐突に目の前に突きつけられた死への恐怖。トアの慟哭に劇場が震える。まるで胎児のように身体を丸めて震わせる。父が寄り添うと少しためらいながらもその身体にすがりつく。
そして安心したようにさらに声を上げて泣いた。身体に力が入り、不随意に脚が地面をドンと鳴らす。
ひとしきり泣いて、しかしトアはひとりで立ち上がり、そして歌う!

生きていく意味を求めて
旅に出たのはそう、あのとき

思いをぶつけるような歌声は叫びにも似ていた。自分の抱える思いを吐き出し、訴える。
死ぬためではなく、生きるために、生きているのだと。

仲間のもとに戻ったトアの表情は晴れやかだった。島に残る決意をしたタクヤもまた、決意を込めた明るい落ち着いた表情をしていた。ウラとコウスケを弔いながらこの島に留まるというタクヤの決意は、祖先の霊をなぐさめ、死を見つめる島民たちに受け入れられ、彼にとってもこの地が安住の地となったのかもしれない。
それぞれが島民とタクヤに別れを告げると、出航の時がやってきた。
もやいを解け!錨を上げろ!
いつの日も輝きを抱きしめて明日へ向かう、その歌のとおり、彼らは故郷へ、そして未来に旅立って行くのだ。

幕が降り、トアの心情のモノローグが流れる。
Let me live 我を生かせ、僕は生きる!
これがトアの選んだ未来だ。ハムレットと同じ迷いの中にありながら、見つけ出した答えだ。言霊だ。

「遠くで誰かがいま、僕を呼んでる気がする。特別な心であてもない旅に出かけよう」そう歌ってはじまった彼らの旅が、この島を経て、また続いていく。船はまたどんな困難に出会うかわからない。時限爆弾は無くならない。傷もそのままだ。過去も事実も変わらない。それでも、その未来が明るいものであって欲しいと願う。

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3/15 挨拶でとあちゃんは「舞台として見て欲しい」と言った。出演者をそれぞれの役として見て欲しいし、誰が何していたかではなくて舞台全体として見て欲しいと。
出演者ひとりひとりを役として見るのは、そう難しいことではなかった。全員が役として生きていたからだ。ただ、舞台の中で全員が生きていたからこそ、舞台全体を見るだけではない楽しみがあった。それはもしかするとそれぞれにファンがいるからこそ伝わってくるのかもしれない。トアにはトアのストーリーが、タクヤにはタクヤの、フウガにもコタロウにもルウクにも、ひとりひとりの思いとストーリーがあり、作品のひとつのつながりの中でしっかりと表現されていたし、その全てを見ている人が必ずその場にいた。
これこそが、アイドルが舞台に立つ醍醐味でもあるのではないかと思う。

今回、自分の見たANOTHERをまとめたけれど、わたし自身もかなり偏って見ていた自覚はある。それでも舞台に立っていた全員が素晴らしかったと思っています。

全38公演+配信、おつかれさまでした!

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