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家族を見学する


長い連休、ずっと那須の実家にいます。
前半は雨続きだったので、読書がはかどった。

読書はたいてい、お風呂ですることにしています。
携帯を手元に置かないぶん集中できるし、静かだし、汗をかいて澄んだ心で本に向き合える(気がする)し。

おばあちゃんがときどき、「華子がお風呂で浮いてしまっていないか」安否確認に来ます。

これまでは洗面所から声をかけてくれたのですが、最近は耳が遠くなってしまったので、浴室まで入ってきます。しかも、お風呂のフチに腰掛けて、小話をしてゆく。
まるで茶飲み友達の家の、縁側みたいに。

冷え性で靴下を3枚重ね、割烹着まで着用しているおばあちゃんと、裸の私。陸と水辺で、人魚姫のごときシチュエーション。

たとえばこんな話をします。

「華子に染めてもらった爪、デイセンターで誰も気づいてくれないわ。みんな年寄りだから見えてないんだわね(マニュキュアを塗ってあげました)」

「だいちゃんはいつソ連から帰ってくるんだっけ?(親戚がロシアに転勤したのですが、ずっとソ連って言ってる)」

「”令和のふあんふぁーれ”ってテレビで言ってたけど、”ふあんふぁーれ”ってどういう意味だい?」

とかとか。

推理小説がいよいよという場面でも、私は読書を中断し、お喋りに耳を傾けます。
祖母は一通り話したところで「また見学に来るわね」って部屋に戻ってゆく。彼女にとってこれは、訪問じゃなくて見学だそうです。

ひとつ屋根の下、ほかの部屋にいる家族の様子を見学に行くって不思議な感じです。同じ空間にいながら、ぜんぜんちがう物語を生きているのがわかる。

こういうときに改めて、家族とはなんて奇妙で、なんて面白い集団なのだろうと思います。

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