2022.2.23 箏・三味線とフルートで振り返る「江戸のあの時」〜歪んだ真珠とともに〜

1年ぶりのnoteの更新となってしまいました。

この度、先月2月23日(日・祝)に中板橋のマリーコンツェルトさんにて、タイトルに記載の企画をさせていただきました。

今年度も終わりに近づき、まだまだ振り返り足りないものやお伝えしたい気持ちがたくさんあるのですが、ちょうどMC等で説明しきれないこともあり、コンサートの内容的にも振り返りや配信アーカイブのご視聴の助けになればと、取り急ぎこちらの企画について認めておくことにしました。

本企画は、たびたび演奏を一緒にさせていただいている和楽器の松波千紫さんとの2回目の有観客の共催公演であり、東京都の助成を受けて実現することができました。それぞれのやりたいことを思いっきり表現してみよう!と企画会議を重ねるうちに、「それぞれの楽器の前身や、その楽器の全盛期の作品について、深く掘り下げられる共通の時代に焦点を当てて、コンサートの中で同時代の異国の文化交流とともに、現代の奏者によるクロスオーバーという化学変化も楽しめるような企画がしてみたい」という共通のアイディアが生まれました。

長い年月ではありますが、伝統的な邦楽作品が数多く生み出された江戸時代という期間の中に、フルートの前身であるフラウト・トラヴェルソが使われていたバロック時代があります。「バロック」というのは当時ヨーロッパで流行した自由な感動表現、動的で量感あふれる装飾形式が特色の芸術様式のことで、ポルトガル語のbarroco(歪んだ真珠)が由来となっているといわれています。


本日の投稿では、当日演奏した本編のプログラムについて、解説とともにお楽しみいただきたいと思います。アンコールを含む配信アーカイブ本編については、こちらからお楽しみいただけます。

https://twitcasting.tv/87mlma/shopcart/133601


オーボエと弦楽合奏のための協奏曲二短調よりアダージョ A.マルチェッ口

マルチェッロは、1669年生まれ(クープランより1歳下)のイタリアの作曲家。この楽曲は1700年代初頭の作品であり、マルチェッロの最も有名な作品、また最も有名なオーボエ協奏曲の1つです。「ヴェニスの愛」とも呼ばれるイタリアの泣き情緒溢れる名旋律を、フルートと箏の音色でお楽しみください。


黒髪 初世湖出市十郎作曲/作詞者不詳

地歌(江戸時代発祥、最古の三味線音楽)の中でも特に親しまれている曲の一つ。
好きな人を思いながら、ひとり寝で寂しく夜を明かす女心のやるせなさを詠み込んだ歌詞に、三味線とともに美しくも物悲しい旋律が付けられています。

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恋の道行  作詞•作曲者不詳

上方唄(京 ・大阪の庶民や遊郭を中心に江戸時代に流行した、三味線弾き歌いの音楽)として作られたと思われる曲で、近松門左衛門の浄瑠璃「曾根崎心中」「心中天網島」とい った人気芝居の世界を気軽に楽しめる歌詞の内容になっています。庶民の娯楽としてお芝居が非常に人気の高かった江戸時代。この曲が流行したのも納得できます。

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クラヴサン曲集 第3巻第14組曲より『恋の夜鴫きうぐいす』  F.クープラン

バロック時代フランスの作曲家兼オルガニストであるフランソワ ・ クープラン(1668-1733)は、ドイツのバッハ一族にも匹敵する音楽家一族であるクープラン家の中でも最も有名な人物です。元々クラヴサン(チェンバロ)のために書かれた曲集の中の1つの楽章であるこの曲ですが、現代の音楽においてもたびたび用いられる「鳥の声」を曲中のモチーフとしてふんだんに使用しています。バロック時代の作品の中では珍しく、クープランの譜面に記された装飾音は厳格であり、 奏者の勝手な解釈を許さず徹底された指示をしています。


