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【感想|短歌】一夜の夢よ永遠なれ -消えたミュージカル歌枠に寄せて

2023年10月17日、午後8時。開演の合図とともに、一夜の夢が幕を開けました。

事の起こり

『おうとうミュージカル歌枠』。にじさんじ所属のライバー(Vtuber)、周央(おう)サンゴさんと東(とう)堂コハクさんの2人によって、約半年に一回開催される、知る人ぞ知る定期歌枠です。残念ながらアーカイブが残らないので、後から知っても見ることはできませんが、今までに3回ほど開催されています。

これまでは2人だけで行ってきたコラボ歌枠でしたが、前回(9月21日)の最後に次回告知として、「10月17日に男性ライバー2人招いてのコラボミュージカル歌枠をする」との言葉が。
さて、ここに震えるオタクが1人。なぜなら、私は大のミュージカル好きで知られる男性ライバー、宇佐美リトさんのファン(より正確に言うと、ファンになりかけの人間)であったからです。しかし、宇佐美さんはおうとうの2人とは特に面識もなさそうで、それ以前にソロでも頻繁に歌枠をするタイプの人でもないようでした。勝手に期待に胸を膨らませておかしくなってしまいそうだった私も一度冷静になり、淡い期待程度にとどめておこうと自分に言い聞かせ、ひとまず詳細を待つことにします。

10月2日。正式にコラボ歌枠の告知が出ました。
またも震えるオタク。なぜなら、そこには淡い期待の予想を裏切らない宇佐美さんの名前と、そのうえ宇佐美さんとコンビ名(リトテツ)があるほどお馴染みの同期・佐伯イッテツさんの名前までもが並んでいたからです。佐伯さんといえば、ファンの間では滅多に歌わない人として認識されているのだと思っていましたが、たしかにミュージカルが好きというお話は聞いたことがありました。しかも、ファンの方が言うには、この2人は以前サシでミュージカル曲を歌うカラオケに行ったことがある(?)というエピソードがあると言うではありませんか。ア〜〜〜〜 (歓喜のビブラート)
2週間、震えて待ちました。

本題 -短歌を添えて

そう、10月17日午後8時に幕を開けた夢とは、『おうとう+リトテツ 消えるミュージカル歌枠』(仮)のことです。

およそ2時間、22(3)曲もの大ボリュームでお届けされ、少なくとも3万5000人の視聴者がいた瞬間を私は目撃しました。早めにアーカイブが残らない旨を含め丁寧に告知を重ねてくれていたこともあり、これまでのおうとうミュージカル歌枠を見たことがなかった方もたくさん見にきていたように思います。開演前から実際のミュージカルさながらのソワソワ感で、ホワイエに集うファンのみなさんと手を握り合っていました。(幻覚)
この特別感はいつもとはまた違った趣で、そしていつも以上に焦らされ期待を募らせてきたその瞬間は、佐伯さんによる『アラビアン・ナイト』の台詞で幕を開けました。もうこの第一声で、この夜の『勝利』が決定しました。勝利どころか優勝でしたが。

私はリアタイしながらTwitterでほとんどずっと叫んでいたわけですが、正直もうあまり記憶がありません。というよりむしろ、脳が思い出すことを拒否しているのだとさえ思えます。あまりにも強烈な記憶であるがゆえに、思い出すことで日常生活に支障が出る可能性があり危険だからです。(?)

さて、これはまた別の話ですが、私がいつもお世話になっているフォロワーさんの中に短歌を嗜む方々がいます。イラストや小説を描/書く以外にも素敵な表現活動があるものだなと常々思っていて、私も一度真似をしてみたくなるという話をつい最近したところでした。
これは、短歌好きのフォロワーさんにいただいたお返事からの抜粋です。

短歌は「気持ちが揺れ動いたこの一瞬を切り取りたい、とっておきたい、記憶に留めておきたい」シーンだけを取り出してぎゅっと収めます。

フォロワーさんのリプライより

消えたミュージカル歌枠の後、「まさしく今がこれなのでは……!?」と感じたので、このパッションを何かに昇華するべく、無知ながら私も挑戦してみることにしました。短歌の中には、いくつかの歌をセットにして発表する『連作』という概念があると教えていただいたので、今回はその方式を採用したいと思います。
というわけで、セトリに沿って曲ごとの細かい振り返りなどはできませんが、特に印象に残っている歌やシーンをいくつか、ぎゅっと凝縮して置いておこうと思います。歌には歌を。(目には目を?)
ちょっと緊張しますが、どうかお手柔らかに。

幕が開くブザーの鳴らぬ午後八時 誘う声は千夜一夜へ

小突き合う相棒二人行く砂漠「心配ないさ」言い聞かせるよう

水底に世界を歌う人魚姫 揺れる金糸に夢をまとわせ

とりどりの色を従え踊る海 キミは殻を出、新たな殻へ?

