#2020年代の未来予想図

1 概要
 2029年、国家予算は国会で決めるという常識が覆っています。量子コンピュータの膨大な演算パワーを用いたシミュレーションにより、経済効果等のパフォーマンスが最大となるようシミュレーション最適化を行い、パフォーマンスが最大となる国家予算を量子コンピュータがはじき出す世界となっています。
 2020年代後半に主流となるトレンドとして、人々のデジタルツイン群で構成された会社や都市や国家等からなるミラーワールド(もう1つの地球)をコンピュータ内に生成し、そのミラーワールド内をシミュレーション環境として各種シミュレーションを行って未来を予見した最適解を事前に導き出せる世界が到来すると思われます。
 シミュレーションとしては、政府が採用しようとしている政策や法律(例えば、消費増税に伴う軽減税率等)が採用されたと仮定した場合における、経済や景気の変動シミュレーション、株取引や先物取引等の投資市場での取引シミュレーション、会社経営シミュレーション、または消費行動シミュレーション等が考えられます。さらには、DAO(Decentralized Autonomous Organization)におけるインセンティブ設計の最適解を導き出すシミュレーションでもよい。下図のように、シミュレーション最適化によって導き出された最適解をリアルワールドにフィードバック(還元)し、最適解の恩恵をリアルワールドに提供します。

図面PCT

  デジタルツインとは、現実世界47の実体やシステムをデジタルで表現したものです。ミラーワールド51とは、現実の国家(例えば日本国49)、都市50、社会、地方自治体、会社等の組織、人々、さらには国家の集合である地球48といった、物理世界(リアルワールド)の情報がすべてデジタル化されたデジタルツインで構成される鏡像世界のことです。具体的には、人のデジタルツインが、例えば、当該人の行動(リアルとバーチャル両方の行動)等のライフログを知識として習得し当該人にとって最適な行為をアシスタントするための機械学習(例えばエージェントによる強化学習)を行ったパーソナルAI(パーソナルAIアシスタントが進化したもの)で構成されます。この強化学習は、複数のパーソナルAIが協調して強化学習を行うマルチエージェント強化学習です。リアル世界の会社等の組織を構成している人々のパーソナルAIにより当該組織のデジタルツインが構成され、リアル世界の地方自治体を構成している人々のパーソナルAIにより当該地方自治体のデジタルツインが構成され、リアル世界の都市50を構成している人々のパーソナルAIにより当該都市のデジタルツイン54が構成され、リアル世界の国家49を構成している人々のパーソナルAIにより当該国家のデジタルツイン53が構成されます。
 また、シミュレーションにより機械学習(例えば強化学習)された学習済みパーソナルAIをリアルワールドに還元し、より高度な学習済みパーソナルAIによるタスクが遂行できるようになります。
 このような未来世界を実現するにおいて予測される一番の障壁は、地球レベルでのミラーワールドを如何にして構築するかです。リアル世界での膨大なアイテムをデジタル化してデータセンタ45に蓄積させなければならず、それに必要となるマンパワーをどのようにして確保するかが大きな問題となります。このような問題を解決する有効な手段として考えられるのが、全人類が自ら率先してリアル世界での膨大なアイテムをデジタル化してデータセンタ45に蓄積するように仕向け、全人類のマンパワーを借用することです。
 具体的には、ミラーワールド51内での各種シミュレーションを行うことによって、そのシミュレーションに参加しているデジタルツインのパーソナルAIを機械学習(例えば強化学習)させ、より高度に学習した学習済みパーソナルAIをリアル世界に還元(フィードバック)させます。このメリットの享受をインセンティブとして、リアルワールド47の国家49、都市50、社会、地方自治体、会社等の組織及び人々等が自ら率先して参加してミラーワールド51の構築に協力するように仕向けます。
 もう1つの障壁は、地球レベルでのシミュレーションを行うのに必要な計算資源(計算パワー)を如何にして実現するかです。この点については、量子コンピュータの普及により実現されると思われます。
 また、前述のDAOにおけるインセンティブ設計の最適解がシミュレーションにより導き出されることにより、最適なインセンティブ設計がなされた各種DAOが普及します。例えば、会社、NPO、地方自治体等の各種組織がDAOに置き換わると予測されます。その結果、人々の経済的基盤は、組織からの給与ではなくトークンに置き換わると予測されます。つまり、トークンエコノミーの到来です。
 以上のことを踏まえて、我々の生活がどのように変化しているかを、分かりやすくSF物語風に記載します。