『新しいコンセール』よりコンセール第9番ホ長調『恋人の肖像』  F.クープラン

コンセールというのは、フランスでの管弦楽組曲を表す言葉ですが、太陽王ルイ14世に「王宮のコンセール」として4つのコンセールを捧げたのち、王の死後に一般の人向きに作ったのがこの 「新しいコンセール」と言われています。ホ長調という高貴でロマンティックな響きの中で、クープランのコンセールの中でも印象的なメロディが息をするような作風となっています。
「魅惑」「明るさ」「美の女神」「何かわからないもの」「機敏さ」「高貴な自尊心」「優しさ」「メヌエット」 の8つの楽章からなリます。


アヴェ•マリア グノー/バッハ(根本卓也編曲)

フランスの作曲家、シャルル・グノーが発表した声楽曲であり、様々な作曲家が曲を付けた「アヴェ ・マリア」の祈祷文に基づいた曲の中でもとても親しまれているこの1曲。J.S.バッハ作曲の『平均律クラヴィーア曲集 第1巻』から「第1番前奏曲 とフーガハ長調」の冒頭部分を伴奏に用い、グノーが作曲した旋律をのせる形で作曲されています。第2部のはじめは、トラヴェルソとチェンバロの音色とともに箏の響きをお楽しみください。


フルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタ変ホ長調BWV 1031   より シチリアーノ J.S.バッハ(根本卓也編曲)

J.S.バッハの全7曲とされているフルートソナタの中の1曲であるこのシチリアーノは、ひとリ歩きしてフルートの名曲として愛されています。彼の作品の中でも叙情的な旋律美と親しみやすい雰囲気が大きな特徴であるこの曲は、その作風から次男のC.P.E.バッハの作品ではないかという説もあり、作者の真純が問われる1曲ではありますが、魅力にあふれた名作です。


平均律クラヴィーア曲集第1巻より プレリュードとフーガ 第7番変ホ長調BWV852 J.S.バッハ

後にハンス・フォン・ ビューロー(職業指揮者の先駆者)から「ピアノ音楽の旧約聖書」と言われことでも知られるこの曲集の第1巻はケーテン時代の1722年に完成されました。変ホ長調のプレリュードは曲集全体を見ても類を見ないほど充実した作品であり、対照的にフーガは軽快さを持った親しみやすい作風となっています。第1パートに現れる十六分音符の主要動機と第2パートに現れる四分音符と二分音符からなる荘厳な動機が第3パートでは一緒に奏され二重フーガ的に展開していく様は圧巻です。


千鳥の曲 吉沢検校

箏の曲としては「春の海(宮城道雄)」「六段の調(八橋検校)」に並ぶ名高い曲で、吉沢検校(1800-72)が古今和歌集の歌に曲をつけた曲集「古今組」の中の一つ。三味線音楽の伴奏として発展してきた箏曲と一線を画し、純箏曲としての発展に尽力し多面的な試みを行った光崎検校の精神を受け継いだ、彼の代表作です。

五段砧 光崎検校

高音・低音の二種類に調弦された箏による合奏曲。旋律自体は古くからある古典曲に題材を得ているものの、その技巧的かつ精緻な絡み合いは、それまで主流だった三味線音楽中心の箏の手付けには類を見ない、革新的なものであったと思われます。光崎検校(生年不詳-1853年ごろ没?)のこのような挑戦が、のちの作曲家たちに多大な影響を与えたことは言うまでもありません。



最後になりましたが、この度の企画に足をお運びいただいたお客様、配信でご視聴いただいている皆様、お箏2面と三味線2挺、古今のフルートとチェンバロという凄まじい組み合わせの楽器の用意、運搬や音響・配信などもろもろでお力添えいただいた皆様、助演の永池あかりさん、西野晟一朗さん、そしていつもパワフルに演奏を共に作ってくださる千紫さんに心から感謝して締めさせていただきます。

2022.3.2 佐々木華

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