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メーデーに学ぶ、社会人に役立つ思考

メーデーとは

 まずは、タイトルの由来となっている番組について紹介する。正式名称は『メーデー!:航空機事故の真実と真相』であり、ナショナルジオグラフィックの番組の一つである。前半は再現ドラマパートであり、後半が調査パートとなっている。
 今回は、金属の塊である航空機が「何よりも安全な乗り物」と化すまでの間に、事故の原因と調査と改善がどれだけ繰り返されてきたかを記載したい。メーデーというのは、航空機事故調査界隈で有名な名称のために使用しているが、航空機事故調査全般の歴史という部分で記載している。
 ちなみに、番組名の由来となっているメーデーの本来の意味は緊急信号である。曲の歌詞や、映画やドラマなどで聞き覚えがある場合もあるが、2回コールが多いと思う。正式には「メーデー、メーデー、メーデ―」と3回繰り返すのが正式な規則である。また、発声が困難であったり、状況によってはトランスポンダに7700と入力することで同じ意になり、管制塔や他の航空機において空の交通機関での優先順位が最高に繰り上がる。

なぜ航空機事故から学ぶのか

 航空機事故というのは、体感している通り滅多にニュースで聞くことはないだろう。
 航空業界というのは莫大なコストがかかっており、かつ「金属の塊が空を飛ぶ」「地に足がついていない」という不安から、安全性で安心を勝ち取ることが最優先とされる分野となっている。また、失敗が大勢の人命、ひいてはその命の一つ一つの価値になるという具体例を2つ挙げる。

1. 日本航空123便墜落事故

 日航123便の事故については、日本国民であれば聞いたことがあると思う。芸能人が亡くなっただとか、免れただとか、陰謀論の一つには日本OSの「トロン」の開発を阻止するために技術者を奪ったなど騒がれた。これは、ジャンボ機が時勢により満席であったことから、実は単独機では世界でも一番死者数の多い航空機事故である。
 死者数が多いために誤解されがちであるが、垂直尾翼が破損、油圧全喪失が原因だった。その状況は当時想定されていなかった。当時でも今でも、パイロットによっては、絶望して諦めるしか手段がない状況だった。緊急時の手順で水面着陸というのは想像されがちだが、実際は着陸も救出も含めて救命率が低く、胴体着陸のほうが比較的取られることが多い。
 高濱機長は、臨機応変にエンジンでの操縦を試みて、最後の最後まで戦い続け、海や住宅街ではなく山に墜落することで4名「も」救った。
 その後は、他の事故やインシデントの際に油圧全喪失した場合に、エンジンでの操縦法が用いられるようになったのだ。

2. ユーバーリンゲン空中衝突事故 / 管制官刺殺事件

 命の重さについて考えさせられる話で言えば、ユーバリンゲンでの空中衝突だろう。直前に相模湾ニアミスインシデントが発生していたのにFAAが改善を怠ったために起きてしまった事故である。片方の航空機は貨物便、片方は「各方面で優秀な子供たちがご褒美に海外旅行に行く」ための飛行機だった。
 この事故原因というのは、機首についているTCASという衝突防止装置だった。これは、衝突しそうになった場合に自動的に片方に「上昇」片方に「下降」を指示する装置である。装置自体に不備はなかったが、FAAが「TCASと管制どちらを優先するか」を統一していなかったのだ。会社のマニュアル通りに動いた結果、片方が機械を、片方が人間を優先してしまったために、両方が下降して衝突してしまった。
 不運なことに、この区間は管制が民間かつワンオペ状態であったり機械メンテナンスの最中で、事態を未然に防ぐことができなかったのだ。会社側の問題であり、管制官も被害者であった。
 しかし、亡くなった子供の一人の父親は、怒りの矛先を管制官に向け家を訪れて刺殺してしまった。

