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枯渇①

ここからは第二章である。

生まれたばかりの娘と一緒に帰ってきた私は、「良い妻」を演じまくった。食事作りは怠らず、掃除もきちんとし、夫の出勤時には娘を抱っこして駐車場まで降りて見送った。こうしていることで、「これが幸せなんだな」とさえも思えた。だが当然ながら、夫は付き合っていた頃とは確実に違う。嫌いな私と、仕方なく一緒にいるんだなと、そのよそよそしい態度ですぐに感じ取れた。
子どもを可愛がってくれればいいや。こんな私とでも結婚してよかったと、老後にでも思ってくれればいいや。…そう思うことで苦しみを必死に紛らわせていた。
現実、仕事がない自分にはこの子を養っていけないのだから。

娘が産まれる少し前に、電話で夫自身が浮気をカミングアウトしてきた。でも私は知っていた。夫のSNSアカウントに、やたら馴れ馴れしいコメントをしていた、金髪刈り上げの頭の悪そうな女がいたのである。やっぱりな、という意外にも冷静な感情だったが、これ以上痛みを感じないまでに既にズタズタだったのだろう。その後は、その女「せなん」のことは、口にしないように努力していた。言えばどうして掘り返すのかと怒られるから。そして自分自身もますます苦しくなる。ひとりでいると、無心に涙が流れてくる。…だから、心の奥底にしまい込んだ。今思えば、怒れる立場は他の誰でもない、私なのだが。

良い妻のポイントとなるひとつめが、毎月給料日の借金返済ツアー。両親とともに一時帰宅したあの夜に見せられた、莫大な借金である。複数の消費者金融のカードと、それらをまとめるために借りたと言って出してきた、新しく作られた大手地方R銀行。そのR銀行にまとめたと聞いていたがまとめられておらず、AC社に約2〜30万、AI社に約10数万、P社に約5〜60万、そしてR銀行に100万。給料が振り込まれているO銀行ではなくなぜ異なる銀行から多額を借りたのか。…それは、普段利用しているO銀行はクレジットカードの引き落とし口座となっており、すでにリボ払い地獄に陥って借りることができなかったと。私の知る限りで200万ほどはあった。

私の両親は、「借金があると思う…」と私の口から話ていたため想定はしていたはずだが、流石にこれほどまでの金額とは思ってはおらず、私と孫のために「お金を出す」というようなことを言い出しかねないと考え、それ以上は黙っておいた。

これを、毎月の給料日に、各社に返済して回る。カードは糞本人が持っていたため、私は子どもを連れてただ同伴していた。雀の糞ほどの給料なのに、その後家賃と光熱費を払うと残りは2万程度。娘は完全母乳のためミルク代はかからなかったが、食費・日用品費含めての生活費が2万ということになる。いや、2万あればまだ、努力次第でどうにかできていたのだが、残念なことにその後、この地域特有の意味不明なシステム【模合】(もあい)により1万は持っていかれる。

模合(もあい)とは、結論からいうとただの飲み会である。仲間内で決まった額を出し合い、その何割かを積立てておき、メンバーは開催される都度、順番にまとめて受け取れるシステム。例えば12名居たら、年に一回受け取れる臨時収入のような感覚で、それは現金の場合もあれば旅行などの場合もある。積み立てならばわざわざ飲み会に託けなくても自分で貯めたらいいのに。それを口実に月一で飲み会が開催されることが既に無駄遣いでは。と県外出身の私は思うのだが、ここの人達はその非効率的さに気づいていないらしい。しかも、模合のメンバーになると、その周の全員が受け取り終わるまでは抜けることが出来ないなどの暗黙のルールがあり、面倒臭さこの上無いのである。

どうにかやりくりをしてもやはり食費は足りず、足りない分は私の口座から使ったり、私のクレジットカードを使うこともあった。私の携帯代は口座引き落としになっていたが、やがて残高が底を尽きると自動的に借り入れになり、通帳はマイナス表示になっていった。無職の私のカードを切るたびに、とてつもない不安に襲われる日々だった。





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