振り返ることのない空どこまでも あなたの声と星を頼りに

珊瑚朱の少女の伸ばす手の先に希望煌めく明日を見た夜

天高く羽を広げる麒麟児の英雄譚はここに轟く

まじないに声を揃えて手を取った今この瞬間《とき》を忘れないでね

一夜の夢よ永遠なれ

いや、やっぱり一人一人への感想も言いたい

細かく掘り下げないとは言いつつも、やはりもう少し文字数が欲しいです。喋りたがりなので……。

①ンゴちゃん

ンゴって200人おんねん」とはよく言ったもので、本当に変幻自在のパフォーマーですよね。たとえば『僕こそ音楽』では急に深みのあるンゴ三郎を背負ったかと思えば、『トゥモロー』では子役オーディションの“ない記憶”が脳内に……。そうかと思えば、しっとり大人の女性的な一面も垣間見えたり。どんな役柄を身に纏っていても安定して歌が上手いだけでなく、やはり何にでもなれる演技力(擬態力とさえ言えるかもしれない)が光っているなという印象です。200色どころではないのかもしれない。何か特殊能力をお持ちですか?主役級のソロ曲はもちろんのこと、大人数の曲でアンサンブル的な役割をなんでもこなすンゴちゃんの安定感といったらありません。そしてこのミュージカルらしい発声の芯のある歌声、「これこれ〜ッ!」となる気持ち良さもありますよね。
1人いるだけで深みが増す貴重な人材。周央サンゴさんの存在に感謝。

②コハックちゃん

何を隠そう私はめちゃくちゃプリンセス曲が大好きなので、コハックちゃんのプリンセス歌声も大好きです。私の人生曲(人生レベルで好きな曲)である『パート・オブ・ユア・ワールド』を歌ってくれて、本当〜〜に嬉しかったです。金髪のアリエルがいたっていいじゃない……という気持ち。ちなみに過去には同じく人生曲の一つである『Let It Go』を(英語で)歌ってくれたことがあるので、コハックちゃんにはもう信頼しかありません。
一方で、『On My Own』のような切なさと思いの強さが入り混じったような曲も歌いこなすセンス。しかも英語で。全体を通してミュージカルや音楽への愛と、歌う楽しさが伝わってくるようでした。
振り返り配信では「もっと歌が上手くなりたい」とボイトレに通うことを決意した様子で、向上心の高さに脱帽しました。これからまだまだ上手くなっちゃうなんてどうしたらいい……!?

③宇佐美さん

彼が謙虚な人であることは十分承知しているつもりでしたが、こんな実力を今まで隠していたなんて、本当になんでそんなに自己評価が低いんですか????(憤怒)
横で歌う相手からも音圧に負けると言われるほどの安定した豊かな声量、一瞬で物語の世界に引き込むような台詞を放つメリハリのある演技力、あの普段の小学生みたいな言動からは想像もつかない王子ボイス。もう、何……?キャパオーバーでした。
特に『行こうよどこまでも』の最初の台詞が忘れられません。もしかして私はジャスミンだったのか?と錯覚されられるような、思わず手を取りたくなるような、信頼感と説得力のある声でした。それと、私は『ゴーザディスタンス』が大好きな曲なので、宇佐美さんのヒーローソングが聞けてもう大満足です。コンセプトも何もかもがこんなにもピッタリ合う曲もそうありませんよね。
まだまだあなたの歌を聞きたいです……。

