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田植えとお酒と

 6月15日,田植えに行ってきた.
 場所は,熊本県和泉町にある花の香酒造.
 酒造でなぜ田植え?と思われるかもしない.花の香酒造では,地域に根ざし,文化を守る「産土」という取り組みが行われている.その一環として,古来からの伝統農法を用いた米作りが行われている.田植え定規を用い1本ずつ手で植えていく「1本手植え」や馬を使って水田を耕す「馬耕」など,現代の機械が生まれるまでに実際に行われていた農法が行われている.当然著しく効率は落ちる.しかし,この農法を現代に行うからこそ,その米で作られた酒は付加価値が生まれ,「産土」ブランドとして販売されている.また,1本手植えや稲の刈り取りは,一般人も体験申込ができ地域の活性化にも貢献している.今回は1本手植えの体験を行った.

 先ほどから,「1本手植え」と言っているが,これはその名の通り稲の苗を1本ずつ手植えにする.3~4本ずつ植えるのが通常であるが,1本ずつ植えるのは,植える米「穂増」が秘密がある.
 「穂増」は,江戸時代に栽培されていた古代米の一種で,当時は日本一の米と呼ばれていた.現代の米に比べると野性味が非常に強く,肥料を与えると全て吸収して背が高くなりすぎてしまい、稲の倒伏の可能性が高くなってしまう.肥料を加えることない状態の水田で,土と太陽の力を十全に受けるために疎植えで1本ずつ植えるのだ.
 しかし,一般人つまり素人が慣れない田植えを行うと,田植えの間隔も分からず,どんどん曲がった方向に田植えをしてしまう.そこで使われるのが田植え定規と呼ばれるものだ.下に写真を貼っているが,三角柱や四角柱など多角柱の枠に等間隔に突起があり,それを目印として枠の真ん中に植え,次の場所に植えるときには田植え定規を転がす.そうして,真っ直ぐに植えることができる.


田植え定規(写真中央の四角柱の枠のようなもの)

 話は変わるが,筆者は農業系の分野を専攻しているが,実を言うと生まれてこの方田植えをしたことが無かった.幼稚園から小学校で行う農業体験(?)のようなものでは,サツマイモを育てるぐらいなもので,大学に入ってからの農業実習は稲の刈り取りや畑の整備しかしなかった.田植え用の長靴まで買って,ウキウキした気持ちで,研究室のメンバーと一緒に出発し田植えに向かった.
 10時頃から田植えを開始した.田植え定規がそれなりに大きく重いため,二人一組になって田植えを行った.スクミリンゴガイ(通称,ジャンボタニシ)対策として,少し土を盛り上げて苗が水面から少し出るようにしながら植えていく.まともに水田に入ったことがないから,動き方が分からずノロノロしてしまう.長靴は足のサイズまで見て買ったが,田植えをしていくうちに,どんどん脱げていく(これでもSサイズを買ったのだが…).1列分の田植えが終わる頃には,右足の長靴が半分脱げていた.ヒルがいるかもしれないから裸足はあまり良くないとされていたが,諦めて次の列に行くときに脱いだ.長靴を脱いで田植えをしている途中からテンションがハイになった気がする.今考えると隣で一緒にやっていた方には,いきなりハイになってる人間がいるのだから少し申し訳ない気分になる.ただ慣れない足場で腰をかがめながら行う田植えは,普段運動をしない筆者にとっては中々キツかったが,沢山の人に囲まれながらワイワイ行う田植えは非常に楽しいものであった.


田植えの様子

 総勢60名ほどで行った田植えは1時間半ほどで終わった.次に行われたのは,神事だ.今年の豊穣を願い,地域の神社の神主が祝詞を神様に捧げる.厳かな空気で行われる神事は,心洗われるものだった.
 神事が終わって次に行われたのは,お土産決めだ.むしろ大半の人にとって重要なのはこれかもしれない.実はこの田植え体験では,最後にお土産として産土ブランドのお酒が貰えるのだ.受付をするときにクジを引いて,その番号順にお土産で貰うお酒を決めることができる.今回は筆者のくじ運が悪かったので,番号はほぼ最後の方であった.普段お酒を飲むわけでもないから,貰えるお酒にこだわりは無いが悲しい….結局お土産として貰ったのは「産土 2022 山田錦 酵母無添加 四農醸」だ.これよりもグレードの高いお酒が数種類あったが,今回もらったものも通常で買おうとしても中々手に入らない代物だから,かなり嬉しい.これを執筆しているときにはまだ飲んでいないから,味の感想は言えないが何かの機会にまた書ければと思う.
 最後に,お昼ご飯.これは地元(菊池川流域)でとれた魚介類や野菜を使った料理が振る舞われた.プロの料理人が作るご飯は,本当に美味しかった.粕汁や穂増のおにぎり,エビの素揚げ…どれも田植えで疲れた体に染み渡る料理だった.

昼ご飯(穂増のおにぎり,粕汁,エビの素揚げ,魚のムニエル,
粕入り卵焼き,白和え,漬物二種,木イチゴ)
昼食後の振る舞い酒(花火)

 以上を田植え体験イベントレポートとする.大人は5,000円で田植え体験と昼ご飯にお酒まで貰えるのだから,非常にコストパフォーマンスが高い気がする.ちなみに中学生~高校生は3500円小学校以下は無料で,参加出来る.当然お酒は貰えないが…….お酒好きの方はもちろん,ご家族でも是非参加してみてはどうだろうか.
 ただ次回があるなら,私は絶対地下足袋買うことにする.もう途中で靴が脱げるのは嫌だ.

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