機械か人間か

 別の話として、近年の事故はこの二つのどちらかで起きている。分かりやすいところでいうと、ボーイングは人間優先、エアバスは機械優先という設計理念のようなものがある。B787はパイロットの対応のおかげかインシデントで済んでいるので、航空機自体が問題で起きた「事故」というのは、実質的にはDC-10以来あまり見かけないように思う。
 B737-MAXも問題児だったじゃないか、という話。こちらについては「エンジンを後ろにずらしたために機首が上がりやすく失速しやすい、そのため自動で機首下げをする」という機能が作動して事故が多発したのだった。とはいえ、導入も解除法も教えなかったために対応できず予測不能のパニックが起きていたのだ。正しく周知されていればよかったわけで、ヒューマンエラーに分類していいのではないかと思う。
 多くの命の礎の下に、パイロットはあらゆる想定の下で訓練を行う。油圧全喪失でエンジン操縦で無事だった事例も、逆にエンジン全喪失で滑空して無事だった事例も知っている。胴体に穴が開いた場合でもいくつか事例がある。事故をシミュレーターで学んで対応することや、乗客を守るという冷静な使命感が成せることだ。
 9.11以降はコックピットに入る暗証番号を変更したり、物理破壊で侵入されないようになった。しかし、それが機長や副機長による、鬱病や統合失調症や金銭的問題からの立てこもり集団自殺の手段の助長になったりもした。乗客優先で、事故を回避できるパイロットが多い一方で、稀にそういう人たちもいるのだ。解決できる軽度の問題で、パニックから機首上げをし続けて失速で墜落した事例さえある。
 勿論、健康診断であったり、パニックを引き起こすか否か、以前より審査や訓練基準は厳しくなっているだろう。しかし、人間の行動というものは予期できるものではない。
 そのため、あまりこんなことは言いたくはないが「飛行機は絶対に落ちないか」という質問に対しては「有能なパイロットなら、特にカンタスならね」と答えるだろう。

三種の神器

「フェイルセーフ」「CRM」「勤続疲労」この三つの考え方について、具体例などを用いてひとつひとつ説明していきたいと思う。今回、筆を取るに至ったメインの話だ。

1.フェイルセーフ

 「問題が起きるという前提で設計を行う」ということである。以前、IT業界の質問で上長が「人はミスを犯すものである」というテストに「いいえ」を選択して不合格になっていた。
 人というのはミスを犯すものだし、機械も人間が設計したものだし、機械自体が故障する条件なんて沢山あるし、予測不能な破断や金属疲労なども起きうるものだ。
 普通の人間であれば、例えばエンジンが脱落すれば墜落に結びつけるものもいるだろう。実際は一基でも残っていれば着陸は可能である。一番恐ろしいことは、エンジンが脱落した際に機体を傷つけることで、油圧や尾翼に支障をきたすことである。そのため、エンジンは下に落ちるように設計されている。
 また、123便やDC-10など、破損の際に油圧を全喪失した事例から、できるだけ油圧ケーブルを分散させることや周辺の油圧ケーブルを塞いだりいろいろと改善されている。
 この考え方というのはとても重要で、問題が生じたときにパニックになるのではなく、問題が生じても大丈夫なように予備案を用意しておくことや、最小限に抑えられるように動くことのほうが大事だということである。

2.CRM(クルーリソースマネジメント)

 「風通しの良い職場環境」につきると思う。対義語に挙げるとすれば「パワハラ」や、スラングであれば「儒教」である。ここで用いている儒教というのは皮肉スラングであり、儒教においては目上の者を敬うことが重視されるところから来ている。機長であったとしても、飛行時間が長いとしても、教官であったとしても、優秀であるとは限らないし慢心というものは恐ろしいものである。
 単独機限定ではない死傷者数トップは、地上で起きてしまった。テネリフェの悲劇と呼ばれている。近隣でテロ予告があったために、小さなリゾートの小さな空港に多くの飛行機がダイバートすることになったのが最初のきっかけであった。二機のジャンボジェット機が、意思疎通を含む複合的原因から離陸速度で衝突した事故だ。
 複合的原因とはいえ、片方の航空機の機長は焦りから「離陸許可が下りた」と思い込んでしまった。実際は「離陸準備の許可が下りた」わけで、もう一機は小さな空港なので滑走路を通りながら移動していたのだ。
 副操縦士は「もう一機はまだ滑走路にいるのではないか」と進言するも、それを聞き入れずに事故につながったという話だ。
 他にも似たような事例は複数あり、機長だけでなく副操縦士や通信士などもフラットに懸念や問題解決法を話し合って別の視点を検討できるようにするのがCRMである。実際にカリキュラムに組み込まれている。