④佐伯さん

どこにその実力を隠してた??????その2。本当に衝撃でした。やはりなんと言っても開幕早々の『アラビアンナイト』の台詞と歌の入りからもう度肝を抜かれてしまいましたね。どの歌も、「完コピ」というと本人の色が消えているかのように聞こえるかもしれませんが、そうではなく、彼の深みのある声とそれでいて爽やかな青年らしい響きの魅力を全面に押し出しつつ、原曲をよく聴き込んだんだろうなというのがわかる完璧なバランスだと感じました。声の良さと垣間見える演技力から、台詞混じりのミュージカルソングなんか似合うのでは……とうすうす思っていたのですが、証明されてしまいました。
そして何より、宇佐美さんの振り返り雑談でもありましたが、「楽しそうに歌っている」のが画面越しにも明らかに伝わってきて、こちらも楽しくなってしまいますよね。あとモアナの曲(『シャイニー』)歌ってくれてありがとう!!!!!!!!最高だよあんた (みんなモアナを見てください。)

消えるアーカイブと観劇体験の話

さて、何度も言うように、この素敵な歌枠はどう頑張ってもアーカイブが残りません。「後からもう一度あの曲が聴きたい」「このシーンを見逃した友達と共有したい」と願っても、叶わぬものは叶いません。あまりにも儚い体験です。それでも、みんな同じ条件ではあります。

私がよく見るNIJISANJI ENのメンバーも、洋楽を歌う歌枠はアーカイブを残すことができません。ENには日本語が堪能な子も多いとは言え、みんながみんな日本語の曲を歌えるわけではありませんし、ENのファンは特に、時差の関係でリアタイできない配信というものも多く存在します。ライバーやファンにとってどうしても不利な状況が生まれてしまうことに胸を痛めることもしばしばあります。しかし、もちろんアーカイブが残せないことにも事情というのがあるもので、それを了承した上で、一度限りでも配信をしてくれたり、再放送を計画してくれるライバーのみんなにはいつも心から感謝しています。

私の記憶も非常に儚いもので、見終わった直後ですら細かい部分の記憶はほとんどないのに、そこから時間の経過とともにもっともっと薄れていってしまいます。それでも、たとえごく一部であっても、強烈に印象に残ったシーンやその時に生じた感情の機微は、きっと心のどこかに残り続けると信じています。

私はこれまでの観劇の記憶も、あまり残っているほうではありません。誰と行ったか、それとも1人で行ったのか、あとは思い出そうと思えばぼんやりとした景色の全体像が浮かび上がってくるぐらいのものです。どんなストーリーだったかさえ、時が経てば曖昧になっていきます。それでも、絶対に忘れられない情景というものもあります。それは、「好きな役者がこんな表情をしていた」とかそういう光景のことではなくて、どちらかというと自分の感情が強く揺さぶられた瞬間の記憶なのです。
私は、コロナ禍の暗く寂しい期間を抜け出してから初めて観に行ったミュージカルのオープニングの力強い歌声と、間引き席からの割れんばかりの拍手の音を、この先もきっと忘れることはありません。待ちに待ってようやく観に行くことができた大好きな作品『アナと雪の女王』のミュージカルの第一幕終わりのあの迫力と、わけもわからず流れる涙の感覚も、私はきっと忘れません。それほど自分にとって衝撃的で、強烈な体験だったからです。
それと同様に、この期待過剰とさえ思えたミュージカル歌枠を、考えうる最高の形で幕を開けてくれた佐伯さん。その第一声に心が沸き立ち歓喜したこの感情を、私は忘れることはないと思っています。
それに、たとえ時間が経って忘れてしまったとしても、この強い感情の昂りの記録は、心のどこかにはずっと存在し続け、いつか思い出すタイミングがやってくるのではないかと信じています。私にとって観劇の記憶というものは、そんな人生の糧の一つなのです。

また、Twitter上でリアタイ時や後から感想を呟く方々、ファンアートを描かれる方々のおかげで、私も忘れつつある部分を思い出しながら余韻に浸ることができて、それもまたとても楽しいポイントですよね。どなたかのツイートにもあったように、それはまるで、観劇後に劇場近くのカフェで連れと語り合いながら、周りから漏れ聞こえてくる声もみんな同じ舞台のことを話しているという、あの定番の体験のようでした。
私の大好きなVtuberによる配信が、同様に私の大好きなミュージカルと繋がり、思いもよらない形で擬似的にみんなと観劇体験を共有できた心地で、それがとても嬉しかったです。

