「やりたくない」営業職に就いて鬱になった私が、それでも営業職やって良かったと思えた理由

複業研究家の西村さんの記事(下記)や、motoさんのVoicyなど、営業キャリアを積まれた方が語る言葉にインスパイアされてこの記事を書きました。

私は現在SE(っぽい)仕事をしている者です。所謂インフラ系のSIerに新卒入社し、今年で5年目になります。今はSEですが、ファーストキャリアは法人営業でした。

当時の心境は辛み9割5分といったところですが、今はその経験を9割5分ポジティブに語れるだけの心の整理がついています。営業は1年少々で挫折しましたが、サクセスストーリーじゃない経験談があってもいいんじゃないかなと思いこの記事を書いています。

世間的には、私はオタク気質が強いコミュ障、って感じの人物像だと思います。到底営業向きとは言い難い性格で、経歴も華々しさとは程遠い。
そんな人間が語る「営業の良さ」ってなんだろう?と少しでも興味を持っていただけたら幸いです。今後のキャリアを考える皆さんの一助になればと願います。

筆者について

中小のSIerに所属しているSEです。今年で新卒5年目になります。

職務はシステム運用系で、社内の業務改善を主なテーマとした設計・企画に携わっています。社会人歴としてはざっと以下のような感じです。

1年目: 研修+OJT期間
2年目: 本配属で法人営業へ
3年目: 異動願いを出し、運用系の部署へ。オペレーター
4年目: オペレーターチームのリーダーっぽいことをしつつ、業務改善系へシフト
5年目: 業務改善に軸足をシフト(今ここ)

学生時代は情報工学系をやっており、その延長で大学院に進学しました。昔からプログラミングやコンピュータサイエンスは好きでしたので、就活はIT系しか受けていませんでした(当時は営業をやる気など一切なく、ごく自然にSEとしてのキャリアを想像していました)。

1年目のOJT期間で営業・構築・運用と一通りの部署を回る経験をさせていただいて、最終的に本配属希望を出したのが営業職でした。

会社の特色としては以下のような感じです。
・BtoB、インフラ系SIer
・積極的な主張や挑戦をすることが望ましい行動指針とされている。自分からは何もせず、言われたことだけやるスタンスは評価されない
・営業はほぼほぼインバウンド(お客様からお声がけいただいて商談が始まる)で、飛び込み営業はしていない
・営業でもIT知識が要求される。営業段階からお客様の要件を技術的に深掘りできることを強みとして定義している

なぜ営業になったのか

上述の社風が後押ししてくれた部分が非常に大きいです。挑戦を是とすることもそうだし、営業でも技術を掘り下げるよう求められる環境も心理的ハードルを下げました。

私自身の価値観にも都合よくマッチして(しま)いました。元来好奇心が強く、「自分の知らない知識や価値観・世界観に出会う」ということに喜びを感じる性格だったので、一度は経験してもいいかな、と思えたんです。

「技術の人間としてキャリアを積んでいきたい、その芯は今後も変わらない。しかし、だからといって技術一辺倒で視野の狭い人間にはなりたくない」
「今後の糧として営業的な視点は仕入れておいて損はない。数年して技術に転向したら、その後はもう二度と営業をやることもないだろう。新卒直後の数年間なら大して失うものはないし、経験しておくなら今がいいだろう」

というわけです。まあ、少なくとも理屈ではこう考えていました。OJT期間の時点で到底うまくやれる気がしない、というイメージしかなかったんですけどね。それ以上に、経験してみたい・失敗しておくなら今しかない、という気持ちが強かったです。

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↑が当時のリアルな心境だったのですが、今思い起こせば「失敗する気しかしない」挑戦で良い結果が出るはずもない、、、と反省しています。根性がネガティブすぎます(笑)

当時の自分に言葉を贈るとすれば、
「うまくやるために何をするのか、具体的な行動につながるように考えろ」
「全方位でうまくやろうとするな。幻想だから」
と言いたいです。

