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MRI検査を受けた話

MRI検査とはmagnetic resonance imagingの略で磁気共鳴画像検査と呼ばれる。

何をするのかについて簡単に話そう。

大きな磁石がある筒の中に入る、その筒には大きな磁場が発生している。その磁場は最強なので体の中の水素原子を震わすほどの能力がある。震えた場所や強さをその筒は読み取り画像として残す。工事現場のような機械音が発生するがCTのように放射線被曝のない検査である。

つまりはこうだ。

でかい磁石のトンネルの中に入って体の中の撮影会!
ちなみに撮影会では愉快な仲間たちによってとっても賑やかになっちゃうけど驚かないでね! 別に害はないよ!あと撮影時間は長いけど絶対動いちゃダメだからね!
というのである。

僕はこの検査を幾度となく受けてきたが一言で表すならば「不快」である。
「不快」はとても苦手だ。痛みには強いという自信はあるのだが不快というものが本当に苦手なのだ。例えばキャベツにイモムシがついていたとする。それほどに農薬のない美味しい野菜なのではと人々は考えるだろう。少なくとも自分の親はそう言ってイモムシを捨てながら調理している。鬼である。
しかし僕はイモムシを見て不快を感じキャベツを丸ごと捨てたくなる。実際捨てはしないが調理継続能力は完全に喪失してしまう。農薬は実に素晴らしい。虫にエンカウントすることなく料理ができるのだから。農薬は体に悪いと言われるが、こちらとしてはイモムシやナメクジを目視することの精神的ダメージの方が大きい。僕は身体に良くなくても心豊かに過ごしたいのである。それくらい「不快」なことが嫌いなのだ。
そんな「不快」な検査であるMRIを受けることは僕にとってはかなりハードルが高いのである。
しかしながら自分は看護師という医療者であり、自分の病態を把握すること、それを果たすためにこのMRI検査の必要性については重々承知なのである。つまりMRI検査をしないと治療が始まらないのである。

そして僕はMRI検査のリピーターであるため毎回だだ不快を享受するような人間ではない。傾向と対策は惜しまないのである。

MRI検査は夜の20時に行われた。僕はその日夜勤明けで前日の朝からこの時間まで不眠であった。この夜勤での肉体的疲労と不眠による眠気を利用しMRIで爆睡するという作戦である。我ながら実に合理的な作戦。すでに眠すぎて検査着を前後ろ逆に着ていた。順調だ。

問診票を記入し呼ばれるとメガネを外すように言われた。困った。メガネを外すと視力は0.003なので何も見えない。検査技師は名札を出しながら挨拶したが何やら難しい名前で聞き取れなかったしなにも見えない。僕がMRI検査中に爆睡したら起こしてくれる予定の方の名前が分からないのは申し訳ないが聞き直すのも検査を長引かせてしまうので聞き流す。もうぶっ叩いて起こしてくれ。検査着を前後ろ逆に着ている僕に横になるように促すと
「ヘッドホンつけますか?」と聞いてきた。

僕は思わず「へぁ?!?!」とマヌケな声を出してしまった。
この質問の意図していることが分からなかった。
何故ならMRIの機械音はとても大きいのでヘッドホンをつけるのが当たり前なのだ「付けますね」ではなく選択肢を与えられたのだ。例えばレジでお買い物して「お返し5010円、お釣りいりますか?」と言われたような驚きである。いや、いるに決まってるだろと。
いやまてよ、最後にMRIを受けたのは他の病院で数年前だ。もしかしたら自分の知らぬ間に科学が進歩し、MRIも進化し音が減弱したのかもしれない。そうならば実に素晴らしい!ノーベル平和賞である。MRIを受けるすべての人々の心に平和がもたらされることを意味する。最高だ。あの大きな音はどこへ行ったのだ?エネルギーは?科学の勝利に乾杯。自分が石油王なら発明者のパトロンを申し出る。

そう考えながら「ヘッドホンお願いします」
と答えた。
何故ならこの名前が難しくてわからない技師が僕のことを「騒音に強いヘヴィメタルバンドのファンかもしれない」と考えているという選択肢が残っている。確かに痛い検査ではないので音と閉鎖空間さえ克服できればなんともない検査である。しかしライブに行っているBABYMETAL程度のたまに聞こえるデスボイスとモッシュではこのMRIの不快な音には耐えられない。そもそも音の種類が違う。しかも僕はMRI検査で爆睡する予定なのだから音が静かだったとしてもヘッドホンはあっても困らないのだ。
こうして僕はいよいよ大変賑やかなちょっと拘束時間の長いカラダ撮影大会を惰眠を貪りながら楽しむのである。

#エッセイ #看護師 #イラスト #MRI検査

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