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嘘日記 1月19日 (コインランドリー)

午前10時。久しぶりに布団を洗濯するため、近くのコインランドリーへ向かう。乾燥までしてくれる洗濯機に敬意を表しながら重い扉を開くと、ドラム式の丸い洗濯槽の中に一匹の猫。こんにちは、と挨拶すると彼はこちらを気にする様子もなく、眠たそうな表情で身体全体をむぎゅっと伸ばした。僕としては早く洗濯を開始したかった訳だが、無視して洗濯物を投げ入れるわけにもいかないのでもう少し話しを続ける。ここで生活されているんですか?彼はこちらを一瞥し、そうだよと答える。狭くないんですか?十分だよ。お前の目に映るものが世界のすべてだと思うなよ。僕は怒られる。食べ物とかはどうされてるんですか?取引だよ。取引? そう。ここに人間がいろんなものを入れてくだろ。そこから毎回一つ選んで頂戴するのさ。靴下とか、Tシャツとか、ポケットに入れっぱなしの小銭とか。それをまぁこっちの世界で食べ物と交換したりするわけだ。そうですか。今日僕はずいぶん大きいものしか持ってきていないのですが大丈夫でしょうか。構わん、早く入れてくれ。僕はそこでようやくシーツとブランケット、最後に布団カバーを洗濯機に入れる。では、失礼します。僕はそう言って扉を閉め、布団専用コースという名のボタンを押し、お金を入れて外に出た。50分後、洗濯が終わった頃を見計らってコインランドリーに戻る。扉を開けても猫はいなかった。ほかほかに仕上がったシーツと布団カバーを回収し、僕は帰路に就く。ブランケット、気に入ってたんだけどなぁ。

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