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枯渇②

良い妻ポイントのふたつめは、娘をベビーカーに乗せて、徒歩圏内の義実家へ頻繁に足を運んだ。こうして書き綴ってみると、ここまで何かしてくれたのは私の両親であり義両親ではないのだが、帰省していた妊娠中は夫から連絡が無いと不安で押し潰されそうになりよく義母に連絡をしていたので、随分と心配をかけたと思っていた。義両親はもちろん孫の訪問には喜んでくれ、私も嬉しかった。そして、こちらも徒歩圏内だった夫の職場にも寄り、コンビニで購入した差し入れを持っていった。(周辺にはコンビニしか無い為)夫の顔を立てるというよりも、職場の人との面識を持つのが目的だった。

給料が少し多めにあるときは、夫の両親と食事に出かけることもあった。本当は、余裕なんて少しも無いが、私も出かけられるのは嬉しかった。当然、全額夫が負担するのだが、クリスマスが近くなってきたある日の食事の席で、夫はこんな事を言い出した。

「テレビが壊れたって?買ってあげようか」

なんと義実家のテレビを買おうというのだ。義両親は「え!いいよ…」とは言うものの、要らないから家族の為に使え、等は言わない。季節はボーナスの時期ということもあり、私には反対などできなかった。ちょうどクリスマス頃に、義実家には新しいテレビが届いた。
ただでさえ足りていない給料から「模合代」だなんだってせびられ、やがてそれすらも渡せなくなり、「この模合、受け取れるのはいつなの?」と聞くも、一周するまではわからないの返答。そして「お前にやりくりができないなら通帳とキャッシュカード返せ」と言ってついに給料そのものを渡されなくなってしまった。家賃や光熱費の事を言うと、「これで払っておけ」と僅かに渡されるのみ。不安と、恐怖と、一刻も早く働かないと…私は就職に向けて動き出した。

調べなかった私もいけないが、認可保育所の申請が11月までだなんて、なぜ誰も教えてくれないのだろう。ましてこんな貧困地帯、共働きでないとやっていけないのに、3歳までは子どもの側に居たいのだろう等とでも思われていたのだろうか。年明けて3月頃までにでも申請すれば4月から入れるのだろうと疑いもせずに思っていた私は、役場に確認の電話をすることもなかった。そろそろ、延長の手続きをしていた失業保険をもらう為に、職業安定所へ行かなければと思った矢先に保活の厳しさを知り、経済的なふ不安はますます深く、重くのしかかるばかり。

就活は春先に本格始動した。車で40分もかかる職安へは決まった日時に行って印鑑を貰わなくてはならなかったり、その度に子どもを預ける必要があったりと、なぜこんなにも大変な思いをしなくてはならないのか。ある日ついに、子どもを預けているのに長時間かかる場所まで来られないと窓口で言うと、私の住んでいる地域の隣の市にある職業サポートセンターでも、そこの印鑑なら職安へ来たのと同じ扱いになると言う情報を得た。今思えば、そのセンターを知れたことが、私の就職に大きく影響したとも思える。来館してまず驚いたのが、託児所があること。就職相談や模擬面接部屋に、自由に使えるパソコンと印刷機、お菓子や飲み物が無料で頂けるカフェスペースに、育児や女性の社会進出や再就職関係の自己啓発本コーナー。スーツまで無料貸し出ししてくれる。産後、まだ元の体型に戻れていない私にはなんと有難いことか。印鑑を貰わなくてはならないので、相談員さんと面談をし求人情報を頂くのだが、私の希望には眉をしかめられた。

接客業は経験があるのでできると思う。が、子どもがいるため土日祝日は休みたい。できれば前職と同じ業種(ブライダル業)がいいが、無理なら経験を生かせる仕事がいい。給料も前職と同じくらいかそれ以上でないと、無認可保育書の高い保育料を払えない。

「そんな仕事はないです」とはっきり言われてしまった。その返答も想定内ではある為、パソコンを借りて自分で調べ、ブライダル会社を2社、履歴書を提出し、面接することとなった。他にも、他業種ではあるが…と相談員さんが用意してくれた求人情報にも、練習のつもりで応募した。娘は託児室の先生方にとてもよく懐いて、これなら保育園も大丈夫だと一安心。私も久々に社会と繋がれる楽しさに満ちていた。

結論から言うと自分で送った2社ともに内定を頂いたが、そのうちの1社、私が遥々この地へ来たきっかけでもある、学生時代から憧れだった会社へ、晴れて8月より入社が決まった。契約社員でもいいが、何かあった時に休みやすいようにアルバイトにしておいても条件は変わらないそうで、子育てにも理解があるそう。福利厚生はきちんとしており、社員の大半が女性であるが、そのほとんどが産休育休を取得しているという。学生時代に目指したものの破れてしまった夢が叶って、こんなに泣き叫びたい程嬉しかったのはいつぶりだろうと心から喜んだ。

2014年、夏。私は再就職した。

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