見出し画像

公衆電話

F山に登り始めるとしばらく森の中を歩く。
頂上が見えない山道は変化に乏しい迷路を歩くようだが、前方から電話の呼び鈴のような音がしている。
公衆電話だ。
こんなところに公衆電話?緊急電話として使うためだろうが、その電話が鳴っている。
森閑とした森を汚すような音は何か自分の罪のような感覚を感じさせられる。たまらず受話器をあげてしまった。
「おひとりですか?単独ですと色々危険性が高まります。昨今この山に気軽に登頂しようとして、怪我をされたり迷って遭難救助となるケースもございます。お電話だけでお手続きが済む当社の傷害保険をお勧めしておりますがいかがでしょうか」
電話を叩きつけた。
背後でまた電話が鳴っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?