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【競馬コラム】へこたれない男たちーキーファーズの武豊愛、ついに結実

今の武豊を支えているのは間違いなく「情熱」だ。ノーザンF系の各クラブから有力馬を任される可能性は限りなくゼロに近い現状で、G1を意識できる大物と出会えるとしたら、主戦として扱う個人馬主さんが「当たり」を引くしかない。

その中でも群を抜いて課金を続けてきたのがキーファーズの松島正昭代表。「武豊と凱旋門賞を勝つ」を合言葉にセレクトセールで高額馬を次々に落札するばかりか、日本馬の遠征では実現が難しいとなれば欧州クールモアグループに直談判して所有馬を譲り受けるなど、あの手この手でガチャを回し続けてきた。

だが現実は厳しいものである。馬主デビュー直後に走っていたラルクやプリュスなどはG1には到底及ばないレベルに終わってしまったし、シャンパンドーロの仔で2億円以上の高値で落札されたカザンも全くの不発に。いつぞのお正月競馬でデビューし、壮絶に沈んだのは今も記憶に残っている。新馬勝ちから野路菊Sも圧勝を果たしたマイラプソディが出た時は「ついにSSRを引いたか!」と確信に近い感覚があったのだが、あえなく失脚。完全にコントレイルの引き立て役に終わってしまった。

しかし、これしきのことでキーファーズ軍の情熱が冷めることはない。経営者としても大成功を収めた人物のバイタリティを舐めてはいけないのだ。今年のジャパンCでは、元クールモア勢のブルームとジャパンを出走させ、ジャパンには武豊を起用するというクエストも達成。そしてついに、白とグレーの市松模様を身にまとった武豊がG1の表彰台に上がる日がやってきた。しかもそれは、日本競馬のレジェンドが不思議と今まで縁のなかったタイトル・朝日杯フューチュリティSだった。

殊勲のドウデュースはマイラプソディと同じハーツクライ産駒で、管理するのも友道康夫厩舎。小倉でのデビュー戦、アイビーSとともに僅差の勝利ながら、鞍上の手応えからは余力も十分に感じられる内容だった。追い切りもよく動けるし、初経験のマイル戦もこなせる気配は感じさせていた。

レース内容もパーフェクトの一言。JRA公式映像でスタートから25秒くらいのところでドウデュースが映るんだけど、促すでもなく引っ張るでもなく、絶妙のさじ加減で気持ち良さそうに流れに乗っている。荒れた内を避け、包まれる心配もないポジショニング。これを見た瞬間に「ああ、これは来るな」と確信した。
直線に向くと、ちょうど目の前にいた1番人気のセリフォスのすぐ外に持ち出してスパート開始。前2走と同様スムーズに加速すると、しぶとく食い下がるセリフォスと、内から忍び寄ってきたダノンスコーピオンを抑える形で勝利。

その瞬間、阪神競馬場からは万雷の拍手が沸き起こった。馬券が当たった人も外れた人も、自分のことはしばし忘れて祝福したくなる..それが武豊という存在だ。
19年菊花賞以来、2年2ヶ月にわたるG1勝利のブランクは自身最長。それまでの自己ワーストであった10年ジャパンC→12年マイルCSの間には落馬負傷による長期離脱もあったが、今回に関しては軽度の負傷こそあれどコンスタントに騎乗は続けられていた。にもかかわらず大舞台からの縁が遠くなっていたことが、冒頭にも記した現状の厳しさを物語っていたわけだが..

それでも、キーファーズ軍が諦めないのと同じように、このレジェンドも決してへこたれるところを見せない。結果が出なくても「もっとうまく乗れるよう努力するだけ」と前だけを見据えてきたからこそ、全盛期より成績は落としても惹かれる人々は後を絶たない。彼らの情熱や執念がある限り、生涯の大目標である凱旋門賞への可能性も灯り続けるのだ。

1番人気のセリフォスはほぼ力を出し切っての2着。これだけの締まったペースを経験したのは初めてだったが、戸惑うことなく好位からレースを進められた。
惜しむらくは、テンからやや促し気味に出して行って、その後ほんの少しブレーキをかける形になったのがロスだったようにも思うが、仕方ない範囲。クリスチャンは2週連続の1番人気で勝ち切れない結果に終わったが、今日に関しては「空気が読めるイタリア人」であることに多くの競馬ファンは安堵したことだろうw

3着のダノンスコーピオンも少頭数のスローペースしか経験がなかったのが不安視されたが、問題なく適応。4角で外は捨てて馬群を割る形を選んだのも好判断だった。こういう競馬ができれば皐月賞くらいまではこなせるかな..
アルナシームは訳あり物件を任された時の池添謙一らしい思い切った策。あの形で伸び負けたのは現状の力量差と認めるしかないだろう。

問題はジオグリフである。直線入り口での不利もあったが、追い込み届かず5着まで。エンジンがかかったタイミングではもう絶望的な位置に置かれていた。
この馬についてはtwitterでも言及したし、先日のクラシック候補特集でもわざわざ取り上げたように、あちこちで「そこまで強くない」と触れて回っていただけにこの結果にはホッと胸をなで下ろしているところである。

しかも当日の阪神芝のレースを見ていると逃げ馬はみんな直線で馬場の内側を避け真ん中まで出てくる傾向に。すると二列目の馬はさらにその外を回ることになり、追い込み勢は外ラチ沿い近くまで出ていくハメに..こんなコンディションで直線一気なんてまず無理。

せっかくなのでジオグリフを軽視した馬券も買おうかと考えていたのだが、うまい組み合わせを作れなかったので結局パス。もし買ってたらたぶんセリフォスの単勝に厚く入れて、馬連でドウデュース本線のオタルエバー・プルパレイあたりを押さえみたいな形にしていたと思うので、ゴール前で態勢が変わった瞬間「やめてー!」と叫んでたことだろう。武豊の勝利を素直な気持ちでお祝いできてよかったw

先週の阪神ジュベナイルFに続き、目利きはなかなかうまくいっている手応えがあるのでホープフルSは自信を持っていこう。もうだいたい馬券をどうするかも決めている。

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