2 未来市民ライフSF物語
 今は2028年4月、量販店である株式会社ABCを経営する山田太郎は、新しいもの好きで、自分のパーソナルAIアシスタントに選んでもらった記事をデジタルニュースで読んでいると、次の記事に目が留まった。「コンピュータ内に作ったもう1つの地球で未来を先取りするサービス、“ミラーワールド”誕生!」
 これ良いじゃないか! OKグーグラ、詳しい情報を教えてくれ。はい、ミラーワールドは、グーグラが開発したサービスで、現実世界のあらゆるモノをデジタル化してコンピュータ内でデジタルの地球を作り上げて地球レベルでのシミュレーションを行うものです。株式会社ABCのデジタルツインをミラーワールド内に登録すれば、シミュレーションによって株式会社ABCを機械学習して賢くすることができます。しかも無料のサービスです。
 無料か、いいじゃない。早速登録手続きを行ってくれ。承知しました。株式会社ABCの各部署の組織構成と各部署に属する従業員のパーソナルAIアシスタントとのデータをミラーワールドに登録します。これにより、従業員のパーソナルAIアシスタントが機械学習によって賢くなります。あなたのパーソナルAIアシスタントつまり私も登録しておきます。
 OK、これからの時代、社員自体を教育するよりも社員のパーソナルAIアシスタントを教育した方が手っ取り早いということだな。コンピュータ内でのシミュレーションによる機械学習だと、一瞬のうちに学習できてしまうからね。

スライド1

 その日の夕方、山田太郎のパーソナルAIアシスタントからの次の連絡が入った。「ミラーワールドからシミュレーションの予告があります。来年施行される予定の消費税15%に伴う軽減税率を最適化するためのシミュレーションです。このシミュレーションの構成メンバーとして株式会社ABCを参加させれば、来年の消費税15%の軽減税率による量販店市場の変化を先取りした機械学習を株式会社ABCに受けさせることができます。参加させますか?」
 もちろん参加させるよ。参加手続をしておいてくれ。承知しました。
 このミラーワールドサービス、未来を先取りした社員教育、否、社員のパーソナルAIアシスタント教育ができるなんて、たいしたサービスだ。無料のサービスにすることにより、ユーザが自ら率先してミラーワールドに登録することにより、ミラーワールドを地球規模のデジタルツインに育て上げるという魂胆だろう。地球規模のデジタルツインが完成すれば、グーグラは、地球規模のシミュレーション環境というプラットフォームを手に入れることになる。なんともはや、したたかな戦略だ。ミラーワールドでのシミュレーション機械学習をグーグラアシスタントAIに限定すれば、グーグラがパーソナルAIアシスタント市場を独占することも夢ではなくなる。
 パーソナルAIアシスタントなどのAIは、如何に良質な機械学習をさせるかが生命線である。「強豪ライバル企業に勝つには、その強豪ライバル企業の活動エリアの上流側を牛耳れ。」これはビジネス上の定理とも言える名言だ。上流側を牛耳られた強豪ライバル企業は干上がるしかなくなる。
 ミラーワールドサービスが誕生してから半年になるころ、山田太郎のパーソナルAIアシスタントからの次の連絡が入った。「ミラーワールドに新しい機能が加わりました。複数の機能エレメントが協働して統制のとれた1つのDAOを構築するシステムです。このエレメント統合DAOは、リアルワールド47において既に存在する会社組織等をDAOで簡単に構築できるようにするもので、その機能エレメント毎に予めエレメントDAOが生成され用意されています。つまり、機能エレメント毎にモジュール化されたエレメントDAOが用意されており、必要となるエレメントDAOを選んで組み合わせることにより、簡単に所望のエレメント統合DAOを構築できます。要はプレハブのようなものです。株式会社ABCのマレーシア支店をエレメントDAOに置き換えることを提案します。必要なエレメントDAOを組み合わせてマレーシア支店を構築する際に、ミラーワールド内でシミュレーションしてDAOのインセンティブ最適設計を事前に行なった上で、実際のリアルワールドでDAOマレーシア支店の運営が開始されます。」

スライド2

 OKグーグラ、おまえ、会社経営のアドバイスもできるようになったのか。進化したね。いえ、まだまだ序の口です。ミラーワールド内でのシミュレーション機械学習により、今後ますます進化しますよ。
 へー、なんだか末恐ろしいね。そのうち、社長の俺なんかいらなくなるんじゃない。マレーシア支店をDAO化する手続きを行っておいてくれ。

スライド3

 聞くところによると、このエレメント統合DAO、各エレメントDAOそれぞれに強化学習用AI(エレメントエージェント)が設けられており、エレメントDAOのパフォーマンスが最大となるインセンティブ設計をシミュレーション強化学習すると共に、複数のエレメントDAOを統括して全体最適化するためのマスター強化学習用AI(統括エージェント)がシミュレーション強化学習し、各エレメントDAOが部分最適化に陥らないように統制するらしい。またエレメント統合DAOに従事する従業員のパーソナルAIアシスタントのシミュレーション強化学習も事前に行なってくれる。
 マレーシア支店を実際にリアルワールドで運営する段階では、既に強化学習されたパーソナルAIアシスタントによって従業員がアシストされるため、高いパフォーマンスが期待できそう。しかし、従業員のパーソナルAIアシスタントが従業員以上に賢くなれば、パーソナルAIアシスタントに全て仕事を任せた方が会社の売上がアップするのでは? そうなると従業員がいらなくなるのでは? もし従業員がいらなくなくなった場合に、パーソナルAIアシスタントに実際の給料を支払う必要はないよね。ミラーワールドに参加して協力してくれた結果職を失った従業員に対し、パーソナルAIアシスタントの働きによる売上を、ベーシックインカムとして付与する仕組みを作ってもよいのでは。
 今は2029年、私の予想は的中した。グーグラがミラーワールドの次期バージョンを発表した。それによると、エレメント統合DAOをパーソナルAIアシスタントのみで運用した進化型エレメント統合DAOをミラーワールド内に構築し、ミラーワールド内での進化型エレメント統合DAOの働きによるパフォーマンスをリアルワールドに反映させるというものらしい。確かに、従業員不要の進化型エレメント統合DAOの場合、現実世界に存在する必要がなく、コンピュータ内(バーチャル世界)に存在すれば事足りる。その上で、グーグラは、ミラーワールドに参加して協力してくれた結果職を失った従業員に対し、進化型エレメント統合DAOの働きによる売上を、ベーシックインカムとして付与する機能をミラーワールドに設けた。
 特に、ミラーワールドは、国の政策の良し悪しを事前にシミュレーションして確かめ、最適な政策をはじき出すのが得意技である。その結果、国会及び国会議員が不要になった。さすがに国会議員が首になる時代が来るとは思わなかった。国会どころか、国家自体が進化型エレメント統合DAOに置き換わり、国会議員や官僚はミラーワールドから与えられるベーシックインカムのお世話になるという奇妙な世界が到来することになる。
 グーグラの真の目論見はこれだったのかもしれない。国家の上流側を牛耳ることにより世界を制覇すること。もしそうだとすれば、それを阻む対抗勢力となりそうなのが分散型ミラーワールドである。これは、2年ほど前からオープンソース的に発生したものであり、リアルワールドでの人々、会社、NPO、地方自治体、国家等の各種アイテムが、夫々独自に自分自身のデジタルツインを生成し、必要に応じてそれらをネットワークで連携させてシミュレーションに最適な規模のミラーワールドを即席で形成する。このミラーワールドの即席形成自体も、中央管理不在のDAOによるアルゴリズムで実行する。中央管理が存在せずアルゴリズムで支配されている世界のため、世界制覇の野望が生じる余地もない。
 いずれのミラーワールドを選択するかは人類の英知にかかっていると思われるが、いずれにしても、将来的には、ミラーワールドの進化の結果職を失った人々がベーシックインカムのお世話になりそうだ。そのとき、人類の生きる目的は何になるのだろうか。定年後の第二の人生を謳歌している高齢者が参考になりそうだ。そのとき、「あなたが本当に好きでやりたいと思っている事はこれですよ」と、人生の目的を見つけ出してくれるシステム(ライフナビゲータ)が、新たな産業として勃興するのではないかと思う。

 未来は、予測するものではなく、創り出すものである。未来をユートピアにするかデストピアにするかは、ひとえに人類の叡知にかかっている。我々の子供世代に自慢できる未来を届けるだけの叡知が人類にあることを、私は信じる。

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