3.勤続疲労

 前提として変換ミスではなく、スラングから生じた言葉である。単純に超過勤務なのだけれど、パイロットというのは不測の事態にも冷静に迅速に正しい対応が求められる。抱える命の重さも、航空業界への評価と、他の職種と比較しても責任が重く常に最高のパフォーマンスが求められるのだ。
 時にはマニュアルより自身の選択により助かった事例もある。有名なところだとハドソン川の奇跡だろうか。個人的な感想であるが、元軍人ほど不測の状況下で、マニュアルに従えば助かるのか否かまで即座に計算して最適解を躊躇わず選択するのに長けているように思う。
 超過勤務により判断力が鈍って事故が起きた事例はある。しかし、その後、それぞれの会社により制定された規則により焦って事故が起きた事例も複数あるのが確かだ。規則にはいろいろあり、長期路線だと機長が二人乗り途中で交代したりする。問題は規定時間を超過して勤務すると資格を取り上げられてしまう、というような厳しい規則が多かったりする。
 オーバーワークを防ぐ必要な規則ではあるが、臨機応変さが求められる部分でもある。実際の仕事でも、ゆっくり休息を取ることで残業しているときよりも効率的でパフォーマンスのいい仕事ができるだろう。

おわりに

 なんだかんだまとめ上手になってしまったように思う。本当はもう少し冗長の予定だった。コメット機などについても触れたかったのでこの項で追記しようと思う。
 1953年にコメットという飛行機が連続墜落事故を起こしていた。当時の技術では、空中分解したということしかわからず、事故原因の究明に首をかしげていたのだ。金属疲労、本当の意味であり、繰り返し圧力の負荷がかかることでヒビができて破断することが原因と思われた。設計段階で圧力の疲労の計算は行われており、十二分に耐えうる筈だった。
 その際に、行われたのが巨大水槽に実機を入れ、繰り返し水の出し入れを行うことで水圧で検証を行うという実験だったのだ。1830回目で亀裂が生じ、その後、疲労計算に問題があったことが判明した。
 何が言いたいのかというと、こんなに華々しい業界の中で、地道な泥臭い作業を反芻することでボトルネックを発見するということを行っているということだ。
 現代では、全体的に機械などの性能は向上したものの、空中分解などは、未だに調査の際に組み立てなおしたりしている。位置の計算などを行ったり、すべてが地道な作業なのだ。
 また、整備の際に簡略化したために、それが原因で複数の事故につながった事例もある。うろ覚えだけれど、その責任から自死に至ったエンジニアもいたように思う。
 私はすべての仕事が重要だと考える。ITであれば、デバッグやテスト工程というのは軽視されがちだ。上長や周囲が適当にやっている中で、泥臭く何度も何度も少しづつ条件を変えることで十年以上問題視されていたボトルネックの発見をした。
 高校時代のネジ工場のバイトも、すべて通してしまう主婦が怒られている中、丁寧に迅速に良品と不良品を仕分けしていた。100均や中国製のネジではなく、検品にわざわざ時給が発生するネジだ。きっと、車などの部品に使われるのだろうと思い責任を持って慎重を期したのだ。
 当たり前だと思った者も多いだろうが、実際に最悪を考えて責任を持って導入に積極的かというと難しいことも多いだろう。その中でも、ひとりひとりだけでも「かもしれない」を忘れずにいることは人道として必要であり、成果が認められた際にはその思考力を高く評価してもらえるだろうと思う。

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