自殺志願者を理屈で説得する試み

(カジュアルな文体にしているため不謹慎かもしれません。
自殺志願者を含め、自己責任で読んでください。)

メンタリストという海外ドラマがある。

妻と娘を殺された凄腕のメンタリストであるパトリックジェーンがその犯人を捕まえるため、情報収集も兼ねて警察に捜査協力しながら様々な事件を解決していくという内容である。

それだけ聞くと黒の組織の情報を得るために毛利家に居候するメガネの小学生となんら変わりないのだが、パトリックジェーンは元メンタリストである。

洞察力と人間真理を極めた男ならではの独特な(ぶっ飛んだ)捜査手法によって、時々おかしな展開になり、パートナーのリズボン捜査官が四苦八苦する様も見どころの一つとなっている。

その一例として橋の上から飛び降りようとしてる容疑者を説得するシーンがある。

パトカーに警官にドでかいトランポリン。
今にもフライアウェイしそうな勢いの容疑者を皆で見上げなら説得すること2時間。現場の緊張感が頂点に達したタイミングで遅刻してきたパトリックジェーンが到着し、アルフォート1個もらうくらいのテンションでスピーカーを借りると右手をポッケに入れたままこう言う

「おねーさん。頭から飛び降りてください。
体が先に地面につくと衝撃が吸収されて脳の損傷が少なくなる。
確実に死ぬには頭から真っ逆さまに落ちるのが一番です。
いいですね?頭からです。」

リズボン捜査官は焦ってスピーカーを取り上げるが、予想外の助言に容疑者はキョトンとし、ようやく登ってきた旦那に説き伏せられて降りてくると、

「本当に死にたかった訳じゃないんです。ただ夫にかまってほしくて。」

とこういう。

さすがメンタリストである。深層心理を読み取り、斜め上からチェンジアップのような変化球で一呼吸おかせる

「かまってほしいから死ぬ」というタイプの自殺志願者はパトリックジェーンに任せておこう。

今回このnoteで私が説得対象とするのは別のパターン。

「疲れたから死ぬ」というタイプの自殺志願者である。

まずこのような動機の人を説得するシチュエーションとして、先述したような緊迫した状況になることはあまり多くないように思える。

「疲れた人」や「結論が出た人」は飛び降り直前に誰かが説得する暇もなく、自分なりの翼を見つけてダンボみたいにヒョイっと飛んでしまう印象がある。

二階堂奥歯なんかはもしかするとその例かもしれない。
(25歳で投身自殺した編集者。死ぬ前の3年間で綴った知性と文才溢れるブログは、後に「八本足の蝶」というタイトルで書籍化され本屋大賞を受賞した)

大抵の場合疲れた人の死生観は日常の何気ない会話の流れでふと表れ、最終的に「なぜ死んではいけないのか?」というテーマに行き着くことが多い。

そして代表的な解答例として「もったいないから」というのがある。

今は辛いかもしれないけど、生きていれば楽しいことがあるのにもったいない、というもの。

この説得は「なぜ黒染めしなくちゃいけないのか?」という質問に対する
「校則だから」という回答と同じくらい意味がない。
その校則が存在している理由を聞いているのに対し、その答えが「その校則が存在しているからだ」というのは回答として全く成立していない

先に待つ幸せを提示し、今と未来を比較している時点で生き延びることが前提になっているので、「生きなければいけない理由」という前提そのものに対する議論とは論点がずれる。

本人は「生きるメリットデメリット」と、「死ぬメリットデメリット」を比較しているのだから、死んだらこんなデメリットがあるかもよ、という論調にしたい。

そこで「死んだら生きる意味がみつかってしまうかもよ?」と言ってみる。

それはデメリットではなくメリットだ。と返ってきたら、ワンピースのイーストシティ編でサンジが大嫌いな海賊ゼフと2人で遭難するシーンを紹介しよう。

サンジとゼフはだだっ広い海の上の、子供部屋くらいの小さな丘に打ち上げられる。生き延びるための食糧を2人分で分けるが、サンジのものより3倍ほどデカい食料袋を見て不公平だというと、大人の俺の方が胃袋がデカいんだと突き返される。

20日経って限界になったサンジはゼフの食糧を奪おうと試み、バレないようにこっそり盗み開けると、そこには袋いっぱいの財宝が入っていた。

ゼフは最初から全ての食糧をサンジに与えて自分は20日間何も口にしていなかった。そしてこういう。

「金があるのに食えねえってのは、おかしな話だな。」
「こーゆー時、いつも思う。海のど真ん中にレストランでもあったらってな。ここを生きて出られたら俺の最後の生きがいにレストランをぶったてようと思う。」

無事に助けがきて、のちに開業したレストランをコックとして手伝ううちに、客としてきたルフィーとひともんちゃくあった結果、サンジは麦わらの一味に加わることになった。

ここで出た「金があるのに食えねえってのは、おかしな話だ」というのは、「手段はあるのに目的が達成されないという矛盾」をよく表していると思える。

死んだ後に生きる意味なんて見つかってしまったら、「せっかく手に入れたのに」となる気がする(個人の見解です)。

神様が「あなたが積んだ徳の量ならランクCの天国行きです。」
と言ったら、そんなことならもっと徳を積んでいたのに。とがっかりする。
それが徳の量なのか、食べたバナナの量なのか、犯した禁忌なのかは分からない。

見つからなくて見つからなくて、誰に聞いてもわからなくて、諦めて死んでみて、見つかってしまった時には既に死んでしまっている。もう一度生き返りでもしない限り「生きる意味を知った充実した人生」を送ることはできない、という矛盾がありもったいない。

というのが死ぬデメリットとして挙げられるのだが、しかしまあ、死んだ後のことは分からない。不確定要素が多く説明の根拠が弱いので主張に根本的な説得力はない。

一方でこうも考えられる。

分からないから無限に可能性がある。
誰も行ったことのない世界なので可能性自体は無限にある。

そんな可能性に満ちた世界でしか成立しない「生きる意味」というものを、生きてる世界という寿命や物理法則などの ”制限だらけの世界” で無理やり存在させようとしてることが、先述した矛盾の出発点だとも思う。

話がとっ散らかってきたのでタイトルを回収すると、
「自殺志願者を理屈で説得するという試み」は一旦失敗。

酒飲んでカラオケ行くみたいな簡単すぎる方法じゃなくて、もっと不特定多数の、会ったこともない誰かを救う一つの手段として「理屈」を使ってみたけどやっぱりむずかったので、どなたか良い方法を知ってる方いたら教えてほしいです。

#創作大賞2022


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