私は、コロナ禍の劇場に行けない期間が長引いたことでミュージカル熱がだんだん萎んできてしまったり、東京から地方に戻ってきて気軽に舞台を観に行くことが難しくなってしまったことで、長らく生のミュージカルを見るということから遠ざかっていました。それでも年に数回は「めちゃくちゃミュージカル見たい!!!」の発作が起きるのですが、今回久しぶりに生のミュージカルを浴びたいという衝動を抑えきれず、アナスタシアのチケット、滑り込んじゃいました。(やったー!!!) すでに映画版を予習して、おうとうの2人が言う通り音楽があまりに良すぎて、もうブロードウェイ版の音楽も予習してしまいました。最高。
おうとう・リトテツのみんな、あのを実感として思い出させてくれて本当にありがとう。

+個人的に嬉しかった話

今回はみんなが事前にたくさん告知をしてくれていたおかげで、配信前も配信中も配信後も、私の見える範囲だけでも普段以上に特大の盛り上がりを見せていて、それもすごく楽しかった要素の一つです。いつものおうとうミュージカル歌枠でも1人でご機嫌に騒いでいる人間ですが、結構孤独に楽しんでいる感じがしていたので……。同じ配信で盛り上がってくれる人がたくさんいるというのは嬉しいものですね。

一つ、このミュージカル歌枠に関連して嬉しい言葉をもらったので紹介させてください。

後日いただいたマシュマロのメッセージより

※「事前に狂っていた」のは紛れもなく事実です。

自分が好きなことをひたすら発信していた(より正確には、うめき声を上げていた)だけで、何なら興味のない人にとっては目障りだと思われても仕方がないぐらいなのに、それを見た人が興味を持ってこのミュージカル歌枠を見てくれて、そして「素敵な体験を後押し」されたと感じてくれた。その事実に、言いようもなく嬉しくなってしまいました。ミュージカル歌枠、本当に最高でしたよね……!!!(握手)
私は自分の好きなものを布教するのが好きなタイプのオタクなので、もうオタク冥利に尽きるとしか言いようがありません。こちらこそ、私の好きなものに興味を持ってくださってありがとうございました。何度でもお礼を言わせてください。𝑳𝒐𝒗𝒆…

P.S. コハックちゃんの振り返り配信最高なのでみんな見て

もうすでに1週間近くが経とうとしているのですが、まだまだこのミュージカル歌枠の亡霊です。毎日セトリのプレイリストを聞いています。
この間もコハックちゃんの振り返り配信を聞いていて、もう共感できる部分しかなくて赤べこになっていました。

こちらの配信、宇佐美さんと佐伯さんの2人を誘った経緯や、今回の選曲についての話、セトリを見ながら各曲ごとの振り返り、ミュージカルの楽しみ方の話などなど本当に至れり尽くせり栄養満点盛りだくさんとなっております。「ミュージカル歌枠めっちゃ良かった〜!!」と思っている皆さんはぜひぜひアーカイブを見に行ってみてください。私は何もかもに共感しすぎて、本当に観劇後にカフェの向かいに座っている友人の気分で聞いてしまいました。(パラソーシャル・オタク?)

個人的に、私もこの振り返り配信があった日に『ヘラクレス』(※歌枠で宇佐美さんが歌った「ゴーザディスタンス」はこの映画の劇中歌)を見たところだったので、コハックちゃんが「劇中歌はもともと好きだったけど映画自体は最近見たばかり」という話をしていてかなり共感してしまいました。そういうの、あるよね……。特にディズニー映画だと、曲だけ先に知っていて実は映画は見たことがない、みたいなことはしばしばあるかなと思います。私も結構そういうタイプです。それと、他のミュージカル作品では、「今は見られる舞台/映像がないけど、音楽は聞けるから歌だけ好きになって覚えてしまう」というのもあるあるなのかな〜と思って聞いていました。というより、そういう楽しみ方をしているのが私だけではなかったのだな、という安心感がありました。よかった〜。

主催のコハックちゃんもンゴちゃんも、彼女ら自信が『オタク』であるということに、オタクである私はものすごく信頼を置いています。いつも本当にありがとう。これからもたくさん楽しみにしています。そして、我々観客だけでなく、主催や参加してくれた本人たちも次回の開催に意欲的であることがうかがえてすごく嬉しいです。どうかどうか実現しますように。

素敵な一夜の夢をありがとうございました!

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