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高校教師 全11話 ドラマ感想

脚本  野島伸司
演出  鴨下信一、吉田健、森山享、小池唯一
出演者 真田広之、桜井幸子、赤井英和、山下容莉枝、京本政樹、持田真樹、峰岸徹、中村栄美子、渡辺典子、黒田アーサー、小坂一也 
主題歌 森田童子「僕たちの失敗」
放送年 1993年1月8日〜3月19日(全11話)
制作  TBS

 無垢な魂を持った一人の少女との無償の愛の数々に、教師・羽村は自らの人生を狂わせていく…。「教師と生徒の愛」という禁断のテーマを描いたドラマ。

 Paraviで全話視聴。ギリシャ神話をモチーフにした作品で、同性愛・近親相姦・強姦・自殺など今ではテレビで扱いづらい場面が多々描かれる。そういった題材をまるで事件を扱うようにスキャンダルに描くと安っぽくなるんだけど、このドラマでは、そういった印象はなかった。羽村隆夫(真田広之)と二宮繭(桜井幸子)の周囲で起きる出来事として、むしろ二人のピュアな愛を際立たせるようなものになっていた。

 恋愛ドラマは、だいたい二人が惹かれ合うまでの間が個人的には好きなので、このドラマも前半の方が好きだ。羽村が婚約者に裏切られ、研究室からも追放され、何もかも失った時に二宮繭に惹かれはじめ、好きになる。この過程が独特で良かった。特に印象的だったのは第5話。帰宅する電車の時間を気にする羽村に苛立ち、二宮が腕時計を海辺に投げるシーンや、旅館で羽村が彼女を愛していると独白するシーン(腕時計が動き出して、掛けているコートが落ちるのが良かった!)など印象的なシーンが多かった。
 作品全体としては、駅のホームや学校、海辺のシーンなど、ロケーション撮影も多くあったが、その映像描写が非常に良かった。映画的というか、映像だけで語るというか。セリフや言葉ではなく、映像だけで見ている人を共感させるというのは、詩的な雰囲気があって個人的には大好きだ。最近のドラマは見ていないので、あくまでも想像だが、なくなっているのではないだろうか。

 羽村が生物教師というのは、物語上、うまく作っているなと感じた。生物に関する話を羽村が色々と生徒である二宮に話す。例えば、皇帝ペンギンが仲間を互いに押し合って、誰かを水中に突き落とそうとする話や月と地球が年々遠くなっている話とか。リチャード・ドーキンス著の「利己的な遺伝子」が出てくるのも面白い。(第1話で、羽村のカバンの中に入っている。)触りだけ読んだことがあるが、遺伝子は、生存競争のため、自分に利益になることを優先的に行う、というような話だったと思う。

 それにしてもここまで主題歌がぴったりなドラマはないだろう。おそらく脚本家の野島伸司が決めたのだと思うが、この主題歌以外ではあり得ないくらいだ。歌っている森田童子は、もうお亡くなりになっているが、「僕たちの失敗」だけではなく「男のくせに泣いてくれた」「G線上にひとり」など各話の挿入歌として使われていて、その曲も作品の世界観と物凄く合っているのだ。芸能関係のことはよくわからないが、事務所の売り込みたいバンドや歌手に合わせた主題歌となっている昨今、見習ってほしい。

 作中に英語の教師として出てくる藤村(京本政樹)は、自己自制ができなくなるほど狂おしく相沢(持田真樹)を愛する存在として描かれる。これは、羽村の別の姿なのだろう。羽村も終盤では、自己自制ができなくなり、繭の父親(峰岸徹)を刺してしまう。二人とも、行き過ぎた愛という点で共通している。その後藤村は、学校に残るが、相沢と関係を持つことはないのだろう。2003年に「高校教師」のドラマが作られ、そのドラマに再び出るのだが、どういう立場で出るのか非常に興味深い。

 羽村と二宮を演じた真田広之と桜井幸子は、もうこの二人しかいないというほど役に合っていた。二人とも純粋で、そしてどこか脆そうな危うさを持っている。この物語においては、際どいシーンが数多く出てくるため、役者の雰囲気が作品の印象を大きく左右したと思うが、二人の純潔さが合ったからこそ、この物語がピュアな愛の物語になり得たと思う。

 作品の各所に羽村のモノローグ(独白)があり、過去形となっていることから、いろいろな出来事を回想している形になっている。このモノローグのセリフで印象的なものも多かった。ここで、最終話の羽村のセリフで感想を締めたい。
「僕は今、本当の自分が何なのか、わかったような気がする。いや、僕だけじゃなく、人は皆、恐怖も怒りも悲しみもない、まして名誉や地位やすべての有形無形のものへの執着もない。ただそこに、たった一人からの、永遠に愛し愛されることの息吹を感じたい。そう、ただそれだけの無邪気な子供に過ぎなかったんだと。」


 

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