また、今の自分が営業をやるとすれば以下のようなことを考えると思います。
・注力すべき顧客を見極めて、そこにより多くの神経を注ぐ
・顧客にとって何が「成功」なのか、という文脈で会話する。自社商品は商談の主役ではない
・顧客が我々の提案と何を比較して検討しているのか把握する
 ※例えば自社の予算上限、競合他社の類似商品、全く別のソリューション、など
・顧客に対しても、自分に対しても、次アクションのレベルに落とせる議論の展開を基本にする。「こいつと会話すれば話が進む」と思わせる
・原則となる大方針を意識し、その流れに沿う行動をする。多数の商談から注力すべき顧客を見極めることもしかり、1件の商談における「筋書き」の構成もしかり

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つらかったこと

先にしんどかったことから書いていきます。
※営業職がどうというよりも、私自身の社会経験のなさとか、マルチタスクが極度に苦手な性分とか、個人に帰する要因もかなりあると思ってます

まず、事実として。
本配属から1年ほど経ったころ、あまりにメンタルがしんどいので心療内科に行きました。軽度の鬱と診断を受け、ごく一時的にでありますが抗うつ薬の処方を受けていた時期があります。幸い、当時の上司や人事からサポートいただいたこともあり休職までは至らなかったのですが、まあそれくらいしんどく思いつめた時期はありました。

辛さの要因はいくつかありますが、特に重荷だったのは以下のようなことかなと思います

1. 複数の案件が回しきれくなった
2. 「全部を」頑張ることが美徳であり、そうすべきだと思っていた

お客様によって案件は千差万別です。フェーズも違うし、扱うシステムも違う。新規案件だけでなく、すでに契約済みで運用フェーズにあるお客様の担当を引き継ぐケースもあります。そういう複数の案件を同時に受け持つことになります。

それぞれの案件状況によってやることは違うので、同時並列で色々な種類のタスクをやる必要があります。
当時の会社的には「来た案件はすべて取りに行く」の姿勢だったこともあって、私も「どんな商談でも全力でやるべき」と考えていたんです。これが非常に辛かった。

頭の切り替えがあまりうまくない私にとって、このマルチタスク自体が結構な負担でした。そこに加えて「手を抜いてはいけない」「逃げちゃだめだ」という考え方をしていたものだから、尋常じゃなく疲れました。

今ならば、そうなるもっと手前の時点で「ごめんなさい、もうこれ以上持てません」と上申したり、確度や売上期待値の低い商談を意識的にクロージングしていくことで調整すると思います。当時はそういう区別がつくほど利口ではなかったし、「全部頑張る」ことが正しいことだと、先輩の期待に応えることだと思っていたんです。結果的に自分の首を締めてしまいました。

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クロージングの件に関しては当時も似たようなことを考えていましたが、やり方が中途半端でした。

自分の精神的な「大変さ」を(無意識ではありますが)判断基準に持ち込んでいたと思いますし、きっちり「クローズ」していなかった。成功させるプランもないくせに、未練がましくメールの往復を続けているケースがありました。これでは結局頭の中が消化されず、次のタスクを受け入れる準備にならない。何より、お客様にも大変失礼な応対をしてしまっていたと思います。

きれいにクロージングする方法は今の私にもわかりません。具体的なアドバイスはできませんが、どっちつかずな態度はお客様にも不誠実だし、自分にとっても不利益でしかない...ということだけは申し上げておきたいです。
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良かったと思うこと

ここで書くことの多くは、異動先の業務が軌道に乗り、心の整理がついてきたころにようやく腹落ちしたものです。営業やってた当時はそれどころではなかったので、自発的に学びとったというよりは「時間が消化させてくれた」という感覚に近いです。

1. 色々な職務範囲を経験できた

例えば
・提案書
・見積書
・契約書
・受発注処理
・検収
・社内調整
・その他問い合わせ対応
あたりです。

案件がどういう風に回っていくのか?お客様は発注してくれるまでにどのようなプロセスを経るのか?...そういうことを実際に体験できたのは非常によい学びになりました。

特に面白かったのは見積と受発注、契約書です。

# 見積書 & 発注書

見積もりって、ただだた項目と金額を羅列しただけのものだと思っていました。それだけじゃなかったです。価格以外の「意図」も表現できるんです。

たとえば、継続的なお付き合いのあるお客様で、年度区切りの間近に入ったシステム構築案件。今期で消化できる予算が不足しており、提案中の商談の見積額がその予算を超えている・・・というケース。

お客様との信頼関係を大前提とした話ですが、見積書を今期用と来期用で分割し、片方を今の半期の予算で決裁いただき、もう片方を来期に決裁(発注)いただく、という調整ができます。

発注タイミングが分割されることで、期代わりの予算消化にうまくフィットした処理ができる、という例です。営業視点では売上の見込みを早く立てられますし、お客様としても予算の都合に左右されずプロジェクトをスムーズに進められるメリットがあります。
※各見積書にはプロジェクトスコープを明記するなどしてクリアな進め方をする工夫が必要です

お客様のご予算や社内手続きのご事情を踏まえたときに、見積書や発注書の表現ひとつで工夫できることがある、というのは面白いと思いませんか?

# 契約書

当社が特殊だったのかもしれませんが、私が所属していたころの営業部は(法務の人手不足もあって)契約調整の初期段階は営業が受け持っていました。もちろん、最終的には法務が判断を下すわけですが、前段として営業が簡易的な最低限のチェックをしてお客様と折衝するケースが多かったです。

お陰様で、請負契約と準委任契約の違いとか、注意して見るべきポイントなんかはサクッと読めるようになりました。

SIerの構築案件ならば、よくあるのは納品物(設計書とか)の著作権の帰属、瑕疵担保の期限、機密保持の定義や期限、契約違反時の賠償額の上限規定、再委託の可否、あたりです。私生活においても契約書って非常に大事なものですし、抵抗なく読めるようになったのは非常に有意義でした。

他社の契約書を何件も見て調整していると、そのお客様の法務部門が考えていることがなんとなく読み解けるようになります。
たとえばノウハウの流出に対して非常にセンシティブなお客様だったりすると、機密保持や納品物の著作権あたりがガッチリしてますし、相手方の法務も関連条項に関して交渉余地が薄かったりします。

営業職をやる前は、契約書には「味気のない、堅苦しい、取っつきづらい文書」と敬遠気味な印象を持っていました。免疫がついたことも嬉しかったですし、契約書からその企業の個性を感じる体験が非常に面白かったです。

2. 営業職の苦労を実感した

IT界隈だとよく「営業とエンジニアの対立」構図は耳にします。今でこそエンジニア側にいる私ですが、営業職の大変さを知った今そういう対立を自分がやらかすことはないと思います。

基本的に(SIerの)営業職は「板挟み」が多いです。お客様からは(言い方悪いですが)わがままを言われ、身内からは「要件が曖昧な案件やスケジュールがきつい案件を適当に取って来ないでくれ」などと言われる。さらに社内の法務や経理など、関係者の間を取り持つ機会は多いです。
身内の仕事に不備があれば矢面に立ってお詫びしますし、関係者の間で利害が対立すれば落とし所をつけるため交渉の窓口に立たなくてはならないケースも出てくる。体力気力、どちらの面でも非常に疲れるんです。

そういう苦労が想像できるので、一方的に自分の都合を押し付けるだけの文句とかそうそう言えないです。接客業のバイトを経験した人が店員の苦労を知っているように、他者の事情を知れば、その分優しくなれる。その方が平和です。

交渉ごとの観点でも、相手の苦労とか利害に配慮できる方がたぶん事をうまく運べると思います。自分が「成果」を挙げる上でプラスに働きやすい。本職以外の目線を持っている、これは「強み」だと思います。

3. 多くのお客様は「私達の商品」自体に関心があるわけではないとわかった

ここで言いたいことを一言で表すなら「顧客視点」だと思います。どういうことなのか説明します。

(当社の場合ですが)だいたいのお客様は、自社の課題ありきでお声がけいただくことが多いです。商談中にそれを明言しなかったとしても、潜在的にはなにかしら未解決の「用事」を抱えています。だからこそ、商談の場を設けていただいてるわけで。

お客様としては、その「用事」こそが主役です。それを解決してくれる提案であれば、実現方法はなんであれその提案は耳を貸すに値する話になります。主役は私達の提案商材ではなく、お客様が自社内に抱えている「解決したい用事」である。この節のタイトルはそういう意味です。

これと対極に位置する考え方が「自社の製品を売ることで頭がいっぱい」な状態です。お客様の関心事を見ていないのですから、お客様の心を射止める確率も薄れてしまうでしょう。
営業在職中の私がまさしくそういう視点だったわけですが、今振り返ればピントのずれた考え方だったなと思います。技術一辺倒のキャリアでこの視点に気づけたかどうか。少なくとも、私にその自信はありません。

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更に欲張るなら、顧客の想像をいい意味で裏切る「価値」を提示できればいいですよね。競合と似たり寄ったり...という印象を持たせてしまうと、最終的には価格競争の土俵で勝負することになってしまいます。

挫折した私が言うのもおこがましいですが、「価値」の伝道が上手な営業は、値下げに頼らずとも「売れる」んです。

値下げに頼らないと売れない...というのは、ともすれば「エンジニアの技術を安売りしている」状態とも言えます。あまり好ましくはないですよね。
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価値の伝道は非常に難しいスキルだと思います。自社で提供できることにも限界があります。その中で、お客様にも自社の価値を見出してもらわねばならない。

...今営業に戻ったところで上記を実践できる自信はありませんが、少なくとも「顧客視点」のなんたるかは多少実感できたんじゃないかなと思います。

キャリアプランとしてのメリット

技術1本で年収を上げていくというのは茨の道だと思ってます。ある分野で頂点に立てたとしても、その価値が普遍的である保証はないです。ITは特に変化が激しい分野ですし、磨き上げた特定分野のスキルも10年後には価値のないものになっているかもしれない。

(残念ながら)私に、ハッカーなどと呼ばれる人種の仲間入りができるだけの才覚があるとも思えない。本職はエンジニアでありたいと願いつつも、それだけでは頭打ちする日も早いだろうと思っていました。

自分の価値をどこで訴求するのかと考えたとき、「複数の武器がある」ことがまず大事だと考えました。ファーストキャリアに技術以外を選んだ理由はそれです。

勝負する軸を複数持つことで、いくぶんか勝負はしやすくなります。
しかし、最終的に転職先の採用担当者に見出してもらえなければその武器は持ち腐れです。採用担当の慧眼に期待するより、自分から「自分の価値」をアピールできる力を身に着けておく方が勝算がありそうです。そう考えたときに、お客様に価値を提案する「営業」という職種は非常に魅力的に映ります。

また、複数の職種を経験して視野を広げることは「成果を出す普遍的な思考」を身につけることに繋がると考えます。

様々な関係者の関与によってビジネスが成立している以上、「技術」の都合だけでは「ビジネス」が立ち行かないことも多々あろうと思います。それに、社外に出ればこれまでの常識が通用しないシーンだって出てくると思います。
こうした外界の変化に適応し成果を出していくためにも、視野の広さが重要だと思います。そのためには「本職」とは違う職種を経験してみるのもアリ、なのではないでしょうか。歳をとれば未経験の異業種に飛び込むことも難しくなるでしょうし、経験業種の幅を広げるなら早いほうが得です。

まとめ

当時思っていたこと、今整理して文章にしたことを文章に起こしてみました。

自分のように平凡な技術者がこの先やっていくために、営業という経験が将来の投資として非常に意味ある経験だと感じている、というのが結論です。

正直、ポジティブに過去を整理できた現在でも「営業やりたくない」の気持ちは残ってます。根っこの性分が向いてないですもん。でも、私の短い社会人歴で一番の財産になった経験をひとつ挙げるとすればそれは営業職の経験だと思うのです。

挫折して鬱を患ってもなんやかんやで復活できましたし、たぶんこのノートを読んでくれた皆さんも大丈夫です。私の場合は挫折しましたが、ちゃんと糧になってくれました。

一時的に凹んでもそこが終着ではないし、きっといいことあります。食わず嫌いしないで飛び込んでみたらいいんじゃないかな、と思います。


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