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お看取りの支援

事業所を変わり2か月が過ぎ新しい事業所の雰囲気にも慣れてきた。
仕事の内容は同じなので、戸惑うこともなく自分のやり方で支援する。
現在の事業所は、家庭環境や本人の現在の生活が整っていない困難なケースを依頼されやすい。仕事の効率としては悪いので、依頼する包括支援センターも仕事の依頼しにくいのかもしれない。
務める事業所の管理者は、話しやすく社交的な人で話しやすいのだろう。だからかもしれないが複雑なケースが集まる。事業所カラーなのだと思う。
仕事なのでケアマネにより、負担が多くなりすぎるという欠点はあると感じている。

食事が摂れなくなり、どうしても家に戻りたいという本人の希望で在宅に戻られる男性のケースの担当をさせていただくことになった。
胃がんの既往歴はあるが、今回は専門医の診察は行っていない。
本来なら、高濃度の中心静脈の点滴となるのだが本人の拒否があった。

社会保障が手厚いとされている北欧のスウェーデンでは、福祉サービスを担うコミューンと保健医療サービスを担うランステイングという自治体が国民の医療や福祉や介護サービスの役割を分担している。
コミューンは基礎自治体医が運営しランスティングは広域自治体が運営しており税金と患者の負担により賄われている。
日本には寝たきりの老人は多くいるが、スウェーデンには殆どいないという。コミューンでは在宅介護が基本であり、独居でもコミューンで面倒をみる。
日本は家制度を大切にするという昔からの考えがある。
要介護区分が高くなるほど介護保険制度のみでは自立した生活は送れない。そのために家族支援も重要な役割を占めている。
家族も支援者なのでキーパーソンと呼ばれる家族の意見が大きく反映することが多い。
それでも日本の歴史から家族は大切なものという固定観念が多くの人にあるので介護離職しても家族が介護することがある。
良くも悪くも家族単位の幸せ感を求めている人も多い。
本人と家族の意見が一致することが必要であるが、そうでない場合も多い。
ケアマネジャーには、悩まされる部分だと感じる。
スウェーデンでは、『食べられなかったらそこが寿命』という考えがあるそうである。
家族の意向で胃ろうや点滴で最期の寿命を延ばすことを選択する人もいる日本とは考え方が違う。
国民の幸福度ランキングは、はるかにスウェーデンが上位だ。
時代と共にが多様化し変容していくといいながらも、国民性の根底に流れるものが変化するには時間が掛かる。

その要介護5の男性利用者は、自分の意向を伝えることができたので住み慣れた家に戻られた。
娘様二人も通われて高齢な妻の介護に加わった。
お酒が好きだったようで白ワインを飲みたいといい、少しであるが嗜んだ。妻の料理や好物のお刺身を召し上がった。妹さんのお見舞い品のマカロンを美味しいと仰って一つ召し上がった。
退院時カンファレンスで、本人より家族の気持ちが大きい様に感じたが、可愛がっていた初孫のご結婚の会に出席することを目標にされた。
在宅の介護サービスは定期巡回型訪問介護と医療保険の訪問看護と福祉用具貸与。お祝いの日には、介護タクシーやリクライニング車いすを手配した。
お祝いの会が近づき数日前より発熱があったが、当日の朝には下がった。
家族の介助で礼装に着替えられ外出の準備ができた。
ところが主役である初孫も集まったところで、本人から「おれは今日は行けない。きっともうすぐ終わりと思う。」と仰った。
そうして、家族みんなでお別れの挨拶を交わしたそうである。
初孫は男性であるが、毎日のように家に遊びに来ていたというその思い出深い家で祖父と抱擁し合い、涙でお別れをされたそうである。
体調不良もあるが、自分でいかないという勇断をされた利用者様は立派だと思う。
私としては、都心まで一時間もタクシーに乗車しなくてはならないことや長時間の車いすでの会食を考えるととてもじゃないけれど無理と考えていた。でも私からは伝えなかった。医師にも確認はしたが医師も事前には止めることはしなかった。

数日後に息を引き取られた。
とても良い家族だと感じたし、そのお祝いのイベントがあったからこそお別れができた。残った家族には、お父様の家族を思い遣る気持ちを中心とした温かい絆が残ると感じた。
家族の支援が充実していたからこそ心温かいお見送りとなった。

様々な事情で家族関係は良好とはいえない家族は多い。だからこそ、今回のケースは支援者である私にも特別な支援として心に残る。
現代や未来の日本では、家や家族に見送られるということが、独身者が多く子供も居ない人も増えている為に難しい人が多くなる。
資本主義の日本では、税金は高い大きな政府のウェーデンのようにへ直ぐに変革はできないのは事実。
でも日本の皆保険の社会保障も見直すことが必要だと思う。コミューンが支援するような日本の制度にできないだろうか。

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秋の訪れを告げる彼岸花だが、今年は酷暑の影響なのか色が薄目だそうである。利用者様との訪問の仕事の合間に公園に立ち寄り気持ちを切り替えることがある。
その公園に咲く彼岸花も深い赤ではなく、鮮やかな色合いだった。色合いに可愛らしいさを感じた。
過ごしやすい季節となったが、酷暑も終わり暑さが無くなってみると何故か懐かしさも感じるものだ。人の感情は難しいし、共有することもさらに難しい。






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