埃(Dust) と 誇り(Pride)
ダレかさんとナニかさんの花畑_No.01_
「綿ぼこり」こそ日本の「ほこり」
「今治のホコリ」
新聞記事に見つけたボクは(えっ…へぇ)とばかり、たあいもなく気をひかれ笑みこぼれてしまった。
いまは、どうやら世界じゅうが〈呼び名〉に凝る時代。なにしろ名づけが先にキマっちゃって、あとから追っかけ それに相応しい商品が生まれてくることだってあるくらい…なんですってね。
それにしても〈ホコリ〉って名にはサビが利いてる。で…記事に目をはしらせれば思ったとおり。綿100%の「アウトドア着火剤」ときた。
このアイディア。思いついたのは「今治タオル」で知られる愛媛県、タオル生地の染め屋さんの方。タオルを染めるのにも、たくさんの「綿ぼこり」が発生するんだそうです。
そもそも「綿埃」なんてぇものが、いまどきはもう流行らない。だって、衣類の生地が圧倒的に綿だった昭和も前半ころまでのお話しですよ。
ま…そんな時代のまっただなかに生きた、アタシなんかもそのひとりですけど。学校で教室掃除のときなんかには、「綿埃が舞わないように」掃き方を教えられたものでした。いま、表舞台で堂々と むかしながらの箒づかい風景が見られるのは、大相撲の土俵まわりくらいになりましたが。
…とまれ綿埃こそが「日本のほこり」で、ほかの塵芥とは別の境地にありました。
ホコリは火つきがいい
「今治のホコリ」の綿埃は、染めたタオル生地を乾燥させるとき、乾燥機のフィルターに付着するんですが。その量1日に120㍑のごみ袋2つ分にもなるんだとか。創業70年の老舗メーカー「西染工」では、この乾燥にまず大量のエネルギーを使うほか、綿ぼこり回収にも費用がかかる。環境負荷減に努てきた会社が、「なにかほかにイイ手はないものか」と考えたワケです。
そんなとき(コレじゃないか)とひらめいたのが、自身キャンプ・ファイア大好き人間。だって綿埃ってやつ、放っとけば電気ショートなんかで火災をひきおこしかねない〈厄介者〉でしたから。「燃えやすいもんなら着火剤になるんじゃないの」と、あれこれテストしてみたら結果バッチ・グー!
ちなみにアウトドア派のボク。キャンプにかかせない焚火の火点けは、木っ端の焚きつけに反故紙か新聞紙でもあれば、たやすい。けれども…それでも、雨のときなんかは着火剤の助けを借りることもあり。
そんなときどきに いつも思うのは、自然のふところに抱かれてのキャンプ・ファイアに、着火剤が化石燃料系じゃ艶消し…ってこと(注1)。
そんな折も折、こんどの〈綿ぼこり着火剤〉の朗報には(してヤラれた)感たっぷり。なにやらクスグッたいような気分を抱えながら、ネット通販に注文しました。
ホコリでホッコリ
荷物は「ホコリ」らしい軽いフットワークで、翌日には吾が家に到着。透明プラ・ボックスの そのなかはカラフルな世界。白を基調にホッコリと雲たなびく風情が綿菓子を想わせる品は、40gほどが入って1つ660円(税込)也。なるほど埃は汚れじゃありません、キレイだしシャレっ気もある。
少しほぐして使ってみる。ぼくん家には木工房に薪ストーブがあるので、寒い冬は毎日が焚火。木っ端を4~5本組んだ下に置いて、ライターでたやすく着火(いまどきはファイア・スターターの出番でしょうな)。綿シャツ古着のボロ布なんかにくらべたら、ばつぐんに火点きはいい。
オガ炭もテストしてみたけれど、ひとつかみくらいの「ホコリ」で5分もあれば、なんなく炭火がおこせた。
工房での朝、燃える薪ストーブの前に陣どり、暖気が室内に染みはじめるまでのひとときを ボンヤリとすごす幸せに、「ほこり」の語源て…たしか「火起り」だったよなぁ。
そんな想いも湧いてくる。
すると「ほっこり」の語源は…どうなる?
「ほっと」安心できるのは「ほこほこ」温もってくるから…でしょうねぇ。
なんだか朝っぱらから ほろ酔ってきそうな心もち。
「今治のホコリ」ヒット商品の仕掛け人は「期待はゼロだった」そうだし、社内からは「ゴミを売り物にするなんて」との声もあったと聞く、けれど。
そんなことがあっても (イイんじゃないですかねぇ)と思う。
「埃」からの連想で「誇り」ほころぶ
心ほこほこ ほろ酔ってきたボクの耳に、あるメロディーが浮上する。
〽ピ~ピ~ピ~ ピ~ピピ……
口笛の呟きみたいな、その音の記憶を追っていくうちに、脳裏にムックリと起ち上がるものがあって…それは〈誇り〉だった。
じつはこのとき、ボクは工房の太鼓梁を見上げており。在来木造(軸組)工法で建ったその梁には、親方 心意気の手斧の打ち込み跡が刻まれていた(注2)。
ぼくは若い頃、奈良の宮大工棟梁から槍鉋の使いかたを教わったことがあって、その話しを親方にしたら「いいなぁ…使ってみたかったなぁ」子どもみたいに無邪気に笑っていた(注3)。
その槍にしても…日本では槍ひとすじだったのが、中国や欧米ではもっぱら鉾だった歴史があって。「誇り」という言葉が生まれたのには、「大股に踏んばった手には鉾」を構える姿が、プライドを保つことにつながった事情があるようなのだ。
ヒトにとっての夢見というのは つくづく不可思議なもので、ふだん見る夢は(ろくなもんじゃない)にもかかわらず、ときに非常な示唆に富む。
さっき 〽ピ~ピ~ピ~… と呟きでた口笛のメロディーが、『誇り高き男』という古い映画の主題曲だったことを、ぼくはいま 懐かしくも想い出す(注4)。
そうだ「ピ~ピ~ピ~ ピ~ピピ」は「ほ~こ~り~ た~かき」であった。……馬にまたがった西部のガンマンの背には孤独……
でも、それよりなにより…
少年のボクを魅了してやまなかったのは、この「誇り高き」を「埃たかき」にスリ替えた漫才(アレはダレのネタだっけか…)の一発芸。
口笛で「ほ~こ~り~ 高き」と聞かせておいて、やおらシブいカタチにキメた肩のホコリを 気障な指先でチャッチャと払って見せる…これが寄席でバカにウケた。
この芸に、いっぱしの間を学びとったつもりのボク。さっそくに学校の教室で演ってみせたのだったけれども……(注5)。
(注1)うんちの着火剤…アウトドア製品を手がける八王子市の「フロント
ビジョン」が開発。牛糞を乾燥させたインドの燃料「牛糞ケーキ」
がヒント。ロウソク材料のパラフィンや木材チップも混じるが、ほ
とんどは元糞。種類はレッサーパンダ・牛・キリン・バク・ラマな
ど。オレンジ色の炎をあげてよく燃え、うんちっぽい匂いもない。
(注2)手斧…いまはむかし の大工道具。熱し曲げた堅木の先に、大ぶり
のノミのような刃が付いており、これをクワのように、足先の方に
むかって振り下ろして使う。
(注3)槍鉋…これも いまはむかし の道具。削り仕事むきに槍の穂先が反
った刃になっている(いまあるのは、木の台に刃を仕込んだもので
台鉋よ呼ぶ)。ただ、この槍鉋は横へ払うように使うので手斧みた
いなコワさはない。
(注4)『誇り高き男』…1956(昭和31)年のアメリカ映画。保安官もの西
部劇で原題は『The Proud Ones』。主演はシブいイケメンで人気の
俳優ロバート・ライアン。高潔な正義漢という役どころを、早撃ち
のガンさばきと不屈の保安官魂で魅せ、西部の町を守り抜く。日本
ではスリー・サンズによる口笛演奏のテーマ音楽の方が大ヒット。
(注5)間のわるいことに そのときボクの立場は学級委員であった。
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