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【競馬コラム】金杯を特別扱いするのは、もうやめにした

金杯のパラダイムシフトを感じる、ここ数年である。もちろん正月競馬のメインを飾る名物重賞という位置づけに変わりはないものの、かつてのお祭りムードに比べると少し物足りない気がしてならぬ。

まずは日程の影響が大きい。かつては有馬記念が年末の開催最終日で、だいたいクリスマス前後にフィナーレを迎えることが多かった。そこから翌年の1月5日までの、いつもよりほんの少し長いブランクが金杯への期待感をより高めてくれた。有馬記念の翌日に「週刊競馬ブック」を買い、発表された金杯のハンデを後から書き込んだりしながら、ひたすら月日が過ぎるのを待ったものだ。
未だに忘れられないのが2002年。有馬記念が12月22日に終わってしまったもんだから、翌年の金杯まで丸二週間も中央競馬が休みに入るという苦痛を味わった。当時はまだ大学生で時間も持て余し、競馬に対する依存度は現在とは比べものにならないレベル。まさに「もういくつ寝ると~♪」の心境だった。

ところが現在は28日にホープフルSが組まれるのが通例となり、そのちょうど一週間後に金杯がやってくる「いつも通り」の間隔で競馬が開催されることに。ゆっくり1年を振り返る間もなく次の競馬がやってくるサイクルは、ファンの心情を確実に変化させた。

出走メンバーも変わった。金杯なんてしょせんは1着賞金4,000万円そこそこのG3であるにもかかわらず、かつては前年のG1で好走してきた強豪がズラリと名を連ねる傾向にあった。特に京都金杯はその色が強く、中でもダイタクリーヴァ、エイシンプレストン、アグネスデジタルが揃って出走した01年なんて今となっては正気の沙汰とは思えない。前年のマイルCSで勝ち負けした明け4歳馬が出てくるなんて、今で言えばシュネルマイスターがハンデ58kgを承知で参戦してくるようなもんですよ。サンデーレーシングの会員さんブチギレ案件でしょうw
それだけ縁起にこだわる昔気質の調教師や馬主さんが多かったってことですよね。クラブ法人の運営側や出資者とは共鳴できるとは思えない価値観。どちらが良いとか悪いとかいう話ではなく。

そんな空気の変化を感じ取りながら、いよいよ馬券に対する熱意も冷めてきている。かつては「金杯で乾杯! ウェーイ」などと定番のセリフを吐きながら正月競馬特有の難しさを前に撃沈するのがデフォだったが、ここ3年ほどは馬券も買わないようになった。1回京都Aコースの馬場特性をつかんでからは何度かおいしい想いもさせてもらい、京都金杯は今でも年間の「買えるレース」の一つとしてノミネートされ続けてはいるのだが、いかんせん出走馬のレベル低下もあってピントの合った予想ができず..そもそも普段はG3のハンデ戦など見向きもしないのに、「金杯だから」とヒートアップしてしまうこと自体が間違いだったのだ。それに気づけたのは大きな収穫だった。

2022年の京都金杯も、参加していたら大爆死不可避の波乱劇。勝ったザダルはワンターン1800mでこそのタイプだと思い込んでいただけに、平均ペースのマイル戦をこなして末脚炸裂となればもうお手上げである。そして2着にダイワキャグニーが粘り込む難しさ。もちろん買えなくはない、買えなくはないけれど、この横一線のメンバーの中から重い印を打つのは果てしなく難しかったことだろう。

一方、このところ傾向がわかりつつあったのが中山金杯。少々ハンデが重かろうが、先行してゴリ押しできる実績馬を素直に信用すればよいという感覚で「トーセンスーリヤしかなくね?」と馬券を買うか検討を重ねたのだが、どうもウインブライトやトリオンフと同等の格を備えているようには思えなかったのでパス。すると好位追走から伸びあぐねて5着。距離実績と鞍上に不安を感じたレッドガランの快勝と合わせて、やめといてよかった事案となったのである。

ファンの肌感覚のみならず、現場のホースマンの価値観も変わりつつある今、もはや金杯は特別な存在ではなくなった。馬券を当てたからといって1年の成功が約束されるわけでもないし、さらに言えば馬券もどんどん難しくなってくる。にもかかわらず未だに「1年の計は金杯にあり」と呪文を唱えながら、他のG2G3よりも高い売上金を誇り続けているのだから因果な話である。年始早々から手痛い目に遭った大多数の人々の惨状を察しながら、こうして冷静な目と心を養うことが、競馬を楽しみながら馬券で悔しい思いをせずに済む大事なコツなのだ。

それでも新たな1年を迎えた清々しい気持ちで見守る新春競馬の楽しさは揺るがない。初日からゴールドシップ産駒のマカオンドールが1番人気の応えて万葉Sを勝利。道中はやや鞍上との呼吸を乱しながら、勝負どころでも外に出せず内ラチ沿いを特攻する形になったが、僅差の勝負をモノにした。まだ気性面の課題を抱えてはいるものの、春の天皇賞参戦も現実味を帯びてきた。
中山7Rでもアオイゴールドが人気薄ながら逃げ切り勝ちを収め、ゴールドシップ産駒は2勝を挙げる幸先のよいスタート。万葉Sが終わった瞬間にはもしかしてリーディングサイアーの座に君臨したのではないかというのも、1年の幕開けならではのネタである。

今年も、いいレースがたくさん見られますように。

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