とあるブライダルのキャッチセールスさんから学んだ営業スキルの話

はじめに

最近、なんの偶然か自分の業界とは別な業界の営業さんから勉強する機会をいただきました。 ...といっても、私が路頭のキャッチセールスについていった、というだけの話なのですが。

正直なところ、提案内容に信頼性を感じられず、胡散臭い企業だったのだろうと思ってます。が、私としては良い勉強機会になりましたので個人的にその営業さんには感謝しています。そのときの体験と考察をまとめてみようと思います。

注)
「怪しい企業から営業の何を学ぶと言うのだ。人を騙す方法か?」と反応される方があるかもしれません。しかし、特にそのような意図はありません。仮に「怪しい企業」が真実だったとしても、それはそれで自衛策としての勉強意義があると思ってますので、営業スキル云々の表題に納得のいかない方はそういう読み物として読んでいただければ。

補足)
私自身はIT業界のエンジニア(自称)です。転職市場で役立つように営業スキルを学びたいなと思っていた折の出来事でした

キャッチセールスを受ける

独身男性かつ結婚予定のない人を対象にアンケートを取っている、と言う女性に声を掛けられ、相手をしていたら自社商品を提案する機会がほしいと言われました。聞けば、貴金属やダイヤなどの商品を中心に取り扱っているそうです。

現時点で結婚については具体的な予定も意思もない私ですが、お相手もそういう人間だと承知した上でどのようなセールストークをされるのかは興味がありました。

セールストークは、一貫して「ストーリー」や「価値観」の提案でした。必要性を感じてもらうための背景を冒頭に説明したり、ホラーストーリーも織り交ぜたり、時には具体的な数字を示しながらの提案にはそれなりに説得力がありました。

ストーリーを売る

以下のような筋書きです。

まず、結婚希望の年齢と現時点の貯蓄額をざっくりでヒアリング。現在からその年齢までの猶予期間を見積もる。結婚するまでにどのようなイベントがあり、どの程度の予算を見込まなくてはならないか示す。

予算を捻出するために、1ヶ月あたりで必要となる積み立て資金の概算を逆算し提示する。この時点で、かなり意識的な努力が必要な数字であることを互いに納得する。

短い猶予期間の中で、今から計画して準備しておくことが必要。結婚するその場になって金がない...という有様では計画性のない男性だと映り、将来をともにすることに不安を感じてしまう。よって、今結婚の具体的予定がなかったとしても、それを見据えて準備しておくことは有用である。

式やハネムーン、住居は相手方の事情もある。今から決めることはできない。しかし、結納やエンゲージリングは1人でも費用を見積もって計画することができる。具体的な準備(=商品を購入)を始めることで、自分磨きにもなるし、結婚できる「価値観」にシフトできるようになる。私たちは、その実現のお手伝いがしたい。月々の収入から計画資金をいくらか決めて、その範囲内で無理のない金額の商品を提案させてほしい。

〜〜〜

商談に入るまでの導入にかなり時間をかけているのが特徴的でした。商品そのものではなく、顧客が商品を自発的に必要とする理由を導く、ということだと思います。

上記では省きましたが、結婚生活のイメトレという茶番もありました。何気ない幸せな家族の1コマといった風情で、イメージの描写が非常に具体的でした。正直、結婚願望が刺激されました。

結果

もとより取引するつもりはなかったのでお断りしました。仮にフラットな気持ちで話を聞いていたとしても、提案内容以前の部分で不明瞭な点があったので成約することはなかっただろうと思います。

所感

まず、なるほどと思った点。

準備することの必要性の説明や、ホラーストーリー、独身男性の欲求(あるいは劣等感)を上手に刺激していました。提案背景となるストーリーは作りが練られていたなと思います。

適齢期で未婚の方に対しては、(環境によって差はあれど)多少なり周囲の圧というのもかかってくるでしょう。独身であることに多少なり劣等感を抱く男性もいらっしゃると思います。そういう相手に対して「女性目線のマイナス評価」という物差しは刺さります。前面には出していませんでしたが、節々で「女性目線では、結婚できない男はこう」というニュアンスがありました。

「具体的な結婚の想定がない男性」をターゲティングしたセールスであることもうまいなと思いました。提案相手は結婚に関する段取りや見積りを把握していない可能性が高い。具体的な資金繰りの計画を実行している可能性も薄い。知らないことによる「不安」が、ホラーストーリーの訴求力を高めていると思います。

具体的な費用の話をしたことも、説得力を補強しており上手かったと思います。より現実味のある話として、実感に近いイメージで聞くことができます。顧客が想像できる範疇の話題と言葉で会話することと、必要に応じてストーリーの正当性を補強する根拠を提示すること、この2点がポイントだったと思います。

〜〜〜

以降は「おや」と思った点です。商談要素が入ってきたあたりからずっと違和感がありました。決定的な違和感が複数あり、商談としては検討以前の内容だったかなと思います。

〜〜〜

感情に「欠点」を訴えかけるタイプのホラーストーリーは、聞く人の冷静さを失わせます。個人的にはあまり上品な営業ではないと思っており、あまり好きではないです。

ホラーストーリーは1度の商談で多用するタイプの手法ではないと思いますが、必要性の訴求手段としては強力なツールだと考えます。使うなら、理性に訴えるストーリーが望ましいと思います。

〜〜〜

購入意思を示してから具体的な商品提案を行う、というスタイルでした。
総額の振れ幅が見えないのに、購入に関する意思決定を求められるわけです。これは検討する以前の話です。

〜〜〜

予算の話にも言及がありました。しかし、「月額の収支から無理なく捻出する範囲を決め、それに合わせて提案商品を変える」という内容に終始していました。総額に関しては「商品による」として回答をいただけませんでした。

ここで営業の方が使ったテクニックは、「切り口を変えることで印象を変える」ということだと思います。有効な手法であることは間違いないと思いますが、今回の場合は購入に不可欠な検討事項(=予算の総額)をスルーしているので、あまり良くない使い方だったと思います。

このテクニックの正当な使い方というのは、たとえば初期費用の高さだけを気にする顧客に対して運用コストを加味した長期的な損得勘定を提示する...といったようなことでしょう。別の切り口を持ち出す目的は、その見方をすることで顧客が気づいていなかった「提案の利点」を発見してもらうためだと思ってます。提示する必要がある考慮事項を隠す道具として使用するものではないと思います。

〜〜〜

資金を貯めることと購入することは別々の判断です。
先方からはその場で購入意思を決めてほしい、と言われました。私の立場では「貯蓄の計画だけ実行しておけばいいのでは?」と思いました。

ストーリーによって、資金計画の必要性には納得しました。しかし、今購入する必要性については合理的な回答が得られませんでした。ここで起きていたことは、「顧客に起こしてほしいアクションに対して、必要な意思決定のプロセスを考慮しなかった」「考慮する時間的猶予を与えなかった」の2つだと思ってます。

「結婚できる男になるために準備が必要!」→「じゃあ準備のアクションを取ろう!」...というメッセージまでは筋が通っていたのですが、彼女にとっての「アクション」とは「商品の購入意思を表明すること」でした。他方、こちらの立場から見れば、提案を受けているのは直近の需要がない、しかも高価な商品です。現在の生活のゆとりを目減りさせてまで即買いするほどの動機はありません。

仮に。買う方針で検討するとしても、そのときの意思決定は

・積立資金の計画を立てて、実行する
・数カ月後の経過を見て、生活に無理がないことを確かめる
・必要性を改めて吟味し、購入可否を判断する

のように、ある程度の準備期間・検証期間を必要とするはずです。少なくとも1日やそこらの検討でGoサインを出せる買い物ではないです。

顧客側が最終的な意思決定をするまでにどういう過程を辿るか、という観点を踏まえると、彼女が私に意思決定を急いだのは些か無理筋だったのではないかと思うのです。

toBのビジネスでも同じだと思います。組織の決まりごととか、予算が承認されるまでの流れとか、そうしたプロセスを無視して迫っても、顧客担当者は「そんな急に決めらんねーから」と思ってしまうでしょう。
逆に言えば、意思決定するために必要な過程を理解し、その手助けにまで気を回せる営業の方は「最後のひと押し」で勝ちを掴み取れる優れた営業さんなのだろうなと思います。

まとめ

営業スキルの学びがほしかったので、勉強させてもらいました。営業の彼女にも「商品には興味ないよ?」と前置きして承諾いただいてるので、まぁ迷惑行為ではないでしょう...たぶん。

[1] ストーリーに共感を得る。提案商品はストーリーを埋める1ピースであり主役ではない
[2] 必要に応じて、根拠を提示する
[3]「ホラーストーリー」は使い所次第で有効。ただし、プライベートな劣等感を刺激する内容は避けるべき。相手が理解できる世界観の話題を選んだ方がよい
[4] 意思決定や決裁に至るまでの顧客のプロセスを考慮する

得られた知見としてはこんな感じかなと思います。ガチの悪徳業者に引っかかってしまうのも怖いので、こういう真似は今回限りにします。良識ある方は真似しないでくださいね。